エビデンス:HOMED-BP

※本コンテンツはメディカルレビュー社 『高血圧ナビゲーター第2版』 第6章EBMより、出版社の承諾のもと一部改変し掲載しております。
※本コンテンツに掲載された記事には海外で実施された試験が含まれており、本邦で承認されている効能・効果および用法・用量とは異なる場合があります。
Hypertension Objective treatment based on Measurement by Electrical Devices of Blood Pressure
浅山敬(東北大学大学院薬学研究科/病態制御学講座臨床薬学分野)
今井潤(東北大学大学院薬学研究科医療薬学講座/東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座臨床薬学分野)
HOMED-BP研究は、わが国発のエビデンス構築を目的として日本人の高血圧患者を対象とし、最適な降圧薬群ならびに家庭血圧に基づいた至適降圧レベルを探索する大規模介入試験である。
目的と背景
高血圧の大規模介入試験が世界各国で実施されているが、これらの結果は人種・社会的環境の差を考慮して解釈・適用しなければならない。わが国における独自のエビデンス構築の重要性は明らかであるが、わが国の高血圧領域の大規模介入研究はまだ揺籃期にある。逆に本来、研究立国を指向するわが国としては、地域差を超えて世界に通用する確たるエビデンスを多く発信して然るべきであるが、現状は大きく立ち遅れている。
また、家庭血圧における至適血圧や正常高値血圧、さらには降圧目標基準などの詳細な分類基準はいまだ確立されていない。真の降圧目標を決定するための、家庭血圧を用いた大規模介入試験も、世界的に皆無といってよい状況にある。HOMED-BP研究は日本人による日本人のためのエビデンスの構築を目的に掲げているが、同時に世界へ向けたエビデンスの発信を企図する研究でもある。
対象症例
対象は40〜79歳の軽〜中等症の本態性高血圧患者である。
評価項目(エンドポイント)
本研究の一次評価項目(primary endpoint)は致死性ならびに非致死性脳・心血管障害の発症であり、二次評価項目(secondary endpoint)として心不全・腎不全や末梢血管疾患、悪性新生物、肺炎、糖尿病などの発症、その他あらゆる原因による死亡が設定されている。
プロトコール
試験方式には、ランダム割付された投薬の内容を医師・患者ともに正しく把握しているが、予後などの評価指標と投薬内容との関連性は割付内容を知らない独立した評価者が判定するPROBE(前向き・ランダム化・オープンラベル・エンドポイントブラインド)法を採用している。本研究の最大の先進性は、家庭血圧を中心としたほとんどの医療情報と治療指示とが、各医療施設のコンピュータ端末と東北大学のホストコンピュータ(サーバ)との間で双方向に伝達される点にある。
本研究の対象患者は、試験参加に口頭で同意したうえでホストコンピュータに仮登録され、専用の家庭血圧計を手渡される。その後、次回の受診時まで降圧薬を一切服用しない状態で、日本高血圧学会の家庭血圧測定ガイドラインに準拠した方法で家庭血圧を毎日測定する。次の外来受診時に、主治医は患者の状態がエントリー基準に適合していることを確認したうえで、正式に文書で参加同意(インフォームド・コンセント)を得て本研究に患者を登録する。こうして登録された患者は、3系統の第一選択薬(Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARB)と、2階層の降圧目標レベル(高値目標群:収縮期125〜135mmHgかつ拡張期80〜85mmHg、低値目標群:収縮期125mmHg未満かつ拡張期80mmHg未満)について、それぞれ独立にホストコンピュータによって完全ランダム割付され、第1ステップ(降圧薬の単剤使用)として治療ならびに試験追跡が開始される(図)。

図 HOMED-BP研究フローチャート
治療法
症例登録以後、外来受診時に患者が持参した家庭血圧値が毎回ホストコンピュータに転送され、ホストコンピュータは患者の朝の家庭血圧値と降圧目標レベルによって、第2ステップ:第一選択薬の増量、第3ステップ:少量の利尿薬の追加、第4ステップ:β遮断薬またはα遮断薬の追加、第5ステップ:中枢性交感神経抑制薬または任意の降圧薬の追加と、ステップ上下の指示を示す。HOMED-BP研究では、この治療内容の最終決定権が常に主治医の手に委ねられており、ステップに従わない降圧薬の処方も可能な限り許容して柔軟に治療ならびに試験が進められるように設計されている。受診頻度や降圧薬以外の併用薬にも厳格な規定を設けていないため、試験参加医師の側としては本研究を通じて、日常診療の延長として家庭血圧に基づいた質の高い高血圧治療が実施できることになる。
結果
HOMED-BP研究は先行準備期間を経て、2002年5月から本格的に開始された。2007年3月末までに4,977名が登録され、3,130名のランダム割付が行われている。このデータを用いた中間解析では、家庭血圧の推移に薬剤間の有意差は認められなかった。一方、本来大きく異なるはずの降圧目標レベル別の家庭血圧推移は、割付30カ月後であっても収縮期・拡張期ともに、有意ではあるが2〜3mmHgの差にとどまっていた。過去に比し効果の高い降圧薬使用が可能な現在においてさえ、全体の半数近くが第5ステップに到達していることから、治療抵抗性高血圧の存在が考えられた。また、収縮期の降圧目標未達成例の特徴は、比較的高齢、開始時の収縮期血圧・脈圧が高値であった。逆に、投与開始6カ月時点で、低値目標群の未達成者の投与薬剤数は平均2剤にとどまっており、薬剤追加に伴う医療費負担増・服薬コンプライアンス悪化への危惧、さらなる治療強化への主治医側の躊躇などの要因が示唆される。
結論
本研究は日本人の高血圧患者を対象とした数少ない大規模介入試験である。血圧の不十分なコントロールはわが国の高血圧医療の課題であり、本研究の主要目的である「脳・心血管リスクに基づいて家庭血圧の至適降圧目標レベルを明らかにする」ためには、とくに降圧目標低値群におけるさらなる降圧治療の強化が必要である。本研究を通じて、家庭血圧に基づいた降圧治療のアルゴリズムや家庭血圧の至適降圧レベルに関するエビデンスの構築、また日本の医療経済体制の中で研究者主導型の大規模介入試験を行う際の貴重なノウハウの蓄積が期待される。
Recommended Readings
- Fujiwara T et al : Blood Press Monit 7 : 77-82, 2002
- Asayama K et al : Hypertension 48 : 737-743, 2006
- Hosohata K et al : Clin Exp Hypertens 29 : 69-81, 2007

