エビデンス:PROGRESS

※本コンテンツはメディカルレビュー社 『高血圧ナビゲーター第2版』 第6章EBMより、出版社の承諾のもと一部改変し掲載しております。
※本コンテンツに掲載された記事には海外で実施された試験が含まれており、本邦で承認されている効能・効果および用法・用量とは異なる場合があります。
Perindopril Protection Against Recurrent Stroke Study
尾前照雄(久山町ヘルスC&Cセンター)
脳卒中慢性期の降圧療法(ペリンドプリル+インダパミド)は、高血圧の有無を問わず脳卒中の再発を防止し、生活機能と認知機能にも好影響を与えた。4年間にわたる日本、中国を含む10カ国国際共同研究の成果である。
PROGRESSとは
PROGRESSはPerindopril Protection Against Recurrent Stroke Studyの略で、脳卒中慢性期におけるACE阻害薬ペリンドプリルの効果を検討する国際的多施設共同試験である。1996年に開始されたプラセボ投与群を対照とした二重盲検試験で、参加国はスウェーデン、英国、アイルランド、フランス、ベルギー、イタリア、オーストラリア、ニュージーランド、中国、日本である。
対象疾患は、くも膜下出血を除くすべての脳卒中病型(一過性脳虚血発作を含む)とし、発病後症状の安定した1カ月後から5年以内、自力で外来通院可能、年齢は原則として80歳未満とした。書式でインフォームド・コンセントをとり、観測期間にペリンドプリル2mgを2週間、4mgを2週間投与して安全性と忍容性を確かめてランダム化し、ペリンドプリル4mgあるいはそのプラセボを投与して4年間経過を観測した。より十分な降圧を期待する場合にはインダパミドを追加投与した(図)。登録時の高血圧の有無は問わず、ACE阻害薬以外の降圧薬、抗血小板薬、高脂血症用薬などの併用はすべて可とした。
ランダム化のあと、1年ごとに中間評価を行い、通院しなくなった症例には4年間にわたって可能な限りの追跡調査を行った。評価項目は脳卒中の再発(死亡、非死亡)、心血管合併症(死亡、非死亡)、認知機能、身体障害・日常生活能力、死亡(感染症、癌など)とした。わが国ではCT検査が普及しているので、CT所見の推移を独自に観察した。ランダム化された症例数は172施設6,105例のうち、日本は33施設815例であった。

図 PROGRESSの試験方法
主な成果
インダパミド併用例、非併用例を合わせた6,105例の平均年齢は64歳、女性が30%、東洋人が39%、試験開始時の血圧の平均値は収縮期147mmHg、拡張期86mmHgで、高血圧48%、降圧薬治療あり50〜51%、脳卒中の病型は脳出血11%、脳梗塞71%、TIA・一過性黒内障22%、病型不明4〜5%であった。ペリンドプリルをベースとした治療群3,051例、プラセボ群3,054例で、性、年齢、東洋人の割合、血圧値、脳卒中の病型頻度には差がなかった。
ペリンドプリルをベースとした治療群は、プラセボ群に比し脳卒中再発率は28%減少、心血管事故は26%減少した。脳卒中の病型では脳出血が50%、心血管事故では非致死性心筋梗塞が38%減少した。血圧は収縮期血圧9mmHg、拡張期血圧4mmHg低下、高血圧群、非高血圧群ともほぼ同程度の降圧効果が得られ、脳卒中再発頻度の減少もほぼ同程度であった。ペリンドプリル単独投与群とインダパミドを併用した群を比べると前者の降圧は5/3mmHg、後者は12/5mmHgで脳卒中再発率の減少はそれぞれ5%、43%で、後者でのみ有意であった。サブ解析の成績からは、血圧が115/75mmHgまで下がっても悪影響はみられなかった。また、ACE阻害薬の副作用とされてきた咳は、東洋人において誤嚥性肺炎の予防につながる可能性がある成績が示された。
認知症(痴呆)に関しては脳卒中再発患者ではリスクが34%減少し、プラセボ群との差は有意であった。
以上をまとめると、この大規模国際共同研究は慢性期の比較的軽症の脳卒中症例に対する降圧療法の有効性を明確に証明した。使用した薬物はACE阻害薬のペリンドプリルをベースとし、これに利尿薬のインダパミドを併用し、血圧をより下げた群に有意な効果が認められ、投与開始時の血圧レベルにはほとんど左右されることがなかった。血圧レベルと脳卒中再発率の間にJカーブ現象は認められなかった。
脳卒中再発予防へのインパクト
本研究以前には、脳卒中罹患後の降圧療法の有用性に関しては若干の報告があるが、確たる証拠が得られていなかった。PROGRESSはこの問題に一つの解答を与えた。脳循環には自動調節能があり、血圧が動揺しても血流は一定に維持されているが、高血圧が維持するとその機能する血圧の閾値が上昇することが知られている。また、脳に病変が起こるとその機能が障害され、脳循環は血圧依存性になる。そのような状況下で血圧が下がると脳虚血が起こりやすくなると考えられて、脳卒中患者の血圧管理には降圧のレベルにも注意を要すると一般に考えられてきた。神経内科医にその傾向が強かったといえよう。
比較的軽症の脳卒中慢性期の降圧療法は有効かつ安全であることが証明された。わが国では利尿薬は血液濃縮の危険性も危惧されていたが、利尿薬の併用は降圧とともに脳卒中の再発を予防することにも有効性が示された。
脳卒中の一次予防における降圧療法の有用性は早くから確立されていたが、二次予防(再発予防)にも有用性が高いことをPROGRESSは明確に示した。世界の代表的な高血圧治療のガイドラインにもこのことが記載されている。
用語解説
二重盲検(法):被験者および判定者の心理的効果(プラセボ効果)を回避するため被験薬と外見が同じである対照薬(薬理活性のないプラセボまたは薬理効果の定まっている標準薬)を用意し、被験者、判定者のいずれにもどちらが投与されているかを知らせずに行う最も信頼性の高い薬効評価法である。
略語
ACE:ngiotensin converting enzyme
CT:computed tomography
TIA:transient ischemic attack
Recommended Readings
- PROGRESS Collaborative Group : Lancet 358 : 1033-1041, 2001
- 尾前照雄 : 日本における大規模臨床試験のあり方−国際共同研究PROGRESSの研究から。日本医事新報社、東京、2003, pp 1-107
- Fransen M : Stroke 34 : 2333-2338, 2003
- Chapman N et al : Stroke 35 : 116-121, 2004
- Arima H et al : J Hypertens 24 : 1201-1208, 2006

