エビデンス:SCOPE

※本コンテンツはメディカルレビュー社 『高血圧ナビゲーター第2版』 第6章EBMより、出版社の承諾のもと一部改変し掲載しております。
※本コンテンツに掲載された記事には海外で実施された試験が含まれており、本邦で承認されている効能・効果および用法・用量とは異なる場合があります。
Study on Cognition and Prognosis in the Elderly:principal Results of a Randomized Double-blind Intervention Trial
大槻俊輔、松本昌泰(広島大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経内科学)
SCOPEは主として後期高齢者にARBであるカンデサルタンにより降圧を行い、主要心血管事故の発症リスクや認知機能低下に対する抑制効果を検討した研究である。
目的と背景
高齢化社会が先進国では急速に展開され、認知症の急増が社会的問題となることが危惧される。アルツハイマー型認知症や脳卒中後の脳血管性認知症が主たるもので、前段階として存在する軽度の認知機能障害と高齢者の高血圧との関与が示唆されている。本研究では後期高齢者を含む軽・中等症の高齢者高血圧症を対象とし、ARBカンデサルタンを用いた降圧療法による主要心血管事故の発症リスク、および認知機能低下に対する抑制効果について検討を行った。
対象症例
年齢70〜89歳、14日以上の観察期間前後の収縮期・拡張期血圧がそれぞれ160〜179・90〜99mmHgを呈する軽・中等症の高齢者高血圧患者である。降圧薬服用者ではヒドロクロロチアジド12.5mg/日に変更して観察開始し、同時にmini-mental state examination(MMSE)スコア24以上である症例を選択した。なお二次性高血圧、起立性高血圧、6カ月以内に脳卒中や心筋梗塞の既往のあるものや非代償性心不全症例を除外した。
評価項目(エンドポイント)
主要評価項目:主要心血管事故(心血管死、非致死性脳卒中、非致死性心筋梗塞)。
副次的評価項目:MMSEによる認知機能・認知症、総死亡率、心血管系死亡率、致死性・非致死性心筋梗塞、致死性・非致死性脳卒中、新規の糖尿病発症率。
プロトコール
15カ国527施設の国際的、ランダム化二重盲検前向きプラセボ対照比較試験であり、4,964症例が登録された。追跡期間は1997〜2002年まで、観察期間を3〜5年とした。
治療法
次のステップにおいて、薬剤の増量・追加投与を行った。ステップ1:試験開始時カンデサルタン8mg/日、あるいはプラセボを投与。ステップ2:収縮期血圧160mmHg以上、拡張期血圧85mmHg以上、収縮期血圧の低下が10mmHg未満のいずれかのとき、カンデサルタンあるいはプラセボを2倍量投与する。ステップ3:収縮期血圧160mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上の場合、他の降圧薬(ACE阻害薬やARB以外)を追加投与する。
結果
カンデサルタン群(開始時166.0/90.3から145.2/79.9mmHgまで到達)はプラセボ投与対照群(開始時166.5/90.4から148.5/81.6mmHgまで到達)と比し有意な降圧効果を示し、その降圧度の差は3.2/1.6mmHgであった。主要心血管事故の発症リスクはコントロール群30.0/1,000人・年、カンデサルタン群26.7/1,000人・年で10.9%抑制されたが有意ではなかった(図)。この中で心血管死、非致死性心筋梗塞に比べ非致死性脳卒中の発症リスクが、カンデサルタン群では7.4/1,000人・年とコントロール群の10.3/1,000人・年と27.8%有意に抑制された。全脳卒中の発症リスクは、カンデサルタン群で23.6%抑制されたが統計学的有意差に至らなかった。また、認知機能の評価としてMMSEスコアの変化は両群間において有意差は認めなかった。

図 Kaplan-Meier曲線:初発主要心血管事故(文献(1)より引用)
結論
カンデサルタンを軸として収縮期血圧を145mmHgまで降圧する厳格な治療は高齢者にも忍容性が高く、非致死性脳卒中の発症リスクを軽減したことが初めて示された。今回、認知機能の低下は両群ともほとんど起こらなかったが、層別解析によるとMMSE24〜28の軽度認知機能障害患者における進行抑制が認められた。また、高齢者高血圧で薬剤追加なしの症例だけのサブ解析によると、主要心血管事故を32%有意に抑制し1)、高齢者の収縮期高血圧に限ったサブ解析によると、脳卒中は42%も発症抑制できた2)。また、不安、健康・幸福、現在の健康度等のQOL改善は、カンデサルタン群のほうが多く示された3)。以上、高齢者高血圧に対する降圧療法の有用性と忍容性が示されたが、同時に認知機能の低下を抑制してQOLを高める付加価値がARBカンデサルタンに存在するのではないかと示唆させるものである。
用語解説
MMSE:(mini-mental state examination)
見当識、短期記銘力、暗算、文章理解や作成、図形の模写などにより、外来やベッドサイドで高次機能を簡便に評価する検査とされ、正常は30点満点である。
Recommended Readings
- Lithell H et al : J Hypertens 21 : 875-886, 2003
References
- Lithell H et al : J Hypertens 22 : 1605-1612, 2004
- Papademetriou V et al : J Am Coll Cardiol 44 : 1175-1180, 2004
- Degl'Innocenti A et al : J Human Hypertens 18 : 239-245, 2004

