エビデンス:ACCESS

高血圧ナビゲーター

※本コンテンツはメディカルレビュー社 『高血圧ナビゲーター第2版』 第6章EBMより、出版社の承諾のもと一部改変し掲載しております。

※本コンテンツに掲載された記事には海外で実施された試験が含まれており、本邦で承認されている効能・効果および用法・用量とは異なる場合があります。

Evaluation of Acute Candesartan Cilexetil Therapy in Stroke Survivors
中村智実、内山真一郎(東京女子医科大学神経内科学)

脳梗塞急性期における降圧は原則的に行わないほうがよいとされている。しかし、本試験では脳梗塞発症早期からのARBであるカンデサルタン投与によって、3カ月以降の心血管事故の発症が有意に抑制された。

目的と背景

脳卒中急性期の降圧療法は以前から議論の的になっている。脳虚血により壊死した組織周辺(虚血ペナンブラ)の脳血流は自動調節能が障害されているので、血圧依存性になると考えられている。したがって、脳梗塞急性期の降圧は原則的に行わない。一方、脳梗塞急性期の緩徐な降圧は予後を改善するとの報告もある1、2)。さらに、ARBの心臓や腎臓に対する降圧を超えた臓器保護作用から、脳梗塞急性期に対するARBの有用性も期待される3)
本試験は脳梗塞発症早期のカンデサルタン投与による適度降圧の安全性と今後の第III相試験の対象症例の必要数検出のためにデザインされた試験である4)

対象と方法

本試験はランダム化多施設二重盲検比較で行われた。
対象は運動障害を伴う脳梗塞急性期の高血圧患者で、入院後6〜24時間に2回以上測定した血圧平均値が収縮期血圧(SBP)≧200mmHgかつ、または拡張期血圧(DBP)≧110mmHg、もしくは入院後24〜36時間にSBP≧180mmHgかつ、またはDBP≧105mmHg)である者。ただし、85歳以上、同意を得るうえで障害となる意識障害、内頚動脈の閉塞または70%を超える狭窄、悪性高血圧、NYHA分類IIIおよびIVの心不全、高度の大動脈もしくは僧帽弁狭窄、不安定狭心症などは除外。
早期カンデサルタン群は4mg/日から開始、24時間以内に10〜15%の降圧を目標とした。第2日目にSBP>160mmHgまたはDBP>100mmHgの場合、カンデサルタン8〜16mg/日に増量した。早期プラセボ群は1日目から6日目まではプラセボを投与した。両群で7日目以降、日中平均血圧値>135/85mmHgの場合は、早期カンデサルタン群ではカンデサルタン増量または他の降圧薬を追加投与し、早期プラセボ群ではカンデサルタン4〜16mg/日開始、または他の降圧薬を追加投与した。
一次エンドポイントは7日間のプラセボ対照期間終了3カ月後までの脳出血、脳卒中再発、意識状態の低下、脳浮腫の進行による死亡、神経機能障害[Barthel Index(BI)による評価]の悪化、および心血管事故、心不全の発症。二次エンドポイントは退院12カ月後までの総死亡、脳・心血管事故の発症。

結果

500名が試験に予定されたが、エンドポイントに大きな差が出たので342名をランダム化したところで試験は中止され、339名が解析された。年齢(早期カンデサルタン群vs早期プラセボ群:68.3vs67.8歳)、性別、血管リスク、発症から試験開始までの時間(29.9vs29.7時間)に有意差はなかった。
早期カンデサルタン群と早期プラセボ群に入院時血圧(196/103vs199/102mmHg)と試験開始時血圧(188/99vs190/99mmHg)の有意差はなく、また、その後の試験期間を通しても血圧の有意差はなかった。
試験開始時および3カ月後のBIは有意差を認めなかった。ただし、両群とも試験開始時のBIの分布がU-shapeであったため、今回の症例数ではBIを評価するのに適切であるとはいえない。一方、1年後の累積血管事故発症リスクは早期カンデサルタン群で有意に47.5%抑制された[早期カンデサルタン群vs早期プラセボ群:17(9.8%)vs31(18.7%)]()。その内訳は致死性・非致死性脳血管事故13vs19に対し、心血管事故は2vs10と早期カンデサルタン投与によるイベント低減効果は心血管事故の抑制によるところが大きかった。

累積死亡、血管事故発生率

図 累積死亡、血管事故発生率

考察

脳梗塞発症直後の7日間のカンデサルタン早期投与が心血管事故の発症率と死亡率を有意に抑制したが、その機序は不明である。本試験では両群に試験期間を通じて血圧の差がなかったので、降圧効果で結果を説明するのは困難である。一方、アンジオテンシンIIがG蛋白やMAPキナーゼを介する細胞内シグナル伝達系を活性化させることで血管の収縮やリモデリングに影響を与えることが知られており、これらに対するカンデサルタンの拮抗作用が関与した可能性がある。また、中枢性自律神経調節機構の障害が心筋梗塞による死亡の増加と関連するとの報告5)から、早期からの脳虚血後の局所アンジオテンシンIIの抑制が長期的に自律神経機能に影響を与えたものと推察される。
本試験で降圧に伴う脳・心血管事故を起こした症例が1例もなかったことは臨床的に重要である。本試験により、早期の降圧療法が必要とされる場合や降圧治療に対して禁忌でない症例には、カンデサルタンは有用な選択手段である。

用語解説

虚血ペナンブラ:(ischemic penumbra)
永続性局所脳虚血により早期に壊死した虚血中心部の周辺で、機能的には障害されているが、壊死に至らない程度の脳血流低下状態にある領域。

Barthel Index(BI):(ischemic penumbra)
脳卒中患者の日常生活動作(ADL)の評価法のひとつ。BIはADLの10項目(100点満点)について評価する。比較的簡便で、自立の程度を評価できるが、採点が粗い(3段階評価)。

References

  1. Lisk DR et al : Arch Neurol 50 : 855-862, 1993
  2. Fujii K et al : Hypertension 19 : 713-716, 1992
  3. Inada Y et a : Clin Exp Hypertens 19 : 1079-1099, 1997
  4. Schrader J et al : Stroke 34 : 1699-1703, 2003
  5. Cheung RT et al : Arch Neurol 57 : 1685-1688, 2000

ページの先頭へ戻る