エビデンス:MOSES

※本コンテンツはメディカルレビュー社 『高血圧ナビゲーター第2版』 第6章EBMより、出版社の承諾のもと一部改変し掲載しております。
※本コンテンツに掲載された記事には海外で実施された試験が含まれており、本邦で承認されている効能・効果および用法・用量とは異なる場合があります。
Morbidity and Mortality after Stroke, Eprosartan compared with Nitrendipine for Secondary Prevention
北川一夫(大阪大学大学院医学系研究科神経内科学)
脳卒中の再発予防に降圧療法が広く推奨されている。MOSES試験1)では、脳卒中患者を対象としARBとCa拮抗薬の有効性を直接比較しており、ARBが脳卒中再発、心血管事故発症予防に優れている可能性が示された。
背景
脳卒中再発予防に降圧療法が有効なのはPROGRESS試験2)で明らかとなり、再発予防の内科的管理手段として降圧治療は重要な地位を占めている。しかし降圧薬剤間で脳卒中の二次予防効果に差があるかどうかは検討されていなかった。
目的
本研究は、「脳卒中の既往を有する高血圧患者では同程度の降圧レベルを達成できればARBはCa拮抗薬より脳血管、心血管事故を低減できる」という仮説を検証するために実施された。対照となるCa拮抗薬はSyst-Eur試験3)で使用されたニトレンジピンとした。
対象症例
1998年10月から2002年2月までの間にドイツ、オーストリアの研究参加施設で対象症例を登録した。登録基準は、治療が必要な高血圧を有し、過去2年以内にCTまたはMRIで確認された脳血管事故(一過性脳虚血発作、脳梗塞、脳出血)の既往を有する症例である。除外基準は、内頚動脈閉塞または高度狭窄、心不全、85歳以上、不整脈のため抗凝固療法中、心臓弁に高度狭窄、不安定狭心症、とした。基準に合致する1,405例が登録された。
評価項目(エンドポイント)
一次エンドポイントは、全死亡、全心血管、脳血管事故、二次エンドポイントは一次エンドポイントの個々の要因とした。脳血管事故は、脳出血、脳梗塞、一過性脳虚血発作を含んだ。
プロトコール・治療法
1,405例を710例のエプロサルタン群と695例のニトレンジピン群に割り付けた。53例は治療薬開始前に同意を撤回した。あらかじめ降圧薬を内服していた症例はその薬剤を中止し治療薬に変更した。エプロサルタンは600mg、ニトレンジピンは10mg、1日1回投与を開始した。降圧目標を140/90mmHg未満とし、治療開始3週間後に目標に達していない場合には増量または他の薬剤を追加した。追加薬剤としては利尿薬、β遮断薬、α遮断薬の順に推奨したが、どの薬剤を使用するかは主治医の判断に任せた。またACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬は臨床的に必要と判断された場合のみ追加された。
外来での観察は、治療開始後3,6,9週、3,6,12,18,24,36,48カ月に定期的に行った。また24時間血圧計を用いたABPM、MMSEを用いた認知機能の評価も行った。
追跡期間
2年以上4年以内(平均2.5年)。
結果
1,352例(エプロサルタン群681例、ニトレンジピン群671例)が平均2.5年追跡された。84%の症例が試験開始前に降圧薬を内服していた。開始前の血圧はエプロサルタン群150.7/87.0mmHg、ニトレンジピン群152.0/87.2mmHgであったが、3カ月後にはおのおの136.7/80.8、135.5/79.9mmHgと良好にコントロールされており血圧値に両群間で差はみられなかった。また両群とも単剤で治療可能であったのは33〜34%、利尿薬の併用が46〜47%、β遮断薬の併用は32〜33%であった。
一次エンドポイントはエプロサルタン群で206件(1年間100人あたり13.3件)、ニトレンジピン群で255件(1年間100人あたり16.7件)発生し、エプロサルタン群で21%リスクが低減していた(P=0.014)(図)。脳血管事故に関してはエプロサルタン群で102件(1年間100人あたり6.56件)、ニトレンジピン群で134件(1年間100人あたり8.78件)発生し、エプロサルタン群で25%リスクが低減していた(P=0.026)(図)。心血管事故はおのおの77件、101件発生し、有意ではないがエプロサルタン群でリスクが低減する傾向が観察された。しかし、死亡率は両群間で差を認めなかった。またMMSEスコアも両群間で差を認めなかった。

図 エンドポイントの治療効果
結論
脳卒中の既往を有する高血圧患者では、ARBのエプロサルタン、Ca拮抗薬のニトレンジピンどちらで治療しても3カ月以内に大多数(75%)の患者で目標血圧レベルに降圧可能であった。同程度の降圧目標が達成された場合、エプロサルタンはニトレンジピンに比し死亡、脳卒中再発、心血管事故発症の合計を低減させることが明らかになった。
用語解説
Syst-Eur試験:
高齢者の収縮期高血圧患者を対象としてCa拮抗薬ニトレンジピンの有効性をプラセボを対照としてランダム化二重盲検試験で検討した。治療群で脳心血管事故、認知症の発症が有意に抑制された。
略語
ABPM:ambulatory blood pressure monitoring
MMSE:mini-mental state examination
References
- Schrader J et al : Stroke 36 : 1218-1226, 2005
- PROGRESS Cardiovasc Group : Lancet 358 : 1033-1041, 2001
- Staessen JA et al : Lancet 350 : 757-764, 1997

