エビデンス:Val-HeFT

高血圧ナビゲーター

※本コンテンツはメディカルレビュー社 『高血圧ナビゲーター第2版』 第6章EBMより、出版社の承諾のもと一部改変し掲載しております。

※本コンテンツに掲載された記事には海外で実施された試験が含まれており、本邦で承認されている効能・効果および用法・用量とは異なる場合があります。

Valsartan Heart Failure Trial
河野雄平(国立循環器病センター高血圧腎臓内科)

Val-HeFTは、バルサルタンの心不全への効果を検討した大規模臨床試験である。バルサルタン群は、対照群と比較して全死亡率には差はなかったが、死亡と心停止、心不全増悪の複合エンドポイントは有意に少なかった。

対象疾患と対象症例

Val-HeFT(Valsartan Heart Failure Trial)は、心不全へのARBバルサルタンの効果を調べた大規模臨床試験である1、2)。国際的多施設共同研究で、ミネソタ大学のCohnが主任研究者を務めた。
対象は、18歳以上で、慢性うっ血性心不全(NYHA分類II〜IV度)を伴い、左室駆出率(LVEF)40%未満で左室拡張期内径2.9cm/m超、エントリー前およびプラセボ導入期に標準的な治療で状態が安定している者である。妊娠や肺性心、最近の心筋梗塞、低血圧、腎不全などの除外基準があり、5,010名が登録された。

目的

慢性うっ血性心不全への標準的な治療(ACE阻害薬を含む)にバルサルタンを加えた効果を、死亡率や心不全によるイベント発症、自他覚的症状およびquality of life(QOL)についてプラセボと比較検討することを目的とした。

評価項目(エンドポイント)

一次評価項目は、全死亡と、死亡および救急蘇生がなされた心停止、心不全のための入院、強心薬あるいは血管拡張薬の静脈内投与を要する心不全の悪化を含む複合エンドポイントである。二次評価項目は、NYHA分類、心不全の症状、LVEF、左室拡張期内径、QOLスコア、神経内分泌因子(ノルアドレナリンおよびBNP)の変化である。また、サブスタディとして、不整脈や心拍変動、運動耐容能、心室リモデリングについての評価が行われた。

試験デザイン・治療法

国際的、二重盲検、ランダム割付、プラセボ対照並行試験である。16カ国の約300の医療施設において、約5,200名の患者を登録する。このサンプル数は、20%の生存率改善を90%の確率で検出できるものであった。
対象症例は2〜4週間のプラセボ導入期の後、バルサルタン群とプラセボ群にランダムに割り付けられた。バルサルタンは40mgが1日2回投与され、低血圧や腎機能の悪化がなければ、2週後に80mgを2回、その2週後には160mgを2回まで増量された。プラセボ群も同様のスケジュールで用量が変更された。平均追跡期間は23カ月であった(0〜38カ月)。

結果

登録時の患者背景は、5,010名のうち男性が80%で、平均年齢は63歳、白人が90%であり、糖尿病を伴う者は24%であった。NYHA分類II度が62%、III度36%、IV度2%で、心不全の原因は虚血性51%、非虚血性49%であり、LVEFは平均27%、左室拡張期内径は6.9cmであった。ジゴキシンは68%、利尿薬は84%、β遮断薬は36%、ACE阻害薬は92%の症例に用いられていた。
一次評価項目のうち、全死亡率はバルサルタン群とプラセボ群に差はなかった(相対リスク1.02)(図1)2)。複合エンドポイントは、バルサルタン群が有意に少なかった(28.8%対32.1%、相対リスク0.87)。バルサルタン群はNYHA分類、LVEF、心不全の症状、QOLスコアが、プラセボ群に比べ有意に改善した。安全性については概ね良好であったが、有害事象による服薬中止はバルサルタン群が多かった。また、ACE阻害薬とβ遮断薬の使用がないか、いずれかが使用されていた場合は、バルサルタン群が優っていたが、両方が用いられていた場合は逆に劣っていた。
ACE阻害薬が投与されていなかった366名についての解析では、バルサルタン群がプラセボ群より死亡率(相対リスク0.67)、複合エンドポイント(相対リスク0.56)とも有意に少なかった(図2)3)。前者は臨床所見も改善した。神経ホルモンについての検討では、ベースラインのBNPおよびノルアドレナリンが高いほどエンドポイントの発生率は高く、追跡期間中にこれらの低下度が大きい場合は予後良好で、上昇した場合は不良であった4)。また血漿アルドステロン濃度についての解析では、バルサルタン群は試験期間中を通して有意に低下した(24カ月後の平均低下率17.4%)5)。一方、プラセボ群ではアルドステロンは有意に増加した(24カ月後11.9%)。

図1 Val-HeFTにおける複合エンドポイントの非発生率(文献2より引用)

図1 Val-HeFTにおける複合エンドポイントの非発生率(文献2より引用)
複合エンドポイント:死亡、心停止、心不全憎悪(入院もしくは強心薬あるいは血管拡張薬の静注を要する)。

図2 ACE阻害薬非投与例における解析(文献3より引用)

図2 ACE阻害薬非投与例における解析(文献3より引用)

考察

Val-HeFTは、ACE阻害薬を含む治療を受けている心不全患者へのARBバルサルタンの効果を検討した大規模臨床試験として注目される。レニン-アンジオテンシン系を強く抑制するために、比較的多い量のバルサルタンが用いられた。その結果、バルサルタンにより全死亡は不変であったが複合エンドポイントや臨床所見は改善し、心不全治療におけるARBの有用性が示された。また、この効果はACE阻害薬あるいはβ遮断薬の使用がない場合には明らかで、両者が投与されていた場合にはARB追加投与は予後を悪化させる可能性が懸念されたが、その後の臨床試験(VALIANT、CHARM)では、ACE阻害薬とβ遮断薬を投与されている患者でのARB追加投与は有害性は示されず、懸念は払拭された。

用語解説

HeFT:(Heart Failure Trial)
Cohnらが行った心不全治療の大規模臨床試験で、血管拡張薬の効果を検討したV-HeFTI、V-HeFTII、V-HeFTIIIが以前に発表されている。

略語

NYHA:New York Heart Association

BNP:brain natriuretic peptide

LVEF:left ventricular ejection fraction

References

  1. Cohn JN et al:J Card Fail 5:155-160, 1999
  2. Cohn JN et al:N Engl J Med 345:1667-1675, 2001
  3. Maggioni AP et al:J Am Coll Cardiol 40:1414-1421, 2002
  4. Anand IS et al:Circulation 107:1278-1283, 2003
  5. Cohn JN et al:Circulation 108:1306-1309, 2003

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