エビデンス: JIKEI HEART Study

※本コンテンツはメディカルレビュー社 『高血圧ナビゲーター第2版』 第6章EBMより、出版社の承諾のもと一部改変し掲載しております。
※本コンテンツに掲載された記事には海外で実施された試験が含まれており、本邦で承認されている効能・効果および用法・用量とは異なる場合があります。
Japanese Investigation of Kinetic Evaluation in Hypertensive Event and Remodeling Treatment Study
岡崎史子、吉村道博、望月正武(東京慈恵会医科大学循環器内科学)
JIKEI HEART Studyは日本人心血管病患者3,081人を対象として従来降圧治療強化群と従来治療にバルサルタンを追加投与した群とを比較した大規模臨床試験で、同程度に降圧した場合バルサルタン群で有意に心血管事故を抑制した。
目的
アンジオテンシンIIは高血圧性左室肥大、脳卒中、虚血性心疾患および心不全の発症に関与していることが確認されており1)、ARBは高血圧以外のさまざまな疾患に有用であることが報告されている2−5)。しかしこれはすべて欧米で報告された結果であり、日本人を対象とした大規模な臨床試験は皆無に近い状態であった。そこでわれわれはバルサルタンを投与することで非ARB治療に比べ血圧コントロールを上回る臓器保護作用が得られるとの仮説を立て、本試験を実施した(Mochizuki S et al:Lancet 369:1431-1439, 2007)。
対象症例
対象は高血圧、虚血性心疾患、心不全を単独あるいはこれらの合併により従来の降圧治療を実施中の日本人高血圧患者(年齢20〜79歳)とした6)。
評価項目(エンドポイント)
一次エンドポイントは心血管事故および心血管死の複合エンドポイントとした。その内訳は脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)、心筋梗塞、うっ血性心不全および狭心症による入院、解離性大動脈瘤、血清クレアチニン値の2倍化または透析導入でこれらのイベントの初発を一次イベントとし、そのおのおのおよび総死亡、心血管死を二次エンドポイントとした。
試験にはPROBE法を用い7)、解析はintention-to-treat(ITT)に基づいて行った。
治療法
従来の降圧治療にバルサルタンを追加する群(40〜160mg/日)、またはARB以外の降圧薬を追加する群(非ARB群)にランダム割付した。血圧コントロールの目標値は両群とも130/80mmHg未満とした。
結果
登録患者は3,081例がランダム割付された。ベースライン時の両群の平均血圧は139/81mmHgで治療薬はCa拮抗薬が約3分の2、ACE阻害薬、β遮断薬、スタチンが約3分の1に使用されていた。試験期間中、血圧はバルサルタン群では131/77mmHg、非ARB群では132/78mmHgまで低下した。収縮期、拡張期血圧および心拍数は試験期間を通して両群間に差は認めなかった。
バルサルタン群で一次エンドポイントの発生件数は92件、非ARB群で149件であり、バルサルタン群で有意に一次エンドポイントが減少した(図)。この内訳は主に脳卒中、狭心症および心不全の減少によるものであった。解離性大動脈瘤はバルサルタン群で2件、非ARB群10件で例数が少ないものの有意差が認められた(P=0.0340)。死亡率、心筋梗塞、腎疾患の増悪については両群に有意差は認めなかった。試験早期からバルサルタン群でイベント発生は抑制され、試験期間を通してこの乖離は維持された。

図 全エンドポイントの治療効果
ハザード比は性別、年齢、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙状況、併用降圧薬で補正。
■は各イベントのハザード比を示す;横線は95%Clを示す。◆は一次エンドポイントのハザード比および95%Clを示す。
考察
今回の試験ではバルサルタン群で狭心症の新規発症は65%の相対リスク減少が認められたが、急性心筋梗塞の新規発症または再発は抑制されなかった。LIFE試験5)、VALUE試験8)でもARBは心筋梗塞については有意な効果が認められていない。おそらくレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系は狭心症発症により大きな役割を果たしていると考えられるが、心筋梗塞の発症に関しては今後の検討課題となろう。また、入院が必要な脳卒中もバルサルタン群で40%の相対リスク減少が認められた。しかしVALUE試験8)ではアムロジピンに比べバルサルタン群による脳卒中発症率の低下は認められなかった。脳卒中リスクは高リスク患者では血圧値に大きな影響を受けると報告されており9)、VALUE試験では両群間で血圧に有意差が生じたために、ARBの効果をマスクしてしまった可能性がある。本試験では従来治療強化の非ARB群とバルサルタン群で血圧に有意差がない状況でバルサルタン群において脳卒中の発症が抑制されており、LIFE試験5)とあわせて考慮してARBには脳卒中抑制効果があると思われる。
結論
本試験は標準治療を受けている日本人虚血性心疾患患者に対し、バルサルタンを追加投与すると標準治療薬の増量、追加に比べてさまざまな心血管事故を予防できることを示した、臨床的意義の深い試験である。なかでもバルサルタンが日本人に多いといわれる脳卒中のリスクを40%減少させたという点でも意義は大きい。今後、日本人心血管病患者におけるさらなるエビデンスの構築が望まれる。
略語
PROBE法:prospective randomized open-label blind-endpoint法(前向き・ランダム化・オープンラベル・エンドポイントブラインド)の略。
References
- Brunner HR:Am J Cardiol 87:3C-9C, 2001
- Cohn JN et al:N Engl J Med 345:1667-1675, 2001
- Pfeffer MA et al:Lancet 362:759-766, 2003
- Pfeffer MA et al:N Engl J Med 349:1893-1906, 2003
- Dahlf B et al:Lancet 359:995-1003, 2002
- Mochizuki S et al:Cardiovasc Drugs Ther 18:305-309, 2004
- Hansson L et al:Blood Press 1:113-119, 1992
- Julius S et al:Lancet 363:2022-2031, 2004
- Staessen JA et al:J Hypertens 21:1055-1076, 2003

