エビデンス:VALVACE

※本コンテンツはメディカルレビュー社 『高血圧ナビゲーター第2版』 第6章EBMより、出版社の承諾のもと一部改変し掲載しております。
※本コンテンツに掲載された記事には海外で実施された試験が含まれており、本邦で承認されている効能・効果および用法・用量とは異なる場合があります。
Valsartan Varsus ACE Inhibition in Acute Coronary Syndrome After Stent Implantation of the Culprit Lesion
岡崎史子、吉村道博(東京慈恵会医科大学循環器内科学)
VALVACEとはステント挿入後の再狭窄予防に、ACE阻害薬とバルサルタンのどちらが有用かを検討する試験である。バルサルタンはとくにACS、糖尿病患者に有効であることが明らかにされた。
目的と背景
急性心筋梗塞後のACE阻害薬の使用はレベルIaの推奨事項であるが、ACE阻害薬の投与がステント内再狭窄を増加させるという小規模な試験がある。AHA/ACC分類によるtype A/B1病変ではbare metal stent挿入後の再狭窄率は比較的低いが、type B2/Cでは30%を超えている。そこでtype B2/C病変に対してステント挿入後バルサルタン投与群とACE阻害薬投与群とで、6カ月後の再狭窄およびMACE発現率について比較検討することを目的としてVALVACE試験が行われた。この試験の3年前に同じグループからVal-PREST試験が報告されたが、これは同様の症例に対しバルサルタンまたはプラセボを投与し、ステント挿入後の再狭窄を検討するものであった。Val-PREST試験ではバルサルタン投与群でステント内再狭窄が有意に低下したが、この際プラセボ群の68%にACE阻害薬が使用されており、VALVACEではバルサルタンとACE阻害薬の直接比較が行われた。
対象症例
本試験の対象症例は、安定狭心症または急性冠症候群(ACS)のtype B2/C病変の一枝病変に対してbare metal stent挿入後安定した臨床経過を示した患者で、除外基準はNYHA分類III、IVの心不全、ステント内血栓のため早期にインターベンションを再度施行した例、腎不全(Cr>2.5mg/dL)、左室駆出率(LVEF)35%未満、Type A/B1病変、多枝病変である。計700例が登録された。
評価項目
ステント挿入6カ月後の冠動脈血管造影にてステント内およびステント周囲(5mm)の再狭窄(血管径の50%以上の減少)の発現を評価項目とした。またMACE(死亡、梗塞、インターベンションの再施行)の状況を最長4年(平均2.6年)追跡した。
プロトコール・治療法
type B2/C病変に対してステント挿入後、ESC心不全治療ガイドライン1)に従いLVEFが35〜50%に維持されているNYHA分類IおよびIIの患者に対してはACE阻害薬(カプトプリル25〜30mg/日、エナラプリル10〜20mg/日、ラミプリル10〜20mg/日のいずれか)を投与し、LVEF50%以上の患者に対してはバルサルタン80mg/日を6カ月間投与した。LVEFは左室造影または心エコーから算出した。
結果
両群間でACS、糖尿病、慢性閉塞、急性閉塞、小血管(<2.6mm)などの患者背景に有意差はなかった。ステント挿入6カ月後に冠動脈造影を施行した623名のうち、バルサルタン群では399名中78名(19.5%)、ACE阻害薬群では224名中76名(34%)にステント内再狭窄を認めた(P<0.05)。糖尿病患者180名中バルサルタン群127名では再狭窄24%、ACE阻害薬群53名中43%に再狭窄を認めた(P<0.01)。またACS症例298名中バルサルタン群205名では28名(14%)、ACE阻害薬群では93名中40名(43%)に再狭窄を認めた(P<0.0001)。安定狭心症患者(325名)では再狭窄率がそれぞれ26.5%、27.5%と有意差はなかった。
経過観察期間におけるMACEは、ACS症例ではバルサルタン群が有意に低かった(P<0.0001)が安定狭心症患者では有意差が認められなかった。
結論
バルサルタンはステント留置後の再狭窄とMACEをACE阻害薬よりも有意に減少した。その内訳としては、図に示す通りACSの患者に対し有効であることが明らかにされた。安定狭心症の患者にはバルサルタンはACE阻害薬と有意差がなかった。本試験ではLVEF<50%にACE阻害薬、LVEF≧50%にバルサルタンを投与しており、これが結果に何らかの影響を及ぼしたのではないかとも考えられるが、「左室機能の低下はステント内狭窄の危険因子ではない」と著者はコメントしている。

図 バルサルタンのステント再狭窄抑制効果(VALVACE試験の結果より作図)
ACS:acute coronary syndrome。
考察
バルサルタンが再狭窄の抑制に有用であった機序としては、バルサルタンにより組織のアンジオテンシンIIが十分に抑制されたこと、また平滑筋細胞と筋線維芽細胞のアポトーシスによる新生内皮の増殖が抑制された可能性があげられる2)。ACE阻害薬ではラットの総頚動脈再狭窄モデルにシラザプリルを用いて新生内膜肥厚を抑制したことから3)、ヒトに対してもシラザプリルを用いたPTCA後再狭窄に対する大規模臨床試験としてMERCATOR試験4)とMARCATOR試験5)が過去に行われた。しかしどちらの試験でも再狭窄予防効果は認められなかった。ヒトではキマーゼの関与が大きく組織のアンジオテンシンIIを十分に抑制できない可能性も一因として考えられる。
用語解説
MACE:major adverse cardiac eventsの略。再インターベンションを心血管事故とは言えないため、心臓カテーテル検査を用いた臨床研究ではMACEを評価に用いる。
略語
LVEF:left ventricular ejection fraction
MERCATOR:Multicenter European Research Trial with Cilazapril after Angioplasty to Prevent Transluminal Coronary Obstruction and Restenosis
MARCATOR:Multicenter American Research trial with Cilazapril after Angioplasty to Prevent Transluminal Coronary Obstruction and Restenosis
References
- Remme WJ et al:Eur J Heart Fail 4:11-22, 2002
- 小野英彦 ほか:日本臨牀 60:1887-1892, 2002
- Powell JP et al:Science 245:186-188, 1989
- MERCATOR Study Group:Circulation 86:100-110, 1992
- Faxon DP:J Am Coll Cardiol 25:362-369, 1995

