エビデンス:AIPRI

※本コンテンツはメディカルレビュー社 『高血圧ナビゲーター第2版』 第6章EBMより、出版社の承諾のもと一部改変し掲載しております。
※本コンテンツに掲載された記事には海外で実施された試験が含まれており、本邦で承認されている効能・効果および用法・用量とは異なる場合があります。
Angiotensin-Converting Enzyme Inhibition in Progressive Renal Insufficiency
鈴木洋通(埼玉医科大学腎臓内科)
腎機能障害を有する非糖尿病性腎症患者でACE阻害薬ベナゼプリルが蛋白尿を減少させ、さらに血圧を下降させることにより腎機能障害の進行を阻止できることを示した初めての大規模臨床試験である。
対象疾患と対象症例
対象症例は血清クレアチニンが1.5〜4.0mg/dL、クレアチニン・クリアランスで30〜60mL/分、拡張期血圧が110mmHg以上のもので主として非糖尿病性腎症とした。しかし対象症例583例中には21例の糖尿病性腎症も含まれている。192例の糸球体腎炎、105例の間質性腎炎、97例の高血圧性腎硬化症、64例の多発性嚢胞腎、その他104例となっている。平均年齢は51歳で男性患者が70%を占めており、平均のクレアチニン・クリアランスは42mL/分、血清クレアチニンは2.1mg/dLであり、拡張期血圧が90mmHg以上で定義した高血圧患者は80数%で、降圧治療を受けている患者は80%弱であった。
目的
ACE阻害薬であるベナゼプリルが、さまざまな原因による慢性腎不全の腎障害の進行を遅らせることに有効であるかどうかを検討する。
評価項目(エンドポイント)
一次エンドポイントはベナゼプリルまたはプラセボ治療の開始から1カ月後に確認した血清クレアチニン値2倍化までの時間、または透析を必要とした。二次エンドポイントは、血清クレアチニン値、尿中蛋白排泄量、および拡張期血圧の経時変化と、降圧薬治療での調節とした。
プロトコールと治療法
すべての患者を3カ月間スクリーニングした。この目的は腎機能が比較的安定しているかを確認するか、また血圧をコントロールするためであった。次にプラセボを1日1錠2週間投与し、その後に患者を2群に分類した。1群は軽度腎機能不全患者(クレアチニン・クリアランス46〜60mL/分)、もう1群を中等度腎機能不全患者(クレアチニン・クリアランス30〜45mL/分)とし、これらの患者をランダムにベナゼプリル10mgまたはプラセボ1回投与に割り付けた。治療は初めの1カ月間は2週間ごとに、次の2カ月間は1カ月でその後は3カ月ごとに各施設で診察および検査を行い、3年間にわたり追跡した。各診察時には仰臥位での血圧測定、24時間の尿中蛋白排泄、血清クレアチニンと電解質その他の血清化学および末血の測定を行った。食塩摂取量は1日3g、蛋白摂取量は体重1kgあたり0.8gとなるように指導を行った。
追跡期間
3年。
結果
一次エンドポイントでみるとベナゼプリル群300例、プラセボ283例のうち試験期間を全うしたものは201例と121例で、中止となったものが99例と121例であった。血清クレアチニン値が2倍、あるいは透析が必要となって中止となったものは31例と57例であり、P=0.00002をもって有意にベナゼプリル群が少なかった。このうち、軽度腎機能障害ではベナゼプリル120例中5例が一次エンドポイントに至り、プラセボ群では107例中15例であった。中等度腎機能障害ではベナゼプリル群180例中26例、プラセボ176例中42例であり、いずれもがP=0.01の有意差ありと判定された。降圧薬治療が必要とされた割合でみると、ベナゼプリル群では平均収縮期血圧で4.5〜8.0mmHg減少したのに比してプラセボ群では1.0〜3.7mmHg逆に上昇していた。さらに使用した降圧薬の数は、ベナゼプリル群で1.7剤、プラセボ群で2.1剤であり、有意にベナゼプリル群で少なかった。また、ベナゼプリル群では8例がプラセボ群では1例が死亡した。死亡の内訳はベナゼプリル群では3例が心疾患による突然死、3例が致死性心筋梗塞、2例は原因不明であった。プラセボ群では高血圧がコントロールされていた糖尿病性腎症患者であった。これらから全死亡でみると、ベナゼプリル群93例に1例、プラセボ群656例に1例の死亡者が出た。
結論
ベナゼプリルはさまざまな背景を有する慢性腎不全患者において、腎機能の低下を遅らせる腎保護作用があり、この効果は、血圧の低下と尿中蛋白排泄量の低下を伴うものである。
トピックス
AIPRI試験を受けて2つの臨床試験が現在までに報告されている。一つはExtension研究としAIPRI終了後も3年間にわたってほぼ同様なプロトコールで経過観察が続けられた。ベナゼプリルの有用性が証明されたことで、双方の群ともベナゼプリルを含むACE阻害薬を服用することとした。それでも従来のベナゼプリル群(300例中79例)ではACE阻害薬が加えられたコントロール群(283例中102例)に比して有意に一次エンドポイントに達した例が少なかった。さらに当初のAIPRIではベナゼプリルで死亡が多かったが、その差はみられなかった1)。もう一つはAIPRIでは対象患者の平均血清クレアチニンは2.1mg/dLであったが、より腎機能障害の進行した血清クレアチニン値で3.1〜5.0mg/dLの患者を対象にベナゼプリルの有効性と安全性が検討された。それによるとベナゼプリル群では168例中44例が、コントロール群では107例中65例が一次エンドポイントに達しその差は有意(P=0.005)であった2)。
さらにこれら2つの試験から新たにつけ加えられたことは、ベナゼプリルは降圧とも関係なく腎機能障害の進行を抑制するというものであった。
用語解説
非糖尿病性腎症:現在末期腎不全から透析療法を導入される患者の約50%近くが糖尿病性腎症であり、それ以外の腎症−慢性糸球体腎炎、間質性腎炎、高血圧性腎硬化症、多発性嚢胞腎、など−を称して非糖尿病性腎症としている。
Recommended Readings
- Maschio G et al:N Engl J Med 334:939-945, 1996
- Locatelli F et al:Kidney Int 52(Suppl 63):S63-S66, 1997
- Maki DD et al:Arch Intern Med 155:1073-1080, 1995
- Giatras I et al:Ann Intern Med 127:337-345, 1997
References
- Mann F et al:Nephron 55(Suppl I):38-42, 1990
- Brown JH et al:Nephrol Dial Transplant 7(Suppl 2):7-35, 1994

