エビデンス:MDRD

高血圧ナビゲーター

※本コンテンツはメディカルレビュー社 『高血圧ナビゲーター第2版』 第6章EBMより、出版社の承諾のもと一部改変し掲載しております。

※本コンテンツに掲載された記事には海外で実施された試験が含まれており、本邦で承認されている効能・効果および用法・用量とは異なる場合があります。

The Modification of Diet in Renal Disease
尾股健(宮城教育大学保健管理センター)

慢性腎不全は治療法の進歩により寛解させることが可能となってきた。降圧目標血圧は120/75mmHg未満とし、ACE阻害薬やARBなどを主として可能な場合、最大用量まで使用する。

目的

蛋白制限食および米国合同委員会第5次報告(JNC-5)1)で推奨されているよりも低い血圧管理目標によって慢性腎不全の進展が抑制されるか否か、また、それらの治療法の安全性と長期にわたる忍容性も検討した。

対象と方法

対象疾患は慢性腎不全で、慢性糸球体腎炎が25%、多発性嚢胞腎が24%、インスリン非依存性糖尿病性腎症が3%で、男性が60%。対象症例は糸球体濾過量(glomerular filtration rate;GFR)が25〜55mL/min/1.73m2および13〜24mL/min/1.73m2の慢性腎不全それぞれ、585例と255例の計840例を対象とした2−5)
試験デザインは低蛋白食群と超低蛋白食群および通常血圧維持群と低血圧維持群をランダム割付により決定し、血圧や腎機能(GFR)の変化を追跡した。低蛋白食群は1.3g/kg体重/日を超低蛋白食群は0.58g/kg体重/日の蛋白制限食の摂取を行わせた。また、同様に通常血圧維持群と低血圧維持群も、通常血圧維持群は18〜60歳では140/90(平均血圧107)mmHg未満および61歳以上では160/90(平均血圧113)mmHg未満、低血圧維持群は18〜60歳では125/75(平均血圧92)mmHg未満および61歳以上では145/75(平均血圧98)mmHg未満として、1カ月ごとに観察した。GFRは4カ月ごとに測定した。降圧薬としてはACE阻害薬単独あるいは利尿薬の併用を勧めた。降圧不十分な場合にはCa拮抗薬やその他の降圧薬を用いることを推奨した。追跡期間は18〜45カ月、平均2.2年。

評価項目(エンドポイント)

GFRを経時的に測定してその変化の傾きを評価して、腎機能が急激に増悪した場合をエンドポイントとした。すなわち、血液透析や腎移植を必要とする末期腎不全に至った場合や観察期のGFRが40mL/min/1.73m2以上の者では腎機能が50%以上低下したか、観察期GFRが40mL/min/1.73m2未満の者では20mL/min/1.73m2以下に腎機能が低下した場合に中止とした。また標準体重の75%未満になった栄養失調状態あるいは血清アルブミンが3g/dL未満に陥った場合にも試験を中止した。

結果

血圧値と腎機能の低下の程度との関連をみると、GFRの低下は低蛋白食群も超低蛋白食群でも通常血圧維持群より低血圧維持群のほうがGFRの減少程度が少ないが、有意差はない。しかし、蛋白尿が1g/日未満群、1g/日以上3g/日未満群および3g/日以上の群に分類して検討すると、GFRが25〜55mL/min/1.73m2の患者では1g/日以上の者で低血圧維持群が通常血圧維持群より腎機能低下の程度が少ない。GFRが13〜24mL/min/1.73m2と腎機能障害の強い群でも蛋白尿が3g/日以上の群では低血圧維持群が通常血圧維持群に比較してGFRの減少程度が少ない。
低蛋白食と低血圧維持群では初めの4カ月ではGFRの減少の程度が強いが、その後の減少は緩やかであり、最終的には低血圧維持群での腎機能の低下が有意に少なかった()4)

通常血圧維持群と低血圧維持群における糸球体濾過量(GFR)の低下

図 通常血圧維持群と低血圧維持群における糸球体濾過量(GFR)の低下(文献4より引用)
線イメージ:通常血圧維持群、点線イメージ:低血圧維持群

結論

この成績から、中等度の慢性腎不全患者では蛋白制限食による腎機能増悪の予防効果はそれほど強くない。腎不全が進行したものでは超低蛋白食によっても腎不全の進展は防げなかった。一方、血圧管理目標は蛋白尿が1g/日以上の者では60歳以下で125/75(平均血圧92)mmHg未満、61歳以上では145/75(平均血圧98)mmHg未満に保つことが勧められる。蛋白尿が0.25〜1g/日の者では血圧130/80(平均血圧98)mmHg未満に維持することが望ましい。通常血圧維持群ではGFRが25mL/分以下の慢性腎不全では低蛋白食(0.28g/kg体重/日)が腎不全の進行を遅らせる可能性があることが示された。また、低血圧を維持した群でも通常血圧維持群でも合併症などによる入院患者数などに差は認められず、血圧の低下に従って腎機能が改善することも明らかにされ、低血圧維持の安全性も報告された4)

考察

低蛋白食による食事療法が慢性腎不全の進行を遅らせることが知られている。MDRD研究は、もともと、低蛋白食が慢性腎不全にどの程度有効であるかを明らかにするために行われた大規模臨床試験であった。低蛋白食は確かに慢性腎不全の進展を防ぐ効果が認められた。しかし、その効果の程度は低く、期待されていたほどは、末期腎不全の発症を防げなかった。低蛋白食以上に末期腎不全の発症を効果的に防ぐことができたのは、血圧のコントロールであった。しかも、慢性腎不全ではその目標降圧レベルは、本態性高血圧の降圧レベルと考えられていた正常血圧(140/90mmHg未満)より、さらに低い血圧(125/75mmHg未満)にあることが示された画期的な研究である。
この研究過程で蓄積された実測GFRと血清クレアチニン、年齢などの各種データからGFR推算式が作成され、米国腎臓財団(K/DOQI)のガイドラインに採用されている6)。慢性腎臓病(CKD)の概念が提唱され、その対策が具体化されるにつれて、MDRD研究で得られたGFR推算式が診断の基本として役立てられている。

用語解説

糸球体濾過量(GFR):腎機能悪化の指標となる。血清クレアチニン値は腎不全の増悪に伴い指数関数的に上昇するが、GFRは一次関数的に変化する。

GFR推算式:日本腎臓学会ではMDRD式を日本人係数により修正したGFR推算式を採用し、慢性腎臓病(CKD)の診断のために活用している。
GFR(mL/min/1.73m2)=175×Age−0.203×Cr−1.154 男性は×0.741、女性は×0.741×0.742

References

  1. JNC-V:Arch Intern Med 153:154-183, 1993
  2. Klahr S et al:N Engl J Med 330:877-884, 1994
  3. Peterson JC et al:Ann Intern Med 123:754-762, 1995
  4. MDRD Study Group:J Am Soc Nephrol 7:556-566, 1996
  5. Lazarus JM et al:Hypertension 29:641-650, 1997
  6. National Kidney Foundation:Am J Kidney Dis 39:(2 Suppl 1)S1-S266, 2002

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