エビデンス:INNOVATION

※本コンテンツはメディカルレビュー社 『高血圧ナビゲーター第2版』 第6章EBMより、出版社の承諾のもと一部改変し掲載しております。
※本コンテンツに掲載された記事には海外で実施された試験が含まれており、本邦で承認されている効能・効果および用法・用量とは異なる場合があります。
INcipieNt to OVert:AngiotensinIIreceptor blocker, Telmisartan, Investigation On typeIIdiabetic Nephropathy
槇野博史(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科/腎・免疫・内分泌代謝内科学)
日本人の2型糖尿病性腎症患者を対象としたINNOVATION試験1、2)において、ARBであるテルミサルタンは正常血圧および高血圧患者ともに、微量アルブミン尿患者の顕性腎症への移行を顕著に抑制した。
目的
2型糖尿病に伴う微量アルブミン尿を呈する日本人の糖尿病性腎症患者に対するARBテルミサルタンの顕性腎症への移行抑制効果と安全性をプラセボを対照として比較検討する。
対象症例
30〜74歳の2型糖尿病と診断され、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が100〜300mg/g・Crを呈し、血清クレアチニン値が男性で1.5mg/dL未満、女性で1.3mg/dL未満の正常血圧患者および高血圧患者、計527例を対象とした。
評価項目(エンドポイント)
主要評価項目は、微量アルブミン尿から顕性腎症への移行とした。顕性腎症への移行は、早朝第一尿でのUACRが2時点連続して300mg/g・Cr以上、かつベースライン値から30%以上増加した場合と定義した。主な副次的評価項目は(1)UACRの観察期ベースラインからの変化量、(2)顕性腎症への移行率、(3)微量アルブミン尿の正常化率(UACR:<30mg/g・Cr)とした。
プロトコール
本試験は多施設共同、二重盲検、ランダム割付、群間比較試験である。患者はテルミサルタン40mg/日群(176例)、テルミサルタン80mg/日群(175例)、プラセボ群(176例)にランダムに割り付けた。降圧治療目標値は130/85mmHgとし、ARBおよびACE阻害薬を除く降圧薬の併用は可能とした。投与期間は最長124週間とし、平均投与期間は1.3年(最長2.3年)であった。
結果
顕性腎症への移行率は、テルミサルタン80mg群16.7%、40mg群22.6%、プラセボ群49.9%であり、テルミサルタンは2用量ともに顕性腎症への移行を有意に抑制した(log-rank検定:P<0.0001)(図A)。NNT(number needed to treat)は、テルミサルタン80mg群では3.0人、40mg群では3.7人であり、微量アルブミン尿を伴う2型糖尿病性腎症患者3〜4人にテルミサルタンを投与すると1人は、顕性腎症への移行を抑制できることが示された。また、正常血圧患者のみの解析でも、テルミサルタンは顕性腎症への移行を有意に抑制した(P<0.01)(図B)。
UACRは、観察期ベースラインからテルミサルタン80mg群では58.8mg/g・Cr、40mg群では37.9mg/g・Cr低下したが、プラセボ群では40.9mg/g・Cr上昇した(ANCOVA:P<0.0001)。また、微量アルブミン尿の正常化率は、テルミサルタン80mg群21.2%、40mg群12.8%、プラセボ群1.2%と、テルミサルタン群において有意に高く、顕性腎症への移行抑制とともに明らかな腎保護作用を認めた(Fisher直接確率計算法:P<0.0001)。

図 テルミサルタンの顕性腎症への移行率に与える影響
T80:テルミサルタン80mg群、T40:テルミサルタン40mg群、P:プラセボ群
結論
微量アルブミン尿を伴う日本人2型糖尿病患者において、テルミサルタンは顕性腎症への移行を有意に抑制する。また、この効果は高血圧患者のみならず、正常血圧患者においても同様に認められた。さらに、テルミサルタンは、微量アルブミン尿の正常化率も有意に増加させる。
考察
これまでに報告されている2型糖尿病患者に対するARBの腎保護作用は、主に欧米人を対象とした検討であり、日本人に対する成績が待ち望まれていた。INNOVATION試験は、微量アルブミン尿を伴う2型糖尿病患者を対象にARBの効果を検証する試験として、日本人を対象にした初めての大規模臨床試験であり、本試験結果は日本における糖尿病性腎症治療のエビデンスとして高く評価できる。
本試験において、テルミサルタンは顕性腎症への進展を顕著に抑制し、さらに微量アルブミン尿の正常化率も有意に増加させた。これは早期腎症からテルミサルタンで治療すれば、顕性腎症への移行、ひいては末期腎症への移行を抑制できること示す成績であり、早期からのARBによる治療の重要性を示すものである。さらに、テルミサルタンの顕性腎症への進展抑制作用は、高血圧患者のみならず、正常血圧患者においても同様にみられ、高血圧を伴わない糖尿病性腎症患者に対してもテルミサルタンを投与することで腎保護作用が期待できることを示している。またテルミサルタン投与により20〜40%の患者で微量アルブミン尿が正常化することから、糖尿病性腎症の進展抑制だけでなく、治療改善にも期待がもてる。
最近、微量アルブミン尿は、心血管合併症の独立した危険因子であることが示唆されている。また、2型糖尿病患者を対象としたUKPDS643)では、腎症の進行に伴って死亡リスクが上昇することが報告されている。この点から、INNOVATION試験で得られたテルミサルタンの腎保護作用は、ARBによる腎症の進展抑制のみならず、2型糖尿病患者での心血管合併症の発症予防効果を示唆するものである。
略語
UACR:urinary albumin-to-creatinine ratio
NNT:number needed to treat
Recommended Readings
- Parving HH et al:N Engl J Med 345:870-878, 2001
- Viberti G et al:Circulation 106:672-678, 2002
- Barnett AH et al:N Engl J Med 351:1952-1961, 2004
References
- Makino H et al:Diabetes Care 30:1577-1578, 2007
- Makino H et al:J Int Med Res 33:677-686, 2005
- Adler AI et al:Kidney Int 63:225-232, 2003

