エビデンス:Kyoto Heart Study

※本コンテンツはメディカルレビュー社 『高血圧ナビゲーター第2版』 第6章EBMより、出版社の承諾のもと一部改変し掲載しております。
※本コンテンツに掲載された記事には海外で実施された試験が含まれており、本邦で承認されている効能・効果および用法・用量とは異なる場合があります。
Kyoto Heart Study Add-on Effects of Valsartan on Morbi-Mortality in High Risk Hypertension
沢田尚久、松原弘明(京都府立医科大学循環器内科学)
高血圧症は心血管病の連鎖により生命予後や生活の質を低下させる。Kyoto Heart Studyではハイリスク高血圧の日本人を対象としてバルサルタン上乗せ治療によるイベント抑制効果を検討する。
目的と背景
高血圧は最も頻度の高い病態の一つであり生活習慣病の代表的疾患である。高血圧が臨床的に問題となるのは、高血圧が長期間持続することによる脳・心・腎・血管の動脈硬化性病変を中心とする心血管系の合併症である。心血管病は高血圧などの各種危険因子によって引き起こされる数々のイベントの連鎖という形で連続性の経過をたどり、患者の予後、生活の質(・3207・uality of life;QOL)、日常生活活動(activities of daily living;ADL)を低下させる。降圧療法の長期的な目標は、心血管病の発症リスクを低下させることによって、総死亡率と心血管病による死亡率を低減させることにある。
優れた降圧薬が数多く登場してきた現在、血圧を下げること自体は比較的容易である。降圧治療は長期にわたるため、副作用が少なく服薬コンプライアンスに優れ、心血管系合併症の発症抑制を考慮した降圧薬選択が望まれる。循環器系疾患治療薬の多施設共同研究の成績が次第に明らかにされ、EBMの重要性はますます高くなっている。しかしいずれの成績も諸外国で実施されたものがほとんどであり、日常診療の面から考えれば必ずしも日本人に当てはまらない。また昨今、心血管病発症の危険因子の集積を意味する「メタボリックシンドローム」が国内外を問わずトピックとなっているが、こうしたハイリスクグループでの心血管病に対する予後検討は十分とはいえない。われわれはこの点を重視し、加齢、性、糖尿病、喫煙、高脂血症、肥満などの危険因子の中から重要と考えられる因子を複数合併する高血圧患者を対象として、バルサルタン上乗せ治療の効果を検討する目的で大規模臨床試験を開始した。
対象症例
対象となる症例は20歳以上の男女で、1つ以上の心血管病リスク(糖尿病、喫煙習慣、脂質代謝異常、肥満、虚血性心疾患、脳血管疾患、慢性心不全、心電図上の左室肥大所見)を合併する高血圧患者3,000例である。
評価項目(エンドポイント)
一次評価項目は、心血管事故(心筋梗塞、狭心症、心不全、脳卒中、急性大動脈解離、閉塞性動脈硬化症など)の発生である。
二次評価項目は、総死亡、心機能の悪化、不整脈、糖尿病の発症・悪化などである。
なお、割付結果をマスクされた症例の評価判定は、本試験と独立したエンドポイント委員会が行う。
プロトコール
試験デザインはPROBE(前向き・ランダム化・オープンラベル・エンドポイントブラインド)法で、最小化法によって2群割付を行う。割付調整因子は、年齢、性別、脂質代謝異常、糖尿病、喫煙習慣、肥満、心血管病既往、心不全既往である。治療スケジュールは、バルサルタン投与群は80mg/日から開始、降圧不十分の場合160mg/日まで増量、その後は追加禁止薬(ARB、ACE阻害薬)以外の既存降圧薬を用いる(図)。一方、対照群は追加禁止薬以外の既存治療薬で継続加療する。
割付因子登録、定期検査入力、イベント・中止脱落報告などはすべてweb上で随時入力される。組織としては、運営委員会以外に、エンドポイント委員会、安全性勧告委員会、サブスタディ委員会、独立統計解析機関などが設置されている。

図 治療スケジュール
結果
本研究に参加する京都府立医科大学および関連施設は、関西一円の都市部・地方の広範囲に位置するため、登録症例はわが国を代表する患者集団と考えられる。症例登録は2004年1月から開始、2007年7月時点で登録目標の3,000例に到達した。登録症例の概要は男性57%で、合併リスクは脂質代謝異常が最も多く、肥満、糖尿病、心血管病既往、喫煙、心不全既往の順であった。
結論
これまでわが国では高血圧性細動脈病変に起因する脳卒中が多く、欧米と比べて心原性脳塞栓や虚血性心疾患の発生頻度が少ないことが特徴とされてきた。しかしながら、日本では人口の高齢化が急速に進行しており、世界に先駆けて超高齢社会を迎える。また若年者を中心に生活習慣が欧米化し、高脂血症や糖尿病患者が増加しつつある。肥満人口も急増中で、喫煙率も依然高率のまま推移している。本研究によって得られた日本人によるエビデンスが、今後のわが国の高血圧治療における大きな指標となることを祈念している。
略語
バルサルタン:選択的AT(1)受容体ブロッカーで、優れた降圧効果と心腎保護作用を有する。ノバルティス社により開発、世界各国で臨床使用されている。
PROBE法:大規模臨床試験方法の一つで、prospective randomized open-label blinded-endpointの略。前向き・ランダム化・非盲検で試験が実施され、エンドポイント評価は被検者の割付情報を知らない第三者が行うことで盲検化するのが特徴。
Recommended Readings
- Mochizuki S et al:Lancet 369:1431-1439, 2007

