助けるのが正解か、引き返すのが正解か・・・


地震が起きたのは金曜日の昼間。轡さんと一緒に在宅医療を支えている医師、看護師、ヘルパーたちのほどんどが訪問に出ていた。そのなかで、轡さんは一人の仲間を失った。

その看護師は海沿いに住む患者さんのもとを訪れていた。手足や喉、舌の筋肉がやせ衰えていくALS(筋萎縮性側索硬化症)の寝たきりの高齢の方で、夫と二人暮らしをしていた。津波が迫るなか、患者さんの夫とともに患者さんを担ぎ上げ、二人を二階に避難させるやいなや、津波にのまれた。

「患者さんの無事を確認しました」。チームのメーリングリストに、そうメッセージを送ったのが、最後の言葉だった。

「こうした話は美談になりがちですが、『お前、よくやった』という気持ちはないんです。ただ、行くか行かないかは、その人の価値観、人生観、自分が抱えているものでもって判断しなければいけないので、難しいところですよね」

もし彼女が助けに向かわなかったら、寝たきりの患者さんを夫一人で担いで助け出すのは無理だっただろう。身を挺して助けるのが正しかったのか、途中で思い切って引き返すのが正しかったのか。そこに答えはない。ただ、轡さんには、仲間を失った辛さと、「なんで帰ってきてくれなかったんだ」という思いが残る。