病気のことを伝える力


たとえば、学校に戻っても、体力が低下していて、みんなと同じようには授業を受けられなかったり、体育の授業はいつも見学しなければいけなかったりする場合もある。「なんで?」「何の病気だったの?」とクラスメートに聞かれ、ちゃんと説明を受けていないために答えられず、「何か隠している!」と、友だちが離れていったり、いじめにつながったりすることもあるという。

そのほか、小児がん経験者は、進学や就職、結婚といった人生のさまざまな局面で、この“伝える”という作業に向き合わなければいけない。

「就職試験で、履歴書に白血病のことを書いたために、面接で30分間延々と『どんな病気なの?』と聞かれ続け、結局、落とされたという方もいれば、小児がんだったというだけで縁談が破談になったという方も。伝え方や伝える内容、伝える相手を考えなければ、人間関係が壊れたり、人生の選択肢が狭まってしまったりするという現実は今なおあります」

また、再発したときや、別の病気になったときも、自分の病気についてしっかり理解し、伝えることが求められる。
小俣さんの場合、30代前半の時に二度目の、30代後半で三度目のがんを経験している。二度目のがんは、足の裏にできたほくろを取ったときに見つかった。三度目のがんは、乳がん。ある日、胸からの出血に気づき、病院に行ったところ、0期の乳がんだった。抗がん剤やホルモン剤は使わず、乳房を温存する手術を行い、再発予防のための放射線治療を受けた。

病気のことを伝える力

「がん体質なんですよね」。小俣さんはさらりと言う。
「二つとも、晩期合併症だそうです。がん細胞が脳脊髄に侵入することを防ぐために頭蓋照射なども行っていますし、小児がんは抗がん剤が効きやすいからこそ、大人よりも強い治療を受けています。だから、治療後に二次がんをはじめ、さまざまな病気や障害が発生します」

がんが再発したとき、病院で「(小児がんで)どんな治療を受けたのか」「どんな薬を使ったのか」を聞かれたものの、当時のカルテも残っていなければ、きちんと説明を受けていなかった小俣さんに伝えられる情報は限られていた。

「子どもたちが自立していくには、さまざまな局面で“伝える”ということが必須。それに病気になったときにずっと小児科で診ていただくわけにはいきませんから、大人になったら情報を自分のものとして使えなければいけません」

そのためには、「年齢に応じて、言葉を変えながら何度も説明するべき」と小俣さんは言う。
「病名を伝えることが告知ではありません。今、体の中で何が起きているのか、これからどうなるのかという説明が必要。子どもの場合は特に、病名よりも、『どうしてこんなに病院に拘束されなければいけないの?』『なぜ、痛い注射、痛い検査をされるの?』『なんでこんなに吐くの?』といった、起こっていることの説明が大切ですし、子どもの年齢や、一人ひとりの理解度に合わせて説明の仕方も変わってくると思うのです」