ノバルティス、シポニモドフマル酸の新データをAANで発表 二次性進行型MS患者で認知機能の重要な要素である認知処理速度に対するプラスの影響が示される
プレスリリース
報道関係各位
ノバルティス ファーマ株式会社
この資料は、ノバルティス(スイス・バーゼル)が2019年5月8日(現地時間)に発表したプレスリリースを日本語に翻訳・要約したもので、報道関係者の皆様に対する参考資料として提供するものです。本剤は日本国内では未承認です。資料の内容および解釈については英語が優先されます。英語版はhttps://www.novartis.comをご参照ください。
- 二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者を対象とした最大規模の無作為化比較対照臨床試験であるEXPAND試験データから、シポニモドフマル酸は患者の認知処理速度(CPS)に対してベネフィットを示す1
- 多発性硬化症(MS)での最大の障害の1つである認知機能障害の影響はMS患者の50~70%におよび、SPMS患者ではさらに深刻に2
- EXPAND試験の結果から、早期に治療を受けたSPMS患者は最も大きなベネフィットを受けることが示され、早期治療が良好な認知的転帰につながることを示唆1
- シポニモドフマル酸は、典型的なSPMS患者集団を対象とした主要な臨床試験で有効性が証明された、疾患活動性を有するSPMSに対して米国食品医薬品局(FDA)に承認された唯一の治療薬
2019年5月8日、スイス・バーゼル発–ノバルティスは、第III相EXPAND試験の新たな解析を発表しました。SPMS患者を対象にシポニモドフマル酸を投与したところ、認知機能の重要な要素であるCPSに臨床的に意義のあるプラスの影響が認められることが示されました。また、EXPAND試験のデータから、認知障害が軽度なうちに治療を受けた患者は、プラセボと比較してシポニモドフマル酸の治療から最も大きなベネフィットを受けることが示され、良好な認知的転帰を得るためには早期治療が重要なことが示唆されました1。良好な認知的転帰は患者の自立をより長期間維持できるようにするために重要です。これらの結果は、米国ペンシルベニア州フィラデルフィアで開催された2019年米国神経学会(AAN:American Academy of Neurology)年次総会で発表されました。シポニモドフマル酸は、典型的なSPMS患者集団を対象とした主要な臨床試験の良好な結果に基づき、疾患活動性を有するSPMSに対しFDAに承認された唯一の治療薬です。
認知機能障害はMS患者とその家族の生活に大きな影響をおよぼします。MS患者の半数から4分の3は診断から10年以内に失業しており3、認知機能障害は失業の主要な予測因子となっています4。さらに、認知機能に問題がある患者は社会活動への参加頻度が低下するため4、患者の全体的な健康状態および人間関係に影響をおよぼす可能性があります。
Buffalo General Medical Centerの神経心理学の教授であり、EXPAND試験の治験責任医師でもあるラルフ・ベネディクト(Ralph Benedict)博士は、次のように述べています。「認知機能の低下はMS患者さんにとって深刻な不安要素です。SPMS患者さんでは、その不安がさらに大きいと思います。EXPAND試験では、SPMS患者さんと研究者にとって、期待が持てる結果が明らかになりました。認知機能を保持することはMSの疾患修飾治療の極めて重要な目標ですので、シポニモドフマル酸が認知機能の低下を抑制する可能性があることが分かり嬉しく思います」
EXPAND試験では、CPSに対するシポニモドフマル酸の効果を標準的な検査(SDMT:Symbol Digit Modalities Test)により測定しました。CPSは、過去に学習した情報を記憶することや情報を想起して作業を完了させること、言葉を想起して会話すること、以前と同じくらい迅速に情報を処理して対応することなど、患者の日常生活に影響をおよぼします。CPSの悪化は、MSにおける認知機能の低下が目に見えて分かる最初の徴候となることが多く、単純な作業がますます困難になるため、患者の生活の質に著しい影響をおよぼします5。AANで発表されたデータによると、シポニモドフマル酸を投与した患者では、プラセボを投与した患者と比べて、有意に高い割合でSDMTの持続的な改善が認められました(p=0.0131)1。シポニモドフマル酸は、SPMSのすべての範囲でプラセボより優れていましたが、特に以下の点が明らかになりました。
- 認知障害が軽度で早期に治療を受けた患者は、シポニモドフマル酸の治療から最も大きなベネフィットを受け、臨床試験および追跡調査を通して有意に高い割合で意義のある改善が認められました(再発患者ではp=0.0126、最初のSDMTスコアが中央値以上の患者ではp=0.0094)1
- さらに疾患が進行した患者においても、シポニモドフマル酸の治療がSDMTの悪化を遅延させるというベネフィットが認められました(ベースライン時に認知機能障害が認められた患者ではp=0.0269、最初のSDMTスコアが中央値未満の患者ではp=0.0071)1
しかし、簡易視空間記憶テストの改訂版(BVMT-R、記憶の評価)などの検査では、シポニモドフマル酸の治療による有意な差は認められませんでした。
以前に公表されたEXPAND試験のデータから、シポニモドフマル酸がSPMS患者の脳萎縮の速度を20%以上有意に遅くする(相対的差異、12ヵ月間および24ヵ月間の平均値p=0.0002)ことが示されています6。脳萎縮は、認知機能の低下および身体的機能障害の進行に関連していることが明らかになりました6。
ノバルティスの中枢神経領域のグローバル開発責任者、ダニー・バーゾウハー(Danny Bar-Zohar)は次のように述べています。「AANで発表された認知機能障害に対する有意な作用は、シポニモドフマル酸が身体的機能障害の進行を遅らせ、患者の生活にプラスの影響を与える可能性があることを改めて示すことが出来ました。シポニモドフマル酸により、SPMSで有効性が証明された治療法がついに得られました」
2019年3月、ノバルティスは、clinically isolated syndrome(CIS)*、再発寛解型MS(RRMS)および疾患活動性SPMSに対してシポニモドフマル酸の承認をFDAから受けました。シポニモドフマル酸による治療を開始した患者では、特定の心疾患の既往を有する患者を除き、初回投与観察(心臓モニタリング)は不要となります**。欧州連合におけるシポニモドフマル酸の薬事承認は、2019年末と見込まれており、スイス、日本、オーストラリアおよびカナダにおいても本年中の薬事承認と予測されています。
*Clinically isolated syndrome(CIS)は、24時間以上継続する神経症状の初回エピソードと定義され、中枢神経系の炎症または脱髄が原因です13。
**日本においては、初回投与観察(心臓モニタリング)の必要性は確定していません。
EXPAND試験について
EXPAND試験は、無作為化、二重盲検、プラセボ対照第III相臨床試験で、総合障害度評価尺度(EDSS)スコアが3.0から6.5の様々なレベルの身体的機能障害を有するSPMS患者を対象に、シポニモドフマル酸の有効性および安全性をプラセボと比較しています。本試験は、これまでのSPMSを対象とした試験としては最大規模の無作為化比較対照試験であり、31カ国から1,651名のSPMS患者が参加しました。シポニモドフマル酸は、S1P受容体調節薬のこれまでの報告と概して大きく異ならない安全性プロファイルが示されました。また、3ヵ月間持続する身体的機能障害の進行(CDP :confirmed disability progression)のリスクが21%減少し、統計学的に有意でした(主要評価項目、p=0.013)。CDPは、EDSSで、ベースラインスコアが3.0~5.0の場合は1ポイントの上昇、ベースラインのスコアが5.5~6.5の場合は0.5ポイントの上昇が認められた場合と定義されています。T25FWではプラセボとの間に有意差は認められませんでしたが、T2病変容積ではプラセボと比べ79%抑制していました。その他の副次評価項目では、ARRのプラセボに対する抑制率は55%を示し、ガドリニウム増強病変が認められない患者(89%)および新規またはT2病変の拡大が認められない患者(57%)の割合はプラセボと比べ高くなっていました6。
シポニモドフマル酸について
シポニモドフマル酸は、次世代の選択的スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体調節薬で、米国では、CIS*、再発寛解型および疾患活動性を有する二次性進行型を含む成人の再発性多発性硬化症(RMS)に適応されます。シポニモドフマル酸は、S1P1およびS1P5受容体に選択的に結合します。S1P1受容体では、リンパ球がリンパ節から流出することを防ぎ、その結果、多発性硬化症患者の中枢神経系(CNS)に移行することを防ぎます。これにより、シポニモドフマル酸の抗炎症作用が発揮されます6。また、シポニモドフマル酸はCNS内に移行し、CNS内の特定の細胞(オリゴデンドロサイトおよびアストロサイト)上のS1P5およびS1P1サブ受容体と直接結合し7、ミエリン再形成を促進して炎症を防ぎます。
*Clinically isolated syndrome(CIS)は、24時間以上継続する神経症状の初回エピソードと定義され、中枢神経系の炎症または脱髄が原因です13。
多発性硬化症について
多発性硬化症(MS)は、世界でほぼ230万人が罹患しているCNSの慢性疾患です8。MSには、RRMS(診断時の病態として最も頻度が高い)、SPMSおよび一次性進行型MS(PPMS)の3種類の病型があります9。MSは、炎症や組織の脱落によって、脳、視神経および脊髄の正常な機能が障害される疾患です10。
MS患者の約85%が最初はRRMSと診断され、その後SPMSに移行します。SPMSは、神経機能が経時的に徐々に悪化していくことを特徴としています11。これにより、神経系の身体的機能障害が進行性に蓄積されます。疾患活動性を有する(再発やMRIでの新規活動性の所見が認められる)SPMSにおいて身体的機能障害の進行を遅延させる安全かつ有効な治療には、今なお高いアンメットニーズがあります12。
多発性硬化症に対するノバルティスの取組みについて
ノバルティスの多発性硬化症治療薬のポートフォリオには、RMSに対して適応を有する「ジレニア®」(S1P調節薬、一般名:フィンゴリモド塩酸塩)(「ジレニア」)があります。米国および欧州連合において、「ジレニア」は成人、小児および青年(10歳以上)のRMSの治療に適応されています。日本において「ジレニア」は、「多発性硬化症の再発予防及び身体的障害の進行抑制」を効能又は効果として発売しております。
2019年3月、ノバルティスは、CIS*、再発寛解型疾患および疾患活動性を有する二次性進行型疾患を含む成人のRMS治療を適応としてFDAからシポニモドフマル酸の承認を取得しました。シポニモドフマル酸は、SPMS患者を対象とした最大規模の比較対照臨床試験である第III相EXPAND試験において、身体的機能障害および認知機能低下に対する効果を含む疾患進行のリスクを顕著に軽減したことから承認されました6。日本において、シポニモドフマル酸は、SPMSを適応として 承認取得申請中です。
開発中の化合物として、CD20を標的とし、皮下投与される完全ヒトモノクローナル抗体のオファツムマブ(OMB157)が、現在、海外で2本の第III相試験を実施中です。オファツムマブはRMSを対象に開発中です。本邦において、オファツムマブは多発性硬化症を対象として第Ⅲ相臨床試験を実施中です。
皮下注射用インターフェロンベータ-1b(日本では未承認)は、米国ではRMSの治療薬として承認され、欧州ではRRMS、疾患活動性を有するSPMS、およびMSを示唆する単相性の臨床症状を有する患者に対する治療薬として承認を取得しています。
ノバルティスのサンド事業部門は、米国において、テバ社のグラチラマー酢酸塩注射剤のジェネリック医薬品20 mg/mL、40 mg/mLを販売しています。
*Clinically isolated syndrome(CIS)は、24時間以上継続する神経症状の初回エピソードと定義され、中枢神経系の炎症または脱髄が原因です13。
免責事項
本リリースには、現時点における将来の予想と期待が含まれています。したがって、その内容に関して、また、将来の結果については、不確実な要素や予見できないリスクなどにより、現在の予想と異なる場合があることをご了解ください。なお、詳細につきましては、ノバルティスが米国証券取引委員会に届けておりますForm20-Fをご参照ください。
ノバルティスについて
ノバルティスは、より充実したすこやかな毎日のために、これからの医薬品と医療の未来を描いています。私たちは、医薬品のグローバルリーディングカンパニーとして、革新的な科学とデジタルテクノロジーを駆使し、医療ニーズの高い領域で変革をもたらす治療法の開発を行っており、新薬開発のために、常に世界トップクラスの研究開発費を投資しています。ノバルティスの製品は、世界中の7億5千人以上の患者さんに届けられています。また、私たちは、ノバルティスの最新の治療法に多くの人がアクセスできるように革新的な方法を追求しています。約10万5千人の社員が世界中のノバルティスで働いており、その国籍は約140カ国に及びます。詳細はホームページをご覧ください。https://www.novartis.com
以上
参考文献
- Benedict R, Fox R, Tomic D, et al. Effect of Siponimod on Cognition in Patients with Secondary Progressive Multiple Sclerosis (SPMS): Phase 3 EXPAND Study Subgroup Analysis. Poster presentation. 2019 American Academy of Neurology Annual Meeting, May 7, 2019.
- Planche V, et al. Cognitive impairment in a population-based study of patients with multiple sclerosis: differences between late relapsing-remitting, secondary progressive and primary progressive multiple sclerosis. Eur J Neurol 2016;23:282-289.
- Julian L, et al. Employment in multiple sclerosis. J Neurol 2008:255:1354-1360.
- Larocca N, et al. Factors associated with unemployment of patients with multiple sclerosis. J Chronic Dis. 1985:38(2):203-10.
- Benedict R, et al. Validity of the Symbol Digit Modalities Test as a cognition performance outcome measure for multiple sclerosis. 2017:23(5):721-733.
- Kappos L, Cree B, Fox R, et al. Siponimod versus placebo in secondary progressive multiple sclerosis (EXPAND): a double-blind, randomized, phase 3 study. Lancet. 2018:391(10127):1263-1273
- Tavares A, et al. Brain distribution of MS565, an imaging analogue of Mayzent (BAF312), in non-human primates. Neurology. 2014:82(10):suppl. P1.168.
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- National MS Society. Clinically Isolated Syndrome (CIS). https://www.nationalmssociety.org/Symptoms-Diagnosis/Clinically-Isolated-Syndrome-(CIS). Accessed May 2019.