ノバルティス、結節性硬化症の治療薬として、mTOR阻害剤 「アフィニトール®」の適応拡大承認を取得
プレスリリース
報道関係各位
ノバルティス ファーマ株式会社
ノバルティス ファーマ株式会社(代表取締役社長:綱場 一成)は、本日、「アフィニトール®錠2.5mg/5mg」及び「アフィニトール®分散錠2mg/3mg」(一般名:エベロリムス、以下「アフィニトール」)について、効能又は効果を、「結節性硬化症」として、製造販売承認事項の一部変更承認を取得いたしました。
結節性硬化症(TSC)は、Tsc1 遺伝子(Tsc1)又はTsc2 遺伝子(Tsc2)の機能喪失変異によってmTOR活性が恒常的に上昇することにより発症し、皮膚、神経系、腎、肺、骨等、全身のさまざまなところに過誤腫と呼ばれる良性の腫瘍や過誤組織と呼ばれる病変ができる遺伝性の病気です。症状の発現時期や重症度は、年齢や性別、個々の患者さんによってさまざまですが、新生児期には心臓の腫瘍(横紋筋腫)、乳児期にはてんかん発作や知的障害、学童期からは顔面血管線維腫が多くみられます。また、脳腫瘍(上衣下巨細胞性星細胞腫:SEGA)、腎臓腫瘍(血管筋脂肪腫:AML)、肺のリンパ脈管平滑筋腫症(LAM)等、重大な合併症を伴う場合もあり1、新生児期から生涯にわたって、各症状に応じた治療が必要となります。中でも、てんかん発作、皮膚症状や精神神経症状を含む多様な症状は、患者さんの QOL を低下させ、進学や日常生活への著しい支障となるだけでなく、家族による介護及び経済的支援を永続的に必要とする場合も少なくありません。日本でのTSC有病率はおよそ 10,000人に 1人、患者数は約 10,000~15,000人前後と推定されており2、2015年に指定難病に追加されています。
「アフィニトール」は、病因であるmTOR活性の亢進を抑制するmTOR阻害剤であり、「結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫」及び「結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞性星細胞腫」を効能又は効果として、2012年に承認されていますが、これらの適応はTSCの一部の症状に留まっていました。一方で、TSC患者さんの80~90%に発症する3とされるてんかん発作は、その多くが乳幼児期に発症し、患者さんやご家族の生活に強く影響を与える症状の一つです。TSCに伴うてんかんは難治性の割合が高く、発達や知的障害に関係しますが、有効な治療法は限られています。そのため、てんかん部分発作を有するTSC患者さんを対象とした臨床試験を新たに実施し、またTSCのその他の症状に関する探索的な臨床試験結果や公表文献等を踏まえ、効能又は効果を「結節性硬化症」として、適応拡大を行いました。
ノバルティス オンコロジー ジャパンのプレジデントであるブライアン・グラッツデンは次のように述べています。「臨床試験では、患者さんご自身のQOL低下やご家族の生活にも影響を与えうるTSCに伴う難治性のてんかん部分発作に対しても『アフィニトール』の効果が認められました。今回の適応拡大により、てんかん部分発作を有するTSC患者さんのQOL改善に貢献できることを嬉しく思います。ノバルティスは、引き続き、医療上のアンメットニーズの高い希少疾患領域の開発に、全力で取り組んでまいります」
今回の承認は、検証的試験として新たに実施した、2種類以上の抗てんかん薬による治療で十分な発作抑制効果が得られないTSCに伴うてんかん部分発作患者366名(日本人患者35名を含む)を対象に、抗てんかん薬との併用下で「アフィニトール」投与群とプラセボ群を比較した、国際共同臨床試験(EXIST-3試験:多施設共同、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照)の結果等に基づいています。EXIST-3試験の主要評価項目である50%Responder rate(てんかん部分発作の発現頻度がベースラインから50%以上減少した被験者の割合)は、「アフィニトール」低トラフ群で28.2%、高トラフ群で40.0%、プラセボ群で15.1%であり、プラセボ群と比較していずれの「アフィニトール」群でも有意に高い数値を示しました。(無作為化時の年齢により層別化したCochran-Mantel-Haenszelの正確検定、低トラフ群p=0.008、高トラフ群p<0.001)4。
EXIST-3試験では、「アフィニトール」を投与した361名(日本人35名を含む)中、314名(87.0%)に副作用が発現しました。主な副作用は、口内炎(口腔内潰瘍等を含む)240名(66.5%)、感染症131名(36.3%)、下痢40名(11.1%)、発熱40名(11.1%)等でした(2017年10月カットオフ)4。
「アフィニトール®」(一般名:エベロリムス)について
「アフィニトール」は、mTORを選択的に阻害する抗悪性腫瘍剤です。mTOR は,細胞内情報伝達系において、上流の多くの因子からシグナルを受容し、複数の下流経路を調節することから、多機能性シグナル伝達蛋白質とされ、栄養素のセンサー及び細胞代謝のモニターとしての役割を持ちます。また、 mTOR は、さまざまな刺激に応じ蛋白質合成を制御し、細胞の成長、増殖(血管新生を含む)、生存を調節するとともに、細胞周期の移行の促進に関しても中心的な役割を果たしています。さらに、mTORは、中枢神経系の各発達段階においても重要な役割を果たしていることが知られています5。TSC の患者さんでは、原因遺伝子であるTsc1 及びTsc2 の遺伝子変異によって TSC1/2 蛋白質複合体の機能低下・機能不全が起こり、mTOR 活性が上昇することにより、腎AML、SEGA、皮膚病変等の腫瘍性病変に加え、てんかんや自閉症等の精神神経症状等さまざまな全身症状に関与すると考えられています。
「アフィニトール」は、今回のTSCの治療薬としての承認の他に、腎細胞がん、神経内分泌腫瘍、乳がんに対する治療薬として、120カ国以上で承認されています。国内では、「アフィニトール®錠」の販売名で、2010年1月に根治切除不能又は転移性の腎細胞がん、2011年12月に膵神経内分泌腫瘍、2012年11月に結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫及び結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞性星細胞腫、2014年3月に手術不能又は再発乳がん、2016年8月に神経内分泌腫瘍を効能又は効果として承認を取得しています。また、「アフィニトール®分散錠」については、2012年12月に結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞性星細胞腫を効能又は効果として承認されています。
ノバルティス ファーマ株式会社について
ノバルティス ファーマ株式会社は、スイス・バーゼル市に本拠を置く医薬品のグローバルリーディングカンパニー、ノバルティスの日本法人です。ノバルティスは、より充実したすこやかな毎日のために、これからの医薬品と医療の未来を描いています。ノバルティスは世界で約10万5千人の社員を擁しており、7億5千万人以上の患者さんに製品が届けられています。詳細はホームページをご覧ください。
https://www.novartis.co.jp
以上
参考文献
- 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター
- [Agata T (1999)] Epidemiology of tuberous sclerosis in Japan. Gann Monogr on Cancer Res; 46:27-35.
- [金田眞理,水口雅,波多野孝史,他 (2018)] 結節性硬化症の診断基準及び治療ガイドライン―改訂版―. 日皮会誌; 128(1):1-16.
- 「アフィニトール錠®2.5mg/5mg」添付文書 2019年8月改定(第15版)「アフィニトール分散錠®2mg/3mg」添付文書 2019年8月改定(第9版)
- [Wong M (2010)] Mammalian target of rapamycin (mTOR) inhibition as a potential antiepileptogenic therapy: From tuberous sclerosis to common acquired epilepsies. Epilepsia; 51(1):27-36.
<参考資料>
「アフィニトール®錠」「アフィニトール®分散錠」の製品概要
製品名:
「アフィニトール®錠2.5mg」
「アフィニトール®錠5mg」
「アフィニトール®分散錠2mg」
「アフィニトール®分散錠3mg」
一般名:
エベロリムス
効能又は効果*:(取消線部は、今回の承認により変更となった部分)
<アフィニトール®錠>
- 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌
- 神経内分泌腫瘍
- 手術不能又は再発乳癌
- 結節性硬化症
に伴う腎血管筋脂肪腫 結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞性星細胞腫
<アフィニトール®分散錠>
結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞性星細胞腫
用法及び用量*:(取消線及び下線部は、今回の承認により変更となった部分)
<アフィニトール®錠>
腎細胞癌、神経内分泌腫瘍、結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫の場合
通常、成人にはエベロリムスとして1日1回10mgを経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。
手術不能又は再発乳癌の場合
内分泌療法剤との併用において、通常、成人にはエベロリムスとして1日1回10mgを経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。
結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞性星細胞腫の場合
成人の結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫の場合
通常、エベロリムスとして1日1回10mgを経口投与する。なお、患者の状態やトラフ濃度により適宜増減する。
上記以外の場合
通常、エベロリムスとして3.0mg/m2を1日1回経口投与する。なお、患者の状態やトラフ濃度により適宜増減する。
<アフィニトール®分散錠>
成人の結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫の場合
通常、エベロリムスとして10mgを1日1回、用時、水に分散して経口投与する。なお、患者の状態やトラフ濃度により適宜増減する。
上記以外の場合
通常、エベロリムスとして3.0mg/m2を1日1回、用時、水に分散して経口投与する。なお、患者の状態やトラフ濃度により適宜増減する。
承認条件:
以下の承認条件が付与されています。
医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。
承認取得日:
2019年8月22日
薬価:
「アフィニトール錠 2.5mg」 5,373.30 円(2.5mg1錠)
「アフィニトール錠 5mg 」 10,410.20円 (5mg1錠)
「アフィニトール分散錠 2mg」 4,249.20円 (2mg1錠)
「アフィニトール分散錠 3mg」 6,218.30 円(3mg1錠)
製造販売:
ノバルティス ファーマ株式会社
*効能又は効果に関連する使用上の注意並びに用法及び用量に関連する使用上の注意は、添付文書をご覧下さい。