ノバルティスのLCZ696、PARAGON-HF試験において左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)患者へのベネフィットを示唆するも、主要評価項目はわずかに未達
プレスリリース
報道関係各位
ノバルティス ファーマ株式会社
この資料は、ノバルティス(スイス・バーゼル)が2019年9月1日(現地時間)に発表したプレスリリースを日本語に翻訳・要約したもので、報道関係者の皆様に対する参考資料として提供するものです。本剤は日本国内では未承認です。資料の内容および解釈については英語が優先されます。英語版はhttps://www.novartis.comをご参照ください。
- LCZ696は、心不全による全入院(初回および再入院)および心血管死の複合エンドポイントを減少させるも、わずかに統計学的に有意ではなかった(p=0.059)1
- 症状、生活の質(QOL)、腎機能を含む様々な指標の改善等、総合的にHFpEFにおいて臨床的に重要なベネフィットが示唆された1
- LCZ696 の安全性および忍容性は、HFrEF患者でこれまでに得られた結果と同様であった1
2019年9月1日、スイス・バーゼル発 – ノバルティスは本日、左室駆出率(以下、LVEF)の保たれた心不全(以下、HFpEF)患者を対象に、LCZ696(一般名:サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)の安全性および有効性を実薬対照であるバルサルタンと比較検討した国際共同第Ⅲ相試験PARAGON-HFの結果を発表しました。LCZ696は、心不全による全入院(初回および再入院)および心血管死の主要複合エンドポイントを13%減少させました(p=0.059)。本結果は、主に心不全による全入院(初回および再入院)の約15%(p=0.056)減少に起因していました1。
本試験から得られた一連の結果は、病態が多様で承認された治療法のないHFpEFにおいて2,3、LCZ696による治療が特定のサブグループで臨床的に重要なベネフィットをもたらす可能性を示唆しています。事前に規定されたサブグループ解析では、LVEFの中央値57%以下の患者(主要評価項目で22%のリスク低下; 95%信頼区間:0.641、0.949)および女性患者(主要評価項目で27.5%のリスク低下; 95%信頼区間:0.588、0.895)で、より高い効果が示唆されました1。安全性および忍容性は、HFrEF患者で以前報告された結果と同様でした1。現在、LCZ696は、HFrEF(一般的にLVEF40%未満と定義)で承認されており、その治療に不可欠な薬剤となっています2,4-7。今回得られた結果は、欧州心臓病学会(European Society of Cardiology, ESC)2019年次総会で発表され、The New England Journal of Medicineに掲載されました1。
ノバルティスの循環器・腎臓・代謝領域開発部門統括責任者であるデビッド・ソルゲル(David Soergel, M.D.)は、次のように述べています。「ノバルティスは、PARAGON-HF試験によってHFpEFの科学的エビデンス構築に大きく貢献できたことを誇りに思います。本試験は、この複雑な疾患における治療選択肢の必要性が極めて高いことを示しています。ノバルティスは心不全治療の未来を描くことに取り組んでおり、今回得られた結果についてさらに理解を深めていく予定です。また、医学専門家や規制当局と次のステップについて協議を継続していきます」
ハーバード大学医学部およびブリガム・アンド・ウィミンズ病院の内科学教授でPARAGON-HF試験 Executive Committee Co-chairであるスコット・ソロモン氏(Scott Solomon, M.D.)は、次のように述べています。「主要エンドポイントの減少は統計学的に有意ではありませんでしたが、PARAGON-HF試験で得られたエビデンスは、総合的に、HFpEF患者、特にLVEFが正常値未満の患者においてLCZ696はバルサルタンと比較してベネフィットを示す可能性、また、本結果からはHFpEFの複雑さが示されており、男性よりもこの疾患に罹患しやすい女性を含め、治療により高い効果をしめす特定の患者集団の可能性を示唆しています」
グラスゴー大学医学部教授でPARAGON-HF試験Executive Committee Co-Chairを務めるジョン・マクマレー氏(John McMurray, M.D.)は、次のように述べています。「PARAGON-HF試験によって、HFpEFという疾患および影響のある患者について理解を深める豊富なデータが得られました。PARADIGM-HF試験結果を考慮すると、PARAGON-HF試験においてLVEFがより低いHFpEF患者集団でLCZ696がより高い治療効果を示したことは、驚くことではありません」
LCZ696は、HFrEFにおけるアンジオテンシン変換酵素(ACE))阻害薬エナラプリルに対する優越性、並びに心血管死および心不全による入院リスクの有意な減少により、HFrEFに対する第一選択かつ重要な薬剤に位置付けられています5,8,9。
PARAGON-HF試験について
PARAGON-HF試験は、HFpEF患者を対象とした過去最大の臨床試験です10。この第III相、ランダム化、二重盲検、並行群間、実薬対照、2群比較、event-driven試験では、HFpEF患者4,822例を対象に、LCZ696のバルサルタンに対する長期有効性および安全性を比較検討しました10。本試験は、心不全症状および併存疾患の治療を受けているHFpEFが確定した外来患者を対象としており、その約半数に心不全による入院の既往がありました1,10。本試験の主要評価項目である心不全による全入院(初回および再発)および心血管死の複合エンドポイントで13%の減少を示しましたが、わずかに統計学的有意ではありませんでした。また、主要評価項目に対するより顕著な効果は、治験責任医師が報告した(非判定)イベント(15.7% のリスク低下; RR=0.843; 95%信頼区間: 0.736, 0.966; p=0.0140)だけでなく、事前に規定されたサブグループ解析においてLVEFの中央値57%以下の患者(22%のリスク低下 ; RR=0.780; 95%信頼区間: 0.641, 0.949)、および女性の患者(27.5% のリスク低下; RR=0.725; 95%信頼区間: 0.588, 0.895)でも認められました1。
副次評価項目では、8ヵ月時点でのKCCQ Clinical Summary Score(CSS)で、LCZ696群はバルサルタン群よりもQOLの悪化が少ないことが示されました。New York Heart Association(NYHA)心機能分類の変化も、バルサルタン群よりもLCZ696群で良好でした。さらに、LCZ696による治療は、複合腎エンドポイントのリスクを有意に減少させました。総死亡率では群間差は認められませんでした1。
安全性および忍容性解析の結果:
- LCZ696はHFpEF患者において安全性と忍容性が良好であり、概してPARADIGM-HF試験でHFrEF患者において観察された結果と同様でした。
- 低血圧は、バルサルタン群(17%)よりもLCZ696群(23.2%)で多く発現が認められましたが、低血圧による中止率は同程度でした(それぞれ2.4%および2.3%)。
- 血管性浮腫の発現頻度は両群とも低く、LCZ696群で15件(0.58%)、バルサルタン群で4件(0.17%)であり、気道障害または死亡に至った血管性浮腫事象は認めらませんでした。
- LCZ696群では、バルサルタン群と比較して腎機能障害および高カリウム血症の発現率が低く、これらの事象による治験薬投与中止率も低値でした1。
PARAGON-HF試験は、HFpEFで唯一のポジティブな第Ⅱ相試験であるPARAMOUNT-HF試験に続き実施されました。PARAMOUNT-HF試験では、バルサルタンと比較して、LCZ696による投与12週時のNT-proBNP (心筋負荷のバイオマーカー)の大幅な低下や、36週時のNYHA心機能分類の改善が示されました。他にも、HFpEFの他の評価項目についてLCZ696の効果を検討する試験が進行中です11,12。
心不全について
心不全とは、生命を脅かす消耗性かつ進行性の疾患です。全世界で約2,600万人が罹患しており、心臓が十分に血液を体に送り込むことができない状態です2,13,14。心不全には、主にHFpEFとHFrEFの2つの異なるタイプがあります15。
HFpEFについて
HFpEFは、心筋の収縮能は正常であるものの、心室充満(または拡張)時に心室の拡張が充分でない特徴があります16。HFpEFは、高い入院率、QOLの低下、死亡率の増加を伴うことが報告されており17、心不全の主要なタイプになりつつあります18。なお、現在、HFpEFに対して承認された治療法はありません2,3。
HFrEFについて
HFrEFは、従来より知られている心不全の一つであり、収縮不全としても知られています19,20。HFrEFでは、心臓の収縮力が十分でないために、送り出す血液が少ないという特徴があります16。HFrEFに対しては、承認された治療選択肢があります2,21。
HFrEFに対するLCZ696について
LCZ696は1日2回投与する薬剤で、機能不全に陥った心臓の負荷を軽減します8。LCZ696は、心臓に対する防御的な神経ホルモン機構(NP系、ナトリウム利尿ペプチド系)を促進すると同時に、過剰に活性化したレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)による有害な影響を抑制することで作用します8,22。ACE阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)などの心不全治療薬は、過剰に活性化したRAASによる有害な影響を抑制するにとどまります。LCZ696は、有効成分としてネプリライシン阻害薬であるサクビトリル、およびARBであるバルサルタンを含有しています8,23。
欧州では、LCZ696は成人の左室駆出率が低下した症候性慢性心不全を適応としています8。米国では、LCZ696は収縮不全を伴う心不全(NYHAクラスII~IV)患者の治療を適応としています23。LCZ696は、エナラプリルと比較して心血管死と心不全による入院リスク、30日以内の再入院リスク、並びに全死亡リスクを減少させ、健康に関連するQOLを改善することも示されています4,7,24。LCZ696は通常、ACE阻害薬またはARBに替えて、他の心不全治療薬と併用投与します8,23。承認された適応症は、各国により異なる場合があります。
免責事項
本リリースには、現時点における将来の予想と期待が含まれています。したがって、その内容に関して、また、将来の結果については、不確実な要素や予見できないリスクなどにより、現在の予想と異なる場合があることをご了解ください。なお、詳細につきましては、ノバルティスが米国証券取引委員会に届けておりますForm20-Fをご参照ください。
ノバルティスについて
ノバルティスは、より充実したすこやかな毎日のために、これからの医薬品と医療の未来を描いています。私たちは、医薬品のグローバルリーディングカンパニーとして、革新的な科学とデジタルテクノロジーを駆使し、医療ニーズの高い領域で変革をもたらす治療法の開発を行っており、新薬開発のために、常に世界トップクラスの研究開発費を投資しています。ノバルティスの製品は、世界中の7億5千万人以上の患者さんに届けられています。また、私たちは、ノバルティスの最新の治療法に多くの人がアクセスできるように革新的な方法を追求しています。約10万8千人の社員が世界中のノバルティスで働いており、その国籍は約140カ国に及びます。詳細はホームページをご覧ください。https://www.novartis.com
以上
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