ノバルティスのLCZ696、PARAGON-HF試験において左室駆出率(LVEF)の低下した心不全(HFrEF)以外でもベネフィットを示す
プレスリリース
報道関係各位
ノバルティス ファーマ株式会社
この資料は、ノバルティス(スイス・バーゼル)が2019年11月17日(現地時間)に発表したプレスリリースを日本語に翻訳・要約したもので、報道関係者の皆様に対する参考資料として提供するものです。本剤は日本国内では未承認です。資料の内容および解釈については英語が優先されます。英語版はhttps://www.novartis.comをご参照ください。
- LCZ696はバルサルタンと比較し、左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)のうちHFrEFに近い患者において最大のベネフィットを示した1
- LCZ696はバルサルタンと比較し、男性よりも女性において心不全によるすべての入院および心血管死のリスクの低下を示した2
- LCZ696はバルサルタンと比較し、入院の既往のある患者のうち、入院中または入院後30日以内にスクリーニングされた患者において、最も高い治療効果を示した3
- LCZ696 の安全性および忍容性は、これまでに得られた結果と同様であった1,2,4,5
- 本解析は、先に発表されたPARAGON-HF試験結果(わずかに統計学的有意差はなかったものの、総合的に治療効果を示した)に基づき実施された
2019年11月17日、スイス・バーゼル発 – ノバルティスは本日、拡張不全としても知られる、左室駆出率(以下、LVEF)が保たれた心不全(以下、HFpEF)患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験PARAGON-HFの新たなサブ解析結果を発表しました6。本解析により、LCZ696(一般名:サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)がバルサルタンと比較し、特定のサブグループにおいて心不全による入院および心血管死の減少効果が高い可能性が示唆されています。この臨床的ベネフィットは、女性のHFpEF患者、および心不全による入院直後(入院中または入院後30日以内)のHFpEF患者において認められました。さらに、PARAGON-HF試験(HFpEF)とPARADIGM-HF試験(HFrEF)のデータを統合した併合解析では、LVEFが約60%未満の患者において、より大きな臨床的ベネフィットを示す可能性を示唆しています。HFpEFは女性により多くみられる心不全で、現在承認されている治療法はありません6-8。今回得られた解析結果は、米国心臓協会(American Heart Association, AHA)2019年次総会の学術セッションで発表され、性別の解析はCirculation誌に、また入院の解析はJournal of the American College of Cardiology(JACC)誌に同時に掲載されました。
現在、LCZ696は、HFrEF患者(一般的に左室駆出率40%以下と定義)に対して承認されている重要な治療薬です5,7,9-11。これは、PARADIGM-HF試験において、心血管死および心不全による入院リスクについて、LCZ696がアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬エナラプリルに対して優越性を示した結果に基づいています9,12,13。
第III相試験PARAGON-HFの主要結果は、欧州心臓病学会(ESC)2019年次総会で発表されました。本結果では、主要評価項目である心不全によるすべての入院(初回および再発)および心血管死の複合エンドポイントにおいて、相対的に13%のリスク低下を示しましたが、わずかに統計学的に有意ではありませんでした4。
ハーバード大学医学部およびブリガム・アンド・ウィミンズ病院の内科学教授でPARAGON-HF試験 Executive Committee Co-chairであるスコット・ソロモン氏(Scott Solomon, M.D.)は、次のように述べています。「この新たな解析から、LCZ696による治療のベネフィットが、HFrEFを定義するLVEF値よりも高い値を有する患者にまで広がる可能性が示唆されています。また、今回得られた結果は、病態が多様であり,かつ治療選択肢が依然として必要なHFpEF患者へのLCZ696の潜在的ベネフィットについて理解を深めるのに役立ちます。」
グラスゴー大学医学部教授でPARAGON-HF試験Executive Committee Co-Chairを務めるジョン・マクマレー氏(John McMurray, M.D.)は、次のように述べています。「この新たな解析は、LCZ696が心不全による入院から間もないHFpEF患者さんでより大きなベネフィットを示す可能性や、入院後の脆弱な期間に治療を開始することでさらなるイベントの減少に繋がる可能性を示しています。入院後の期間と治療効果との関係を理解することにより、心不全患者さんの治療最適化の一助となる可能性があります。」
ノバルティスの循環器・腎臓・代謝領域開発部門統括責任者であるデビッド・ソルゲル(David Soergel, M.D.)は、次のように述べています。「ノバルティスは循環器疾患に苦しむ患者さんの未来を描くことに取り組んでおり、心不全における科学的理解をさらに深めていく予定です。今回得られた新たな知見は、依然として患者さんのニーズが高く複雑な病態であるHFpEFを含め、心不全患者さんに対するLCZ696のあらゆる可能性を検討するために進行中の研究を後押しするものです。」
AHAの学術セッションで発表されたPARAGON-HF試験のサブ解析について
第III相PARAGON-HF試験(HFpEF患者n=4,796)およびPARADIGM-HF試験(HFrEF患者n=8,399)のデータを統合した併合解析では、心不全によるすべての入院(初回および再発)および心血管死の複合エンドポイントを評価するため、LCZ696群とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)阻害薬群の効果について異なるLVEF範囲毎に比較しました1。2群間の解析により、心不全によるすべての入院および心血管死は、RAAS阻害薬群と比較してLCZ696群で減少を示しました1。心血管死の減少は、主にPARADIGM-HF試験でのLVEFが40%以下の患者の結果に起因していました1。LCZ696によるこれらの治療効果は、特定のサブグループにおいてより顕著に認められました:
- 最大の治療ベネフィットは、LVEFが約60%未満の患者で認められました1。心不全による入院、心血管死、および全死亡の減少効果は、LVEFが高値になるほど減少しました1。全死亡率の減少は、HFrEF患者での減少に起因していました1。
- 男性と比較して、女性でより高いLVEFカテゴリーまで治療ベネフィットが認められました1。
事前に規定されたPARAGON-HF試験のサブグループ解析では、HFpEF患者(n=4,796;女性2,479、男性2,317)の性差について、心不全によるすべての入院および心血管死をバルサルタン群と比較しました2。女性では、LCZ696により、心不全によるすべての入院の相対リスクが33%(95%信頼区間:15-47)低下し、100人あたり年間4イベントの絶対リスク減少が認められました。男性では、LCZ696群によりバルサルタン群に比較して7%の相対リスク増加、並びに100人あたり年間0.9イベントの絶対リスク増加が認められたものの2、8カ月時点のNYHA(New York Heart Association)心機能分類の変化やKCCQサマリースコアに基づくQOL悪化を含む探索的副次評価項目において、LCZ696による治療改善効果が認められました2。
さらに、PARAGON-HF試験(n=4,796)の別の事後解析では、直近の入院からの時間による治療ベネフィットの違いを検討するため、心不全によるすべての入院および心血管死についてLCZ696群とバルサルタン群で比較しました3。LCZ696の心不全によるすべての入院および心血管死に対する効果は、入院中または入院直後にスクリーニングされた患者で最大でした3。LCZ696によるリスク低下は、入院後30日以内の患者(RR=0.73; 95%信頼区間:0.53-0.99)から入院歴のない患者(RR=1.00; 95%信頼区間:0.80-1.24)まで、入院からの期間と相関していました3。また、心不全による入院後の期間が短いほど、心不全によるすべての入院または心血管死のリスクが高いことが示されました3。
PARAGON-HF試験について
PARAGON-HF試験は、HFpEF患者を対象とした過去最大の臨床試験です14。この第III相、ランダム化、二重盲検、並行群間、実薬対照、2群比較、event-driven試験では、HFpEF患者4,822例を対象に、LCZ696のバルサルタンに対する長期有効性および安全性を比較検討しました4,14。本試験は、心不全症状および併存疾患の治療を受けているHFpEFが確定診断された外来患者を対象としており、その約半数に心不全による入院歴がありました4。本試験の主要評価項目である心不全による全入院(初回および再発)および心血管死の複合エンドポイントで、LCZ696はバルサルタンと比較して13%の減少を示しましたが、わずかに統計学的有意ではありませんでした(RR=0.87; 95% CI: 0.75, 1.01; p=0.06)1。絶対リスク減少率は100人あたり年間1.8イベントでした。また、主要評価項目に対するより顕著な効果は、事前に規定されたサブグループ解析においてLVEFの中央値57%以下の患者(22%の相対リスク低下 ; RR=0.78; 95%信頼区間: 0.64, 0.95)(絶対リスク減少率=100人あたり年間6.6イベント)、および女性の患者(27% の相対リスク低下; RR=0.73; 95%信頼区間: 0.59, 0.9)(絶対リスク減少率=100人あたり年間3.9イベント)でも認められました4[治験医師報告によるイベント評価に基づく解析では16.3%の相対リスク低下; RR=0.84; 95%信頼区間: 0.74, 0.97)(絶対リスク減少率=100人あたり年間6.6イベント)]。
副次評価項目では、8ヵ月時のKCCQ Clinical Summary Score(CSS)で、LCZ696群はバルサルタン群よりもQOLの悪化が少ないことが示されました。NYHA心機能分類の変化も、バルサルタン群よりもLCZ696群で良好でした。さらに、LCZ696による治療は、複合腎エンドポイントのリスクを有意に減少させました。総死亡率では群間差は認められませんでした4。
安全性および忍容性に対する解析の結果:
- LCZ696はHFpEF患者において安全性および忍容性が良好であり、概してPARADIGM-HF試験でHFrEF患者において観察された結果と同様でした4,5。
- 低血圧は、バルサルタン群(n=2,389; 10.8%)よりもLCZ696群(n=2,407; 15.8%)で多く発現が認められました4。
- 血管浮腫の発現頻度は両群とも低く、LCZ696群で14件(0.6%)、バルサルタン群で4件(0.2%)であり、気道障害に至った血管浮腫事象は認められませんでした4。
- LCZ696群では、バルサルタン群と比較して腎機能低下(1.4% vs 2.7%)、および高カリウム血症(0.8% vs 1.8%)の発現率が低値でした。
PARAGON-HF試験は、HFpEFで唯一のポジティブな第Ⅱ相試験であるPARAMOUNT試験に続き実施されました14,15。他にも、HFpEFの他の評価項目についてLCZ696の効果を検討する試験が進行中です。
HFrEFに対するLCZ696について
LCZ696は1日2回投与する薬剤で、機能不全に陥った心臓の負荷を軽減します12。LCZ696は、心臓に対する防御的な神経ホルモン機構(NP系、ナトリウム利尿ペプチド系)を促進すると同時に、過剰に活性化したレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)による有害な影響を抑制することで作用します12,15。ACE阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)などの心不全治療薬は、過剰に活性化したRAASによる有害な影響を抑制するにとどまります。LCZ696は、有効成分としてネプリライシン阻害薬であるサクビトリル、およびARBであるバルサルタンを含有しています12,16。
欧州では、LCZ696は成人の左室駆出率が低下した症候性慢性心不全を適応としています12。米国では、LCZ696は収縮不全を伴う心不全(NYHAクラスII~IV)患者の治療を適応としています16。LCZ696は、エナラプリルと比較して心血管死と心不全による入院リスク、30日以内の再入院リスク、並びに全死亡リスクを減少させ、健康に関連するQOLを改善することも示されています5,11,17。LCZ696は通常、ACE阻害薬またはARBに替えて、他の心不全治療薬と併用投与します12。承認された適応症は、各国により異なる場合があります。
本剤は日本国内では未承認です。
免責事項
本リリースには、現時点における将来の予想と期待が含まれています。したがって、その内容に関して、また、将来の結果については、不確実な要素や予見できないリスクなどにより、現在の予想と異なる場合があることをご了解ください。なお、詳細につきましては、ノバルティスが米国証券取引委員会に届けておりますForm20-Fをご参照ください。
ノバルティスについて
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以上
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