ノバルティス ファーマ、脊髄性筋萎縮症に対する遺伝子治療用製品「ゾルゲンスマ®点滴静注」の製造販売承認を取得
プレスリリース
報道関係各位
ノバルティス ファーマ株式会社
ノバルティス ファーマ株式会社(代表取締役社長:綱場 一成)は本日、脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する遺伝子治療用製品として「ゾルゲンスマ®点滴静注」(一般名:オナセムノゲン アベパルボベク、以下「ゾルゲンスマ」)の製造販売承認を取得しました。
「ゾルゲンスマ」は、SMAの根本原因である遺伝子の機能欠損を補う遺伝子補充療法で、1回の点滴静注で治療が完了します。SMAの原因遺伝子であるヒト運動神経細胞生存(Survival Motor Neuron: SMN)タンパク質をコードする遺伝子が組み込まれたアデノ随伴ウイルス9型のカプシドを有する非増殖性遺伝子組換えアデノ随伴ウイルス(AAV9)を利用し、正常なSMN遺伝子を運動ニューロン等に導入してヒトSMNタンパク質を安定して発現することで、SMAに対する作用を示します。年間の投与対象患者数は15~20人程度と見込んでいます。
今回の承認について、ノバルティス ファーマ株式会社の代表取締役社長である綱場 一成は次のように述べています。「SMAは、脊髄前角の運動神経の変性によって筋委縮や筋力低下を示す進行性の下位運動神経疾患です。もっとも症状の重い1型SMAの場合、生後6ヵ月までに発症し、患者さんの10人中9人は2歳の誕生日を迎えられないか、生涯にわたって人工呼吸器が必要となります。今回承認を取得した『ゾルゲンスマ』は、この疾患の原因になっている遺伝子の機能欠損を補う画期的な治療法で、新しい治療選択肢を必要としている患者さんの人生を大きく変える可能性があります」
脊髄性筋萎縮症とは
脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy: SMA)は、脊髄前角細胞の変性・消失によって進行性に筋力低下と筋萎縮を呈する下位運動ニューロン病です1。SMAは、常染色体劣性遺伝性の希少疾患であり、SMAの特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は、平成30年度末に全国で858人、0歳~9歳は30人と報告されております2。また、遺伝性疾患による乳幼児の主な死亡原因であり3、日本における指定難病の1つです。
SMAは、発症年齢と最高到達運動機能によってⅠ~Ⅳ型の4タイプに分類されます(Ⅳ型は成人発症、出生前発症型で重篤なものは0型に分類する場合もあります1, 4)。
Ⅰ 型(乳児型)SMAは、重症かつ高頻度にみられ3、0~6ヵ月齢で発症し、患者の90%以上が20ヵ月齢前に死亡又は人工呼吸器による永続的な呼吸管理が必要な状態になります4, 5。また、虚弱や低血圧、成長不全を伴うため、寝たきりとなり動くことができなくなります。Ⅱ、Ⅲ又はⅣ型SMAにおいても、病状の進行に伴い歩行機能の喪失および筋力の低下により、患者の社会生活が困難となり、QOLが著しく低下します。
「ゾルゲンスマ」について
ゾルゲンスマは、SMAの原因遺伝子であるヒト運動神経細胞生存(Survival Motor Neuron: SMN)タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだ、野生型のアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)を利用した遺伝子治療用ベクター製品です。
静脈内に投与された本品は、SMAの根本原因であるSMN1 遺伝子の機能欠損を補って、運動ニューロンでSMNタンパク質を発現させ、運動ニューロンの変性・消失を防ぎ、神経及び筋肉の機能を高め、筋萎縮を防ぐことで、SMA患者の生命予後及び運動機能を改善することが期待されます。また、導入したSMN遺伝子は患者のゲノムDNAに組み込まれることなく、細胞の核内にエピソームとして留まり、運動ニューロンのような非分裂細胞に長期間安定して存在するように設計されています。
今回の承認は,SMA患者を対象に実施したCL-101試験、CL-102試験、CL-303試験、CL-304試験及びLT-001試験の計5試験の結果に基づくものです。CL-101試験(Ⅰ型SMA 患者を対象とした海外第Ⅰ相試験)においては6、13.6ヵ月齢時の永続的な呼吸補助を必要としない生存率は、全例(n=15)で100%であり、ゾルゲンスマはSMAの自然経過に関する研究であるPediatric Neuromuscular Clinical Research (PNCR)における集団(未治療)と比較して、永続的な呼吸補助を必要としない生存率を改善しました。また、CL-101試験の投与後24ヵ月時において、承認用量群(n=12)の11例は「3秒以上支えなしに頸定を保持する」、「支えありで座る」及び「5秒以上支えなしで座る」、10例は「10秒以上支えなしで座る」、9例は「30秒以上支えなしで座る」、「寝返りをする」、2例は「補助ありで立つ」、「自力で立つ」、「補助ありで歩行する」及び「自力で歩行する」ことが可能となりました。
また、SMAを対象とした臨床試験において、本品が投与された82例(日本人2例を含む)中35例(42.7%)に副作用が認められました。主な副作用は、AST増加9例(11.0%)、ALT増加、トランスアミナーゼ上昇及び嘔吐が各6例(7.3%)でした(2019年3月8日データカットオフ)。重大な副作用として肝機能障害(19.5%)、肝不全(頻度不明)、血小板減少症(6.1%)が報告されています。
「ゾルゲンスマ」の開発経緯
ゾルゲンスマは米国AveXis社が開発した製品です。AveXis社は2018年5月にノバルティス傘下のグループ会社となり、米国においてはその後もAveXis社が開発を主導しました。日本においてはノバルティス ファーマ株式会社がゾルゲンスマの開発を引き継ぎました。
国内では、ゾルゲンスマは2018年3月に先駆け審査指定制度対象品目に指定され、同年10月には希少疾病用再生医療等製品に指定されました。その後、同年11月に厚生労働省に本品の製造販売承認申請を行い、2020年3月に2歳未満の「脊髄性筋萎縮症(臨床所見は発現していないが、遺伝子検査により脊髄性筋萎縮症の発症が予測されるものも含む)ただし、抗AAV9抗体が陰性の患者に限る」を効能、効果又は性能として製造販売承認を取得しました。米国では2019年5月に製造販売承認を取得し、欧州においては2020年上半期中の製造販売承認の取得を目指しています。
ノバルティス ファーマ株式会社について
ノバルティス ファーマ株式会社は、スイス・バーゼル市に本拠を置く医薬品のグローバルリーディングカンパニー、ノバルティスの日本法人です。ノバルティスは、より充実したすこやかな毎日のために、これからの医薬品と医療の未来を描いています。ノバルティスは世界で約10万9千人の社員を擁しており、7億5千万人以上の患者さんに製品が届けられています。ノバルティスに関する詳細はホームページをご覧ください。
https://www.novartis.co.jp
以上
参考文献
- 齋藤加代子:小児科. 59(12), 1845, 2018.
- 難病情報センターホームページ(http://www.nanbyou.or.jp/entry/5354)(2020年3月時点)
- Awano T. et al.:Neurotherapeutics. 11(4), 786, 2014.
- Kolb SJ. et al.:Arch Neurol. 68(8), 979, 2011.
- Finkel RS. et al.:Neurology. 83(9), 810, 2014.
- 社内資料:Ⅰ型脊髄性筋萎縮症患者を対象とした海外第Ⅰ相試験(CL-101試験)(承認時評価資料)
<参考資料>
ゾルゲンスマ®点滴静注 の製品概要
製品名
「ゾルゲンスマ®点滴静注」
一般名
オナセムノゲン アベパルボベク
効能、効果又は性能
脊髄性筋萎縮症(臨床所見は発現していないが、遺伝子検査により脊髄性筋萎縮症の発症が予測されるものも含む)ただし、抗AAV9抗体が陰性の患者に限る。
《効能、効果又は性能に関連する使用上の注意》
- SMN1遺伝子の両アレル性の欠失又は変異が確認された患者に投与すること。
- 2歳未満の患者に投与すること。
- 疾患が進行した患者(永続的な人工呼吸が導入された患者等)における有効性及び安全性は確立していないことから、これらの患者に投与する場合には、リスクとベネフィットを十分考慮すること。
- 承認された体外診断薬を用いた検査により抗AAV9抗体が陰性であることが確認された患者に投与すること。
用法及び用量又は使用方法
通常、体重2.6kg以上の患者(2 歳未満)には、1.1×1014 ベクターゲノム(vg)/kgを60分かけて静脈内に単回投与する。本品の再投与はしないこと。
本品の投与液量は下記表に従い体重に基づき算出する。

注)投与液量は体重幅の上限値に基づき算出した。
2歳未満で13.6kg以上の患者には、体重に基づき投与液量を算出すること。
《用法及び用量又は使用方法に関連する使用上の注意》
- 本品の調製、静脈内投与に際しては以下の点に注意すること。
- 本品は無菌的に調製すること。
- 凍結された本品は2~8℃で約16時間、又は室温にて約5.5時間で解凍する。解凍した本品は再凍結しないこと。
- 解凍後の本品は2~8℃で保存すること。
- 解凍後の本品は振とうしないこと。
- 投与前に、本品の適切な投与液量をバイアルから投与用注射筒に採取すること。
- 投与前に本品の状態を確認し、粒子状物質や変色が認められた場合には、本品を投与しないこと。
- 投与用注射筒に本品の適切な投与液量をバイアルから採取後、8時間以内に本品を投与すること。採取後8時間以上経過した場合は、本品を投与せず廃棄すること。
- 本品投与前に、点滴チューブを生理食塩液でプライミングすること。
- 本品投与終了後、生理食塩液で点滴チューブをフラッシュすること。
- 使用後の本品、バイアル及び投与用注射筒等は、感染性廃棄物として、各医療機関の手順に従って密封等を行い、適切に廃棄すること。
- 本品投与により肝機能障害が発現することがあることから、下表を参考にプレドニゾロンの投与を行うこと。
表 プレドニゾロンの投与方法
本品の投与24時間前にプレドニゾロンを1 mg/kg/日で投与し、その後、本品の投与後30日間はプレドニゾロンを1 mg/kg/日で継続する。30日間継続した時点で、AST及びALTが基準値上限の2倍以下である場合には、その後4週間以上かけてプレドニゾロンを漸減し(最初の2週間は0.5 mg/kg/日、次の2週間は0.25 mg/kg/日)、プレドニゾロンを中止する。30日間継続した時点で、AST及びALTが基準値上限の2倍を超えていた場合には、AST及びALTが基準値上限の2倍以下、その他の肝機能検査値が正常範囲内に回復するまで、プレドニゾロンを1 mg/kg/日で継続し、その後4週間以上かけてプレドニゾロンを漸減
承認条件及び期限
- 国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は、全症例を対象に使用の成績に関する調査を実施することにより、本品使用患者の背景情報を把握するとともに、本品の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本品の適正使用に必要な措置を講ずること。また、製造販売後調査等における対象患者の長期成績について、解析結果を厚生労働省及び医薬品医療機器総合機構宛て報告するとともに、必要に応じ適切な措置を講ずること。
- 脊髄性筋萎縮症に関する十分な知識及び経験を有する医師が、本品の臨床試験成績及び有害事象等の知識を十分に習得した上で、脊髄性筋萎縮症の治療に係る体制が整った医療機関において、「効能、効果又は性能」並びに「用法及び用量又は使用方法」を遵守して本品を用いるよう、関連学会との協力により作成された適正使用指針の周知等、必要な措置を講ずること。
- 「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)」に基づき承認された第一種使用規程を遵守して本品を用いるよう、その使用規程の周知等、必要な措置を講ずること。
承認取得日
2020年3月19日
製造販売
ノバルティス ファーマ株式会社
ノバルティス ファーマ、脊髄性筋萎縮症に対する遺伝子治療用製品「ゾルゲンスマ®点滴静注」の製造販売承認を取得(PDF 499KB)