ノバルティス ファーマ、多発性硬化症に対する日本で初めてのB細胞を標的とする治療法「ケシンプタ®皮下注20mgペン」の製造販売承認取得
プレスリリース
報道関係各位
ノバルティス ファーマ株式会社
ノバルティス ファーマ株式会社(代表取締役社長:レオ・リー)は、本日、多発性硬化症(以下、MS)に対して日本で初めてのB細胞を標的とする治療法である「ケシンプタ®皮下注20mgペン」(一般名:オファツムマブ、以下「ケシンプタ」)について、製造販売承認を取得しました。
「ケシンプタ」は、ペン型デバイスを用いて月1回皮下投与で治療可能な完全ヒト抗CD20モノクローナル抗体であり、主にリンパ節のCD20陽性B細胞表面に結合することにより、B細胞の融解および減少を誘発する、国内で初めてのMSに対するB細胞を標的とする治療法です1,2,3。B細胞はMSの障害進行の原因となる炎症性サイトカイン産生やT細胞の異常活性化を促すため、B細胞の除去がMSの効果的な病態修飾ならびに優れた臨床的有効性の発現につながると期待されます。また、B細胞は、MS病態における初期から進行期に至る一連の臨床経過ステージにおいて関与が示唆されていることから、「ケシンプタ」は、幅広い患者に対して治療選択肢となることが考えられます。
また、MSは、有効性の高い薬剤の早期導入によって障害進行に対する長期的なベネフィットを得られることが明らかになりつつある一方4、
- 有効性と安全性のバランス
- 患者一人ひとり違う予後不良因子や症状
- 患者が好む剤型やライフスタイルに合った投与頻度
といった状況に鑑みて薬剤選択をする必要があり、治療選択肢が限られることが課題です。加えて、患者と医師は双方ともに「再発をなくしたい」もしくは「再発をなくす治療が理想である」と考えており5、再発のない状態を維持することもMS治療において大変重要であることが示唆されます。
「ケシンプタ」は海外では1st lineの治療薬として位置づけられることも多いteriflunomide21,22,23(国内未承認)との比較試験(第Ⅲ 相試験:ASCLEPIOS IおよびII試験)において、主要評価項目である年間再発率(ARR)をそれぞれ51%および59%と大幅に減少させ(いずれもP < .001)、統合解析においても、teriflunomide投与群と比較して、3ヵ月間持続する障害進行(CDP)で34.4%(P = .002)の相対リスク低下も示しました1。さらに、teriflunomideと概して同等の安全性プロファイルを示しました。日本人を含む24週間の二重盲検、プラセボ対照試験(APOLITOS試験)においても、Gd造影T1病変をプラセボに比べ94%抑制(p < .001)し、安全性プロファイルもASCLEPIOS試験で得られた結果と同様でした13。加えて、「ケシンプタ」は月1回の皮下投与かつ簡便に使えるペン型デバイスを採用しています。このことから、同剤が、再発と進行の抑制を含めた有効性と安全性を有し、かつライフスタイルに合わせることができる、これまでにない新たなソリューションとなる可能性が期待されます。
「ケシンプタ」の承認について、ノバルティス ファーマの代表取締役社長 レオ・リーは次のように述べています。「MSは、中枢神経(脳・脊髄・視神経)に「脱髄」と呼ばれる病変が多発し、視力障害、運動障害、感覚障害、言語障害など多様な症状があらわれる疾患です6,7。適切な治療を受けられないと、徐々に症状が進行し、車いす生活を余儀なくされる場合もあります。また、日本での患者数が少ないこともあり、周囲から理解を得づらく、不安な気持ちを抱えて生活をおくる方も多くいらっしゃることが考えられます。『ジレニア』、『メーゼント』に加えて、この度承認された『ケシンプタ』が、そのような患者さんが自分らしく前向きに生活を送るための選択肢のひとつとして貢献できることを願っています。私たちは、これからも患者さんが真に必要とするサポートを提供できるよう、神経内科領域疾患の薬剤の研究開発にとどまらない幅広い活動に注力してまいります。」
「ケシンプタ」について
「ケシンプタ」は、成人のMSにおいて、CD20陽性B細胞を標的とする抗体医薬で、月1回の皮下投与かつ簡便に使えるペン型デバイスによって、より柔軟な疾患管理ができる可能性のある製剤です。「ケシンプタ」導入時には0、1、2週目に医師の指導の下、投与されます。前臨床試験で示されているように、「ケシンプタ」はB細胞表面のCD20分子の他の抗CD20抗体分子とは異なるエピトープに結合することにより作用し、強力なB細胞の溶解および減少を誘発します3。また、「ケシンプタ」の標的選択性と皮下投与を採用したことによって、B細胞の減少を必要とするリンパ節への正確なターゲティングと、脾臓でのB細胞温存を両立することが可能となりました8。「ケシンプタ」の月1回の投与は、B細胞の迅速な回復も可能とし、利便性の向上に寄与します9。「ケシンプタ」の有効成分である「オファツムマブ」はジェンマブによって開発され、グラクソ・スミスクラインにライセンス供与されました。ノバルティスは、2015年12月に、MSを含むすべての適応症について、「オファツムマブ」に対する権利をグラクソ・スミスクラインから導入しました10。
ASCLEPIOS IおよびII試験について
ASCLEPIOS IおよびII試験は、再発型MS(RMS)の成人患者を対象として、「ケシンプタ」20mg月1回皮下投与の安全性と有効性をteriflunomide 14mg錠1日1回経口投与との比較から評価する同一デザイン、可変投与期間(最長30ヵ月間)、二重盲検、無作為化、多施設共同、第III相試験です。 ASCLEPIOS IおよびII試験は、総合障害度評価尺度(EDSS)スコアが0~5.5であった18歳から55歳までの1,882名のMS患者が登録されました。試験は、37ヵ国の350を超える医療機関で実施されました11。ASCLEPIOS IおよびII試験において、「ケシンプタ」投与群では、teriflunomide投与群(両方の試験でP <.001)と比較して、主要評価項目である年間再発率(ARR)をそれぞれ51%(0.11 vs 0.22)および59%(0.10 vs 0.25)と大幅に減少させました。また、「ケシンプタ」はASCLEPIOS試験で示されているように、事前に決められた統合解析でteriflunomide投与群と比較して、3ヵ月間持続するCDPで34.4%(P = .002)の相対リスク低下も示しました1。
また、「ケシンプタ」投与群は、teriflunomide投与群と比較してGd増強T1病変と新規または拡大T2病変の両方の有意な抑制を示しました。両試験ともに、「ケシンプタ」投与群は、Gd増強T1病変の平均値を減少させ(ASCLEPIOS IおよびII試験それぞれ98%と94%の相対的な減少、両方ともP <.001)、新規または拡大T2病変についても同様でした(ASCLEPIOS IおよびII試験それぞれ82.0%と84.5%の相対な減少、両方ともP <.001)1。
「ケシンプタ」投与群とteriflunomide投与群は重篤な感染症や悪性腫瘍の発現率においても同等の安全性プロファイルを有していました。上気道感染、頭痛、注射に関連する反応、注射部位への反応は、両群で最もよくみられた有害事象でした(発現頻度≧10%)1。
別の解析によると、「ケシンプタ」がRMS患者における新たな疾患活動を抑制することも示されました。「ケシンプタ」投与群において、NEDA-3(再発なし・MRI病変なし・身体障害進行なし)を達成した患者割合は、1年目で47.0%、2年目では87.8%となりました12。
CD20 陽性 B細胞を標的とする完全ヒトモノクローナル抗体である「ケシンプタ」は、概して優れた有効性を示し、感染症の発現率などteriflunomideと同等の安全性プロファイルを示しました1。
APOLITOS試験について
APOLITOS試験は、日本人を含む24週間の二重盲検、プラセボ対照試験で、最長48週間のオープンラベルの継続投与期が付与されました。過去2年間に1回以上の再発、及び過去1年間にMRI画像で疾患活動性を示したRMS患者を対象とし、「ケシンプタ」20mg皮下注又はプラセボ皮下注に2:1のランダム化比で割り付けられました。日本とロシアで32名ずつ、計64名の被験者(「ケシンプタ」群43名、プラセボ群21名)がランダム化されました。「ケシンプタ」はGd造影T1病変をプラセボに比べ93%抑制(p<0.001)し、この抑制効果は日本とロシアの地域間で同様でした。有害事象は「ケシンプタ」群の69.8%、プラセボ群の81.0%で生じ、最も多く報告された有害事象は注射に伴う反応(「ケシンプタ」群20.9%、プラセボ群19.0%)でした。本試験で新たな安全性のシグナルは認められず、ASCLEPIOS試験で得られた結果と同様でした13。
多発性硬化症について
多発性硬化症(MS)は、ミエリンの損傷、脳、視神経および脊髄の機能障害を特徴とする中枢神経系の慢性炎症性疾患です14。日本におけるMS患者数は約1万5千人とされ、年々増加しています15。また、発症のピークは20歳代で、女性に多い疾患です16。MSは、発症後しばらくは症状があらわれる期間(再発期)と症状が治まる期間(寛解期)を繰り返す再発寛解型MS(以下RRMS)として経過しますが、半数は次第に再発の有無にかかわらず病状が進行する二次性進行型(SPMS)に移行します。進行期に移行すると日常生活に影響をおよぼす不可逆的な身体的障害が徐々にみられるようになります17。また、認知機能障害が進み、雇用に影響をもたらすこともあります18。その結果、日常生活において、次第に家族のサポートが必要となることから、進行の症状は患者のみならず家族の社会生活にも少なからず影響を与える指定難病です19,20。MSのさまざまな病型は、患者が再発(明確に定義できる神経機能を悪化させる急性炎症性発作)を経験するかどうか、および/または疾患の発症から神経損傷および身体障害進行につながるかどうかに基づいて判断されます14。
ノバルティスの神経内科領域における取組みについて
ノバルティスは、神経内科領域においてアンメットニーズの高い疾患に苦しむ患者への革新的な治療法をお届けすることができるよう研究開発に注力しています。私たちは、MS、片頭痛、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、てんかん、注意欠陥多動性障害など、複数にわたる疾患の患者と医療関係者へのサポートに努め、MS、アルツハイマー型認知症、脊髄性筋萎縮症、および特殊神経領域での有望なパイプラインを揃えています。
ノバルティス ファーマ株式会社について
ノバルティス ファーマ株式会社は、スイス・バーゼル市に本拠を置く医薬品のグローバルリーディングカンパニー、ノバルティスの日本法人です。ノバルティスは、より充実したすこやかな毎日のために、これからの医薬品と医療の未来を描いています。ノバルティスは世界で約11万人の社員を擁しており、8億人以上の患者さんに製品が届けられています。ノバルティスに関する詳細はホームページをご覧ください。https://www.novartis.co.jp
以上
参考文献
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- Bar-Or A, Fox E, Goodyear A, et al. Onset of B-cell depletion with subcutaneous administration of ofatumumab in relapsing multiple sclerosis: results from the APLIOS bioequivalence study. Poster presentation at: ACTRIMS; February 2020; West Palm Beach, FL.
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(https://www.msbrainhealth.org/perch/resources/brain-health-time-matters-...) - 医療情報科学研究所 編.: 病気がみえる vol.7 脳・神経 第2版, メディックメディア, 2017
- ノバルティス ファーマ株式会社 MS治療に関する医師と患者への定量調査 2020
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- J.-I.Kira, J. Nakahara, D.V.Sazonov, et al. Efficacy and safety of ofatumumab versus placebo in relapsing multiple sclerosis patients in Japan and Russia: Results from the Phase 2 APOLITOS study, ePoster presentation at: MSVirtual 2020: 8th Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 2020
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- https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/s13311-015-0412-4.pdf
- https://www.cambridge.org/core/journals/canadian-journal-of-neurological...
<参考資料>
「ケシンプタ®皮下注20mgペン」の製品概要
製品名:
ケシンプタ®皮下注20mgペン
一般名:
オファツムマブ(遺伝子組換え)
効能又は効果*:
下記患者における再発予防及び身体的障害の進行抑制
再発寛解型多発性硬化症
疾患活動性を有する二次性進行型多発性硬化症
用法及び用量*:
通常、成人にはオファツムマブ(遺伝子組換え)として1回20mgを初回、1週後、2週後、4週後に皮下注射し、以降は4週間隔で皮下注射する。
承認取得日:
2021年3月23日
製造販売:
ノバルティス ファーマ株式会社
*効能又は効果に関連する注意並びに用法及び用量に関連する注意は、添付文書をご覧下さい。
ノバルティス ファーマ、多発性硬化症に対する日本で初めてのB細胞を標的とする治療法「ケシンプタ®皮下注20mgペン」の製造販売承認取得(PDF 509KB)