自身のスキンチェック・家族同士でのチェックの「習慣化」により、疾患の深刻化を回避する

皮膚科医の永井弥生先生 (※1) 、メラノーマ経験者の松平恵美さん (※2) 、そして、「メラノーマ」について、自身のために・家族のために学んでみたいという30~40代の女性総勢19名をお招きし、「メラノーマ」を一から学ぶWeb 勉強会を開催。

誰もにリスクがあり、また、多くが「見て気がつくことができる」にも拘わらず発症を見落としやすいこの「メラノーマ」について、様々な角度から語り合いました。

※1……永井弥生 (ながい・やよい)
皮膚科医。群馬大学病院准教授を経て、医療安全のスペシャリストとして医療事故の問題解決に深く携わる。現在は医療者と患者の間のコンフリクト(苦情・クレーム・紛争等)対応の第一人者として、講演や研修を行う。「オフィス風の道」代表。

※2……松平恵美 (まつだいら・えみ)
2013年6月にメラノーマと診断を受ける。発見の遅れにより、深刻化した状態から治療を開始。度重なる手術・放射線治療を経て、2015年に開始した薬物治療が功を奏し、現在まで再発なく、仕事・子育て・趣味に邁進する。日本初のメラノーマ患者会「Over The Rainbow」会員。

毎日のスキンケア時間に発見可能?普通のホクロとの違いとは

永井先生(以下永井、登場人物敬称略)ここしばらくの自粛期間で、皆さん、かつてよりスキンケアや、食生活、適度なエクササイズを心掛けていらっしゃるかと思います。美容のお手入れも大事ですが、ご自身の健康に関しても目を向ける良い機会かもしれませんね。 特に本日のメインテーマである「メラノーマ」という疾患は、ホクロと似た形で発現することの多い、つまりは「自分で気がつくことのできる」疾患といえます。「知らない間にできていたホクロ」、皆様もお持ちなのではないでしょうか?

エリカ 母が顔に大きめの目立つホクロを持っていて、少し気にはなっています。

カオリ うちは親も私も首回り中心にホクロが多い体質で……ホクロのがんですよね。気にはなります。

ヒロミ 「メラノーマ」についてネットで検索したことはありますが、正しくは勉強したことはないですね……

永井 病気の早期発見には、正しい知識がとても大事ですよね。まずは「メラノーマ」について、改めて勉強してみましょう。

【メラノーマとは】

永井 メラノーマ=悪性黒色腫が正式な名前です。

「ホクロのがん」と言われていますが、正確には「ホクロに酷似している、非常に見分けにくいがん」といったところです。

いまは新しい治療法により、治る可能性も高くはなっています。

一方で、治すためにはやはり早期の発見が必要ですが、ホクロに似ているため気づきにくいというところが非常に厄介で難しいがんです。

チョモ わたし、ホクロが多い体質で、ホクロがくっついて大きなホクロになったこともあります。自分のホクロに紛れて、実はメラノーマがあったりしたら……

永井 一見みわけにくいのが「メラノーマ」の怖いところの一つですね。

また悪性度が高く、一見小さくてもすでに進行していたり、転移していたりする、皮膚がんの中でも随一恐れられているがんと言えます。

色素を作る細胞「メラノサイト」が悪性化したものが「メラノーマ」と呼ばれ、この「メラノサイト」はもともと皮膚の表皮にあり、悪性化した「メラノーマ」も表皮でとどまっている段階で発見できれば、手術での切除でほぼ治療可能です。

ただ、より深く、真皮に到達すると治療の難易度がぐっと高まります。

表皮から真皮、厚さたった1ミリほど。これを超えるかどうかが、治療の鍵を握るといっても過言ではありません。

たった1ミリの深さがこれだけ影響を与えるがんは、実はそう多くはないのです。

とにかく早く見つけて治療を開始する、これがメラノーマというがんに対する最善の対応なんです。

【どんな人・どんなところにできるの?】

永井 特に50歳以上の方に発症しやすい疾患と言われています(もちろんお若い方の発症の可能性もあります)。

ミズキ 私の父は、顔にたくさんホクロがあるので心配です……男女で罹患の確率って変わるのでしょうか?

永井 男女差はなく、どちらの性別でも等しく注意が必要です。

できる場所は、全身、場所を選びませんが、メラノーマのタイプによって特徴がわかれます。代表的なものは2つ。

「末端黒子型」は手足に、特に「足の裏」に多く見られます。

「悪性黒子型」は顔にできやすく、比較的高齢の方に多く、日光の影響(日焼け)があると言われています。

ほか、爪や粘膜にもできるといわれていますので、油断せず、全身くまなくチェックすることが非常に大切です。

ユウコ 弟が足の裏にホクロをもっていて、両親が気にして検査に行ったことがあります!

エリナ 私はいままでわざわざホクロをチェックしようとしたことがなかったです……確認して、記録していくこと、すごく大事ですね。

永井 日々の確認、すごく大切です!

ここまでが、メラノーマに関する基礎知識。この後は実際にメラノーマと向き合いながら生活している松平恵美さんの体験談をうかがって、より理解を深めていきましょう。

皮膚科受診まで10年以上。メラノーマ闘病体験談

松平 私は2013年にメラノーマであると告知され、ステージ4まで進行しましたが、2015年から開始した新しい治療のおかげで、現在、体の中にがんはないと診断されています。いまでこそ、仕事・子育て・趣味に邁進できていますが、なぜ早くに皮膚科を受診できなかったか・ホクロの異常にすぐに気がつけなかったか、後悔の日々を過ごしました。

カナ 私、顔にできたホクロをとりに行って、たまたまですが「メラノーマ」の検査を受けたことがあります。幸いにしてがんではないと聞いたとき、すごく安心しました。

松平 それは素晴らしいです!早く気が付いて受診するのはすごく大事ですよね。

残念ながら、私はメラノーマがホクロの形をしてあらわれてからなんと10年以上、皮膚科を受診しませんでした。

早期受診に至れなかったのはやはり「知らなかった」から。

Web・本などで調べて、改めて恐ろしさを知った日は、本当に涙が止まらない夜を過ごしました。

そして変化があったのは、2013年の春に大腿部のホクロが急激に形を変え、また大きくなっていったことに気が付いたときです。

子どもと一緒にお風呂に入っていると、

「ママのホクロ、二つあったのがくっついたよ」

「形がどんどんかわるね、今日はウサギさんみたいな形」

……とも言われていました。

シバザキ 私の親も、おでこの二つのホクロが一つにつながったことがあります……まだ診察に行ったことはないのですが……

松平 ホクロが変化するのは、徴候としてはわかりやすいですよね。私は母から「急に大きくなるホクロは病気の可能性がある」と教えられたことを思い出し、ここまできてやっと皮膚科を受診することになったのです。

先ほどの永井先生のお話では、深さが1ミリ超えるかどうかが一つの鍵だと言われていましたが、私の場合は受診時にすでに2.5ミリの深さに達しており、ステージは2。

即手術、除去したものの、翌年2014年に今度は15箇所ほど再発してしまい……

またしても手術、そしてつらい放射線治療の日々が始まりました。

さらに翌2015年にはがんが転移し、ステージ4と診断されました。

治療中は、些細な吹き出ものができるだけで「再発したんじゃないか」とか、心休まる日はなく、常に疑心にかられた状態だったと思います。「身体中にホクロができる夢」を見たり、体のみならず精神状態にもかなりの影響がありました。今は幸いにして「治った」という状態になっていますが、自分の体験から、やはり、夫や子供のホクロはすごく気になるようになりました。

ナナ うちは夫が私の首の後ろのホクロを見つけてくれました。人から指摘されないと気づけない箇所もあるので、家族からチェックしてもらうのはいいですよね。

ナナコ 自分には子供がいますが、生まれた時はなかったのに、大きくなるにつれて少しずつ増えていっているので、私も気になってよく確認しています。

永井 子どものメラノーマ罹患は非常に稀ですが、「絶対ない」とは言い切れないですしね。

ナナさんのご主人のように、「ご家族でのチェック」は、是非みなさんにもしていただきたいところです。

家族相互チェック導入のススメ。メラノーマチェックの基準

永井 早期発見のためには、正しい知識で、自分自身、または家族間でチェックし合うのは非常に有効です。そのためにも、まずはメラノーマを発見するための5つのポイントを、ABCDE (※3) で説明いたします。

A 【Asymmetry】

▶︎左右非対称・形がいびつ

B 【Border】

▶︎輪郭がくっきりしていない

C 【Color】

▶︎黒や茶色が混ざり、色が均一でない

D 【Diameter】

▶︎直径6ミリ以上のもの

E 【Evolving】

▶︎広がっていくもの。色・形・症状が変化する

※3……がん情報サービス https://ganjoho.jp/public/cancer/melanoma/index.html

永井 気になるホクロができたらまずはこのチェック項目に当てはめてみて、すこしでも該当するようだったら、検査をうけましょう。ご両親・ご主人などのご家族、ご友人など、周りの人たちと気にし合って早期発見につなげてくださいね。

永井 また、特に60歳代から男女ともに発症が多いと言われるこの「メラノーマ」ですが、ちょうど皆さんのお父さま・お母さまの世代ではないでしょうか?

チエコ 母がまさに、50歳前後からホクロが急に増えたと言っていました……

マイ うちの母も顔にホクロがたくさん出てきています。水泳をやっていたので、日焼けのせいかと思っていました。

永井 加齢によるシミやホクロというものもあるので紛らわしいですが、こまめにチェックして、ささいな異常にもすぐ気が付ける体制にしたいですね。

ヒカリ 自分自身は健康にすごく気をつけていますが、両親はあまり気にしないタイプで心配になりました。家族同士でチェックし合うのもいいコミュニケーションになりそうなので、両親に提案してみます!

永井 「メラノーマである」という診断は、時に専門医でも初見では判断が難しい場合もありますが、皮膚科専門の病院で検査を受けることで、ホクロの組織検査もできますし、メラノーマの診断に大きな力を発揮するダーモスコピーという痛みを伴わない、簡便な検査ができる機器もあります。残念ながら、今はまだ皮膚がん検診というものを行なっている機関はとても少なく、まずは皆さんが「気づく」ということが早期発見の一番の近道であることは間違いありません。「これはメラノーマかな」というホクロを発見したら、自己判断はせず、とにかく医療機関で診察をうけること。まさにスキンケアと同じで、日々の気づきとケアが、重要な疾患です。

美容だけでなく、健康のためのホクロチェック、是非ご家族と実践してみてください。

勉強会を終えて……参加者の声

マアミ 取れそうな大きなホクロがあるため不安に。さっそく病院に行ってみようかと思います

シホ シミなのかホクロなのかわからないような、大きめのものができて皮膚科受診したことがあります。ただ、がんを疑って受診したわけではない。皮膚がんは、日差しの強い国で発生しやすいイメージがあり、油断があったと思います。

エミ 両親はとくにメラノーマについて気にしてはいませんでしたが、新しいホクロを「発見」はしているようです。ただ診断にはつながっていないので、これから気をつけていきたいです。

エリ これからも日焼け止めを塗るなど、ささやかなことでも気をつけていけたらとおもいます。

サアヤ 母が少し変わった皮膚病に罹患していて、皮膚の病気そのものには興味が強かった。メラノーマはホクロのような見た目だといいますが、母は皮膚病のせいでホクロ自体が見つけにくい状態になってしまっている。今後気をつけてみてあげたいです。

……など、ご参加の皆さんそれぞれの懸念点・気づき・決意を感想として頂戴しました。

誰しもが持っている「ホクロ」。だからこそ見逃しやすい「メラノーマ」という疾患。

本稿をきっかけに、自己チェック・家族同士のチェックに意識を向けてみませんか。

【参考情報】メラノーマ(悪性黒色腫)治療を受ける患者さんのための本(PDF 7.94MB)