ノバルティスで働く魅力 [1]
製薬業界で働くということ
世界最先端のサイエンスからビジネスまで、医師の経験を活かせるフィールドがある
製薬企業に社員として所属する医師は、基礎研究の成果を臨床応用していくトランスレーショナルリサーチを進めていくうえで不可欠の存在であり、欧米では医師のキャリアの選択肢のひとつとして広く認知されています。しかし日本ではその存在や仕事内容があまり知られていません。ここでは、ノバルティス ファーマで実際に社員として働いている医師に登場してもらい、その仕事の実態ややりがいについて率直に語ってもらいました。“仕事”に焦点を当てた対談と、登場する2名それぞれの“キャリア”に焦点を当てた個人紹介のふたつを用意しました。フランクな語り合いの端々から見えてくる2人の熱い想いが印象的です。
対談 [2]

大山 尚貢 Naotsugu Oyama
メディカル本部 執行役員本部長
医師・医学博士・経営学修士
循環器内科医として約8年間、大学病院や一般病院で勤務。医学博士取得後、Harvard Medical SchoolにPost-doctoral fellowとして勤務。その後、製薬企業での勤務を開始。転職後グロービス経営大学院にてMBA(経営学修士)取得。ノバルティス ファーマでは、メディカル部門のトップとして、臨床医やノバルティスのグローバルとコミュニケーションを取る一方、マネジメントにも力を入れています。
北川 洋 Hiroshi Kitagawa
開発本部 開発統括部 血液腫瘍臨床開発部 部長
医師・医学博士・公衆衛生学修士
大学院では病理学を専攻、医学博士取得後、呼吸器内科医として約8年間、一般病院、大学病院で勤務。Harvard School of Public Health に留学し公衆衛生学修士を取得後、NCI(米国国立がん研究所)及びJohns Hopkins大学にてPost-doctoral fellowとして勤務。その後、製薬企業の開発部門で勤務を開始。ノバルティス ファーマでも引き続き開発部門において、革新的な治療を1日でも早く臨床現場に受け入れられる形で患者さんに届けたいと情熱を燃やしています。
幅広い分野において、サイエンスをベースにしながら治療体系の進歩に携わる
--製薬企業に勤務する医師として、どのような仕事を担当していますか? また、その仕事のやりがい、魅力について教えてください。
大山 私はもともと循環器内科医で、製薬企業で働くようになってから、安全性の部門や開発部門も経験しました。現在はメディカルアフェアーズ部門において医薬品が新たに承認を受けた後に、その新薬の医療的価値を最大化するための仕事に取り組んでいます。
営業部門とは一線を画したメディカルアフェアーズと呼ばれる分野は、治験段階では検討ができなかったあるいは検討が不十分であった有効性や安全性について、市販後に科学的な根拠のあるデータを積み重ね、適正使用のための条件を探っていく役割を担っています。
具体的には、疾患知識の啓発や、医師主導の臨床試験をサポートするため、現場の臨床医の先生方とディスカッションしながら患者さんのために新薬が適切な形で現場において貢献できること、またその付加価値を模索すべく仕事を進めています。循環器/代謝・眼科・呼吸器・中枢神経・移植/皮膚/免疫・がん領域などノバルティス ファーマで扱っているあらゆる領域の医薬品が対象です。循環器内科医として研鑽を積むことはその領域のエキスパートになることを意味しますが、企業で勤務することはこうした幅広い領域のことを知ることができるので、視野が広がる楽しさも感じているところです。
北川 私は呼吸器内科の出身で、肺がんの診療および研究経験から、製薬企業においてオンコロジー領域の臨床開発の仕事に取り組むこととしました。オンコロジー領域では、サイエンスの進歩するスピードが速く、その新たな知見を臨床応用していく過程で、アカデミア・規制当局・他の企業など様々なステークホルダーと比較的スピード感をもって協働する必要があります。例えば血液腫瘍に対する再生医療の領域では治験そのものも手探りで進めなければいけない状況です。しかし、新たな薬・治療法を臨床に届けるためにそのダイナミズム自体がとても刺激的で、自分自身の成長にも繋がっている点をとても意義のあるものと感じています。
大山 北川さんはまさに最先端のサイエンスに関わっていますね。世界最先端のサイエンスに触れることができるのは、製薬企業に勤務する医師の感じることのできる魅力の一つでしょう。
北川 それはとても大きいですね。そして、触れるだけでなく、それを患者さんに届けるための仕事をしているのだという確かな実感があります。大山さんも私もトランスレーショナルリサーチに取り組みたいという想いから、製薬企業で働くことを選択したわけですが、自身の臨床・研究経験を活かしながら、その当初の想いを開発の仕事を通してそのまま実現できている。これは本当にやりがいを感じる部分です。
臨床経験と協働、そして患者さんへの想い
--ノバルティス ファーマでは、どのような医師が求められているのですか?
北川 臨床経験は必須だと考えています。ノバルティス ファーマには、さまざまな得意分野を持った人たちが集まっています。 統計家、薬事の専門家、薬剤そのものの専門家もいる。そんな中で医師資格を持つ人間の強みは、患者さんと共に病気と闘った経験があるということです。私自身、臨床医時代には進行した肺がんの患者さんを診療しました。厳しい予後が予想される中でも、患者さんと信頼関係を構築しなければなりません。しかし、そうやって親しくなった患者さんを救えなかったという厳しい現実を味わうことも多い。新たな薬剤や治療法が望まれていることを肌身に感じると共に、薬剤や治療方法そのものだけでなく、それが必要となった患者さんやご家族の人生、それが利用される臨床の現場、そうした文脈を理解しているからこそ、1日でも早く患者さんのもとに新しい薬を届けたいと言う気持ちになるわけです。こうした想いや臨床現場での実際をプロジェクトの仲間に伝えていくことが、製薬企業で働く医師に求められるところであると考えています。
大山 ひとつ強調しておきたいのは、製薬企業においてはチームで仕事をするという意識を持つことが大切だということ。ノバルティスでは、そうした意識を持っている医師が求められています。
北川 ふつうの病院・クリニックでもチーム医療は実践されていますが、医師はその中で治療方針の決定者として関わります。ところが、製薬企業では必ずしもそうではなく、重要な位置づけにはあるものの、プロジェクトにおいてはあくまでチームの一員としての関わりになりますからね。
大山 そうなんですよ。私の仕事に対する意識が大きく変わるキッカケになった出来事があります。私は自信満々で製薬業界に飛び込んだのですが、最初は挫折の連続でした。当初、チームの一員という意識よりも常に「チームをリードする立場」でいようと努力していましたが。それが反対に同僚からはネガティブな評価を受けていたのです。当時受けた360度フィードバック(上司・同僚・部下など様々な角度から受けるフィードバック)のうちネガティブな指摘のほとんどがそのことでした。それを知らされた時は、結構、ショックでした。
北川 臨床医はそもそも360度フィードバックのような形で同僚から評価を受けることがありませんからね。
大山 もうひとつ別の観点でいえば、ノバルティスのような外資系製薬企業ですと、海外のプロジェクトチームメンバーと共に勤務することが必須であることから、英語力も重要となってきます。経験と知識を生かすためには、きちんと英語でディスカッションできる能力は必要です。
北川 大山さんはスイス・バーゼルのノバルティス ファーマ本社で勤務されていましたが、日本の医師のバックグラウンドを持つということはそちらではどのように扱われるのですか。

大山 ノバルティスでは、日本のマーケットの存在感は意外に大きいこともあり、日本の医療システムや実臨床についてなどこちらの発言はとても尊重してくれます。面白いと感じたのは、スイス・バーゼルで10人程度のプロジェクトに参加した時、英語を母国語とする人が1人もいなかったこと。多様な背景を持つ人たちが集まっていて、仕事の道具としてみんな英語を使っていました。道具として英語が使いこなせれば、それでよいわけです。
病院や研究室とは異なる、企業で働くという選択肢
--ノバルティス ファーマにおける医師の活躍フィールドや働き方について教えてください。
北川 ノバルティス ファーマに勤務する医師は、幅広い分野で活躍できると思います。大きく分けると私がいる「開発」、大山さんが取り組んでいる「メディカルアフェアーズ」、それから「安全性」に関わる部門があります。その他、スイスや米国のノバルティスでは、薬事や人事、ビジネス側でも医師は活躍しているようです。
大山 ノバルティス ファーマでは、医師から入職した人でもマネジメントの分野で活躍している人が多くいます。私も北川さんも、部下の育成や組織という枠組みでの業務に関わることも役割の一つです。個人的なことを言えば、私自身はビジネスをもっと深く知りたいという想いがあります。臨床医であった頃の気持ちや経験を製薬企業の中でどのように活かしていくのか。病院や研究室とは異なりますが、医師だからこそビジネスに活かせる力があるとチャレンジしています。ノバルティスにおいては、医師だからといってキャリアパスのあり方に制限はないので、あらゆる可能性が開かれているということです。
北川 もちろんスペシャリストとして専門性を深めていくことも可能です。視野を広げてもいいし、深めることもできる。製薬企業で勤務する医師には自分次第で広げられる多様なキャリアパスの可能性があり、成長のチャンスがたくさん転がっています。また、会社の中だけではなく、企業での勤務経験を経て、その経験を新薬開発・臨床試験という観点から活かすべくアカデミアに戻られる方もいらっしゃいます。
大山 もう一つ製薬企業で働くことの病院勤務との違いについていえば、製薬企業では時間をマネジメントできる裁量が大きいと思います。もちろん、企業に勤務していても治験に参加されている患者さんへの対応が必要なケースはあるかとは思いますが、自らが病院に勤務していた時代のように入院患者さんの容態の急変に対応するようなことはありませんから。ただし、多くの患者さんが服用されるといった観点から一つの薬剤の持つ影響は広く大きいこと、またビジネスとしての存続性という観点は今後の薬剤開発ができるかどうかにも関わってくる部分でもあり、プレッシャーは大きいので、どちらが楽だとか大変だとかということではありませんが。
北川 時間がマネジメントしやすいという意味では、女性医師のキャリアの選択肢として企業で勤務することがもっと注目されてよいと感じます。現在では状況は変わってきているとは聞いていますが、病院で勤務していた頃、出産を契機に家庭にそのまま入られたり、働き方を大きく変更されたりした女性医師の方を何人か見かけました。そうした点では、医師に限った話ではありませんが、私の所属する開発部門全体でいえば約半数が女性社員ですし、ご出産も含めてバランスよく働きながら、そのままキャリアを築かれる人もたくさんいます。日本でも増えつつありますが、スイスや米国では女性のリーダーがとても多いと感じます。
大山 ノバルティス ファーマには、“ダイバーシティ&インクルージョン”と称して性別だけではなく多様な背景・志向・キャリアを持った人たちを受け入れ、共に働くことのできる文化があります。日本においては医師が企業で勤務することに対して抵抗感をもたれていると感じることもありますが、我々は自分達の過去・現在・将来に対してそれぞれの想いを抱き、楽しくやりがいを感じながら働いています。病院や研究室で働かれている医師の皆さんも、今後のキャリア形成の一つの選択肢として、製薬企業で勤務することを考慮してみてもよいのではないかなと思います。
メディカル本部 大山 尚貢 [3]

大山 尚貢 Naotsugu Oyama
メディカル本部 執行役員本部長
医師・医学博士・経営学修士
組織の力を高めることで、革新的な治療を届けたい
私は循環器内科医として約8年間臨床経験を積んだ後、大学院に進学し医学博士を取得しました。その後、Brigham and Women's Hospital, Harvard Medical Schoolにて2年間ポスドクとして勤務したのですが、それがトランスレーショナルリサーチの在り方について考えるきっかけになりました。
病気で苦しむ患者さんを助けたいという気持ちが医師になった原点であり、基礎研究に従事したのも、新しい治療法を開発することによって、これまで助けられなかった人を助けたいという想いからでした。
そんな時、BWHで身近にいた教授が製薬企業に移ったことで、初めて医師のキャリアの一つに製薬企業で働くという道があることを知りました。製薬企業が創薬したものを臨床応用まで持っていっていることは知っていましたが、自分がその一員になるという発想がそもそもなかったのです。自分自身が製薬企業に飛び込めば、医師として目の前の患者さんを救うことに留まらず、より多くの患者さんを助けることができるのではないか!!と、研究を続けながら自分の中にあったモヤモヤした悩みが吹き飛んだ瞬間でした。
企業で働き出して、これまで安全性、開発、メディカルアフェアーズとさまざまな部門で働いてきました。途中、自分にビジネスの知識が足りないと感じたので、グロービス経営大学院に働きながら通学し、MBA(経営学修士)を取得しています。どんなに良い治療薬剤や治療法があっても、患者さんに届かなければ意味がありません。より早く届けるためには、医師としての経験、知識、気持ちだけではなくビジネスの要素が必要だと実感しています。
現在、メディカル部門の責任者として臨床現場にいる医師やノバルティスの世界戦略を立案しているグローバルの担当者とコミュニケーションを取りながら、人材の採用・教育を通じて組織改革に取り組むマネジメントにも力を入れています。私たちの仕事は一人の力でできることではありません。組織を作り、鍛え、ビジネスを前進させることによって、革新的な医薬品を患者さんのもとに届けていく。今私はこの仕事に誇りと情熱を持って取り組んでいるところです。

開発本部 北川 洋 [4]
北川 洋 Hiroshi Kitagawa
開発本部 臨床開発統括部 血液腫瘍臨床開発部 部長
医師・医学博士・公衆衛生学修士
臨床経験・研究経験を患者さんのために別の形で活かすキャリア
医師資格を取得後、大学院では病理学を専攻して博士を取得しました。その後、呼吸器内科の臨床医として約10年間、一般病院や大学病院で勤務しました。
研修医時代で思い出深いのは、白血病や肺がんに対する分子標的薬が世に登場したことです。
その肺がんへの分子標的薬については、ある遺伝子変異を有する患者さんに対してとても効果があるとの分子生物学的な知見が得られ、その知見の臨床的なインパクトの大きさに加えて、研究室からの知見が臨床応用されるまでにそれ程長い時間がかからなかったことに驚きました。その遺伝子変異は患者さんの背景因子(女性、非喫煙者、比較的若年者)と関連することが報告されており、予後の限られた肺がん患者さんの診療の中で、「もうお亡くなりになってしまったけど、比較的若い女性のあの患者さんならタバコを吸っていなかったし、この薬があの時手元にあったらまだ生きていたのではないか? 生きていないとしても生きている間には違う時間の在り方だったのではないか?」などと思ったこともありました。その時は、新薬開発に自分が携わることは考えてもいませんでしたが、サイエンスの持つ力、それを伴った新薬の力を感じたのはこの頃でした。
その後、呼吸器内科としての診療を続けていく中で、禁煙への取り組みやTranslational Researchからの臨床試験への興味から、臨床疫学・生物統計・行動科学など公衆衛生について学ぼうと考え、Harvard T.H. Chan School of Public Health (HSPH)に留学しました。公衆衛生学修士を取得後、NCI(米国立がん研究所)でPost-doctoral fellowとして肺がんのマウスモデルを使ったChemopreventionの研究に従事しました。自分の所属するラボとは別に、NCIにはCTEP (Cancer Therapy Evaluation Program)と呼ばれるアカデミアの臨床研究をサポートする組織がありましたが、そこには各製薬企業の医薬品が集められ、アカデミアからのアイデアが企業の垣根を越えた形で実現する仕組みが構築されていて、衝撃を受けました。その組織で勤務しているHSPHの先輩から、CTEPの仕組みと共に、製薬企業で働くというキャリアオプションについての詳細を知ることができました。
製薬企業は基礎研究の成果を臨床応用するための仕事をしており、革新的な治療薬を開発できれば多くの人の命を救うこともできます。個人では大きな研究成果は出せていませんでしたが、研究者としての経験、臨床医としての経験、米国で勤務した経験など、製薬企業であればそれまで自分が経験してきたことを最大限に活かせ、がん患者さんのためへの大きな成果に小さいながらも貢献できるのではないかと考えました。迷いましたが、幸い所属していた医局からも大きな反対はなく、製薬企業で勤務し、がんの新薬開発に携わることを決断できました。
最初に勤務をした企業のオンコロジー部門全体がM&Aによりノバルティスに移管されることとなったのですが、移管後も一貫してがん領域での開発部門で仕事をしています。ノバルティスというグローバル企業が、世界最先端のサイエンスに基づいて、エビデンスを出すために世界各国でどのような取り組みを進めているのか、日本のチームメンバーと共にグローバルの担当者とやりとりをする中でそれを目の当たりにすることができ、毎日がとても新鮮です。
製薬企業の一員として働く医師というキャリアパスは、日本では未だに一般的ではなく、時折ネガティブな評価を耳にすることもありますが、臨床経験に加え研究経験のある医師の方には、キャリアの選択肢の一つといえるでしょう。日本で革新的な薬剤・治療法を1日も早く患者さんのもとに届けるために貢献していきたい、という想いを持つ医師の方が仲間に加わってくれると良いなといつも思っています。