創薬の道を照らすガイダンスシステム

ノバルティスのドラッグハンターは、機械学習と自動化を活用して、より速く、よりスマートな方法で新薬を探索しています。

Dec 09, 2020

すばらしい!で、それはいったいどのようなものでしょうか?

古代、探検家たちは地図やGPSによるガイドもないままに未開の地に分け入り、安住の地を探しました。崖、険しい山々、渡るに渡れない川に時間と物資が奪われ、彼らの努力を阻みました。

ドラッグハンターも同様の課題に直面しています。ある病気を発症させる新しい生物学的メカニズムを発見した科学者は、次にそのメカニズムを阻止する方法を模索します。それは、古代の人々にとっての大陸に匹敵するほどの、価値ある可能性を秘めた化学的選択肢に到達するため、道標がない中を模索することになります。

上記の課題を解決するために、ノバルティスの研究者は、機械学習や自動化などのデジタル技術を用いた創薬のためのガイダンスシステムを開発し、最適な化合物を発見し、それを医薬品の候補へと進める手助けをしています。同社ですでに使用されているこのテクノロジーは、早期の創薬プロセスを加速するだけでなく、チームが過去に発見したものよりも優れたリード化合物への手がかりを得るのに役立ちます。

このシステムは、データとデジタルツールを活用して創薬と開発をより効率的かつ知的に行うというノバルティスの大きな取り組みの一部です。

自動化は、化学的なプロセスにおけるGPSのような役割を担う重要な部分です。ロボット、ウェルが高密度で配置された小型化実験用プレート、および人工知能が一体となってプロセスのスピードアップを図り、研究者が一度に多くの実験と分析ができるようにします。このシステムにより無駄を省き、研究者をより良い薬により速く、よりスマートに導くことが出来ます。

この新しいテクノロジー(社内ではマイクロサイクル[Micro Cycle]と呼んでいます)により、研究者はこれまで一握りの選択肢の評価にしか費やせなかった時間で、100種類もの化合物を繰り返し試験し、評価することができるようになりました。より多くの化合物を探索、学習することで、新薬の有望な手がかりを見つけることができます。

「私たちは患者のために薬物の最適化を試みていますが、2~3の選択肢を試すだけの時間と人手しかありませんでした。」と、システムの作成に携わったノバルティスの化学者、ジョナサン・グロブ(Jonathan Grob)は言います。 「私たちが本当にやりたかったのは、この作業にかかる時間を短縮し、各工程をより効率的にすることで、良いものを見つける可能性を高めることでした。」

創造する、試す、学ぶ

このプロセスは、対象の化合物が発病の過程に影響を及ぼす(ヒットする)かどうかを明らかにする実験から始まります。次のステップは、その働きを向上させる可能性をもつ化合物をさらに多く作ることです。

私たちは始めから大局的に物事を捉えるようにします。

- アレックス・マルツィアーレ(Alex Marziale)

課題は、どういう化合物を合成するべきかがわかるようなはっきりとした道筋がないことです。実際には、その可能性は無限大なのです。

そこで、ノバルティスチームはレシピを提案するような機械学習システムを開発しました。コンピューター科学者がシステムを機械学習させて既存のレシピから新しい料理のレシピを作成する方法と同じように、チームはノバルティスで既に使用されている多くの化合物に関する情報をシステムにインプットして学習させました。

機械学習によって作られた料理のレシピを見たことがあれば、時々想定外のものができてしまうことはご存知ですね。カップ一杯のわさびで作ったブラウニーとか、そういうものを見たことはありませんか?

ドラッグハンターは、最適な薬物候補を選定するために、一連の化合物を繰り返し試験しなければなりません。化学システム用の新しいGPSを使えば、機械学習と自動装置により、より広範囲にわたってより多くの化合物を試験し、最適な薬物候補をより早く見つけることができます。

これがこのシステムの優れた点ではあるのですが、チームの目標は、化合物を隅々まで探索し、通常は敬遠してしまうような場所にまで到達することです。これはわさびをブラウニーに加えることに通じるところがあるかもしれません。

「化学者たちは実際にこう言っていました。‘それはもう凄いことですよ’ しかし、彼らがどう思おうが、私たちはとにかくそれをやり遂げて、そこから学ぶのです」と、この構想を支援し、現在プロジェクトを統括しているノバルティスの化学者、カラ・ブロックルハースト(Cara Brocklehurst)は述べています。

実際、ある例では、チームはこのシステムから提案されたレシピについて懐疑的であり期待すらしていませんでした。しかし、試験結果により、この化合物は疾患の成り立ちを変える効果があり、また、優れた薬物特性を持っていることが明らかになりました。

「このGPSのアプローチでは、これまでの単体分子に対する期待から一旦離れて、その代わりに、化合物に関する情報や知識がプロジェクトの方向性をどのように導くことができるかに注目する必要があります。これにより、今までの概念から抜け出し、これまでとは全く異なる方法で取り組むことを余儀なくされました。」とブロックルハーストは言います。

大局を見る

化合物の複数の側面、つまり疾患の経過に影響を及ぼす作用だけでなく、溶解度や細胞透過性などの薬物特性について知ることも、このプロセスの重要な部分です。以前は、これらの特性は一つずつ明らかになってくるもので、あたかも地図のない古代の探検家が安住の地を求めて歩きやすい道を選び、次に水源を見つけ、さらに近くで食べ物を探すのと同じアプローチの方法でした。

このように創薬GPSシステムはより包括的なアプローチを可能にします。チームは、薬物のすべての特性を一度に考え、改善することができるのです。

「私たちは始めから大局的に物事を見据えています。GPSが表示するのは2次元の風景だけではありません。丘や谷に加えて移動時間なども表示されます」と、同じくシステムの作成に携わるノバルティスの化学者、アレックス・マルツィアーレ(Alex Marziale)は言っています。

当初は、ガイダンスがなかった時と比べて進むべき道が明確になったというわけではありませんでした。しかし、その景色は作業を繰り返すにつれて明確になってきています。

化学GPSシステムにより、研究者は化合物の複数の側面を一度に知ることができます。たとえば、彼らは疾患の経過に影響を及ぼす作用だけでなく、その溶解度や細胞透過性などの薬物の特性についても知ることができます。そのプロセスを繰り返すことにより、ぼやけた全体像から焦点が絞られていきます。

「それはまるで、かかっていた雲が消えてゆくようです。 あなたが合成した化合物のリストが得られ、残されていた空白を埋めていくのに役立ちます。そうすれば次回は、より明確なイメージが得られようになります。」とブロックルハーストは言います。

小型化された科学

このシステムは、化合物の自動試験を多くの異なるシナリオに基づいて並行して行うことで成り立っています。これを達成するために、チーム(化学者、データサイエンティスト、生物学者、およびデータ分析者からなる分野横断的なグループ)は、化学実験室の規模を縮小する必要がありました。

以前は、ドラッグハンターは試験に使用するために20から50ミリグラムの化合物を合成していました。数個の化合物を合成していたときはそれで良かったのです。今では、かつての数分の1の少ない量で数百個の化合物を合成しています。

生物学的な系で化合物を試験するために使用されるプレートには、ミニチュアサイズのウェルが密に配置されているので、化合物の量はそれほど必要としません。各ウェルは、それぞれ別の実験に用いられます。プレートに化合物を入れるところから結果の読み取りまで、システム全体がロボットで自動化されています。

これらのハイスループット試験から得られるデータは、手作業から得られるものより圧倒的に多い量となります。ブラウニーのレシピ、50種類を試食して、どれが一番おいしいかを決めることを想像してみてください。

「結局、見分けがつかなくなります。」とグロブは言います。

そのため、チームは結果を機械学習システムに反映させます。システムはこのデータにより各化合物がどのように作用したかを学習し、試すべき別の化合物リストを仮想的に作成します。システムが新しいことを学習しなくなるまで、チームはひたすらこのプロセスを繰り返すのです。

ベストなケースでは、薬物候補になり得る化合物の手がかりを見つけられますが、 最悪の場合は、事ある毎に崖や険しい山、渡れぬ川に遭遇することになります。

「行き止まりに遭遇してしまうかも知れませんが、すぐに目的地に辿りつき、多くのことを学ぶことができます」とグロブは述べています。