「だんだん見えなくなっていくことは、恐怖そのものでした。小さい頃には国会図書館の隣に住みたいと思ったほど、本が好きなんです。その大好きな読書ができなくなり、精神的にひどく落ち込みました。体は何ともないのに目だけが見えなくなるので、余計に怖かったですね」
庸子さんが加齢黄斑変性に気づいたのは、パソコンで表計算ソフトを使っている時でした。
「けい線が左に上がっているように見えたんです。こんな風にゆがんで見えるのは加齢黄斑変性の症状だと、以前に読んだ新聞記事を思い出しました。すぐにかかりつけの眼科を受診し、左目が加齢黄斑変性だと診断されました」
加齢黄斑変性は、加齢が原因で網膜の中心部である黄斑に障害が生じ、見ようとするところが見えにくくなる病気です。欧米では成人の失明原因の第1位、日本でも近年増加して第4位となっています。50歳以上の人の約1%にみられ、高齢になるほど多くなります。※1
日頃の積極的な情報行動が、病気と治療法の理解に役立った
読書好きで好奇心旺盛な庸子さんは、新聞にも欠かさず目を通し、興味を持った記事は切り抜いて保存するなど、普段からさまざまな情報にアンテナを張っていました。日々進歩する医学についても興味を持っていたため、加齢黄斑変性という病気や、その治療法についても知識がありました。診断がついてからも、病気について積極的に調べたといいます。
「大学病院への紹介状をすぐに書いてもらい、加齢黄斑変性の治療を開始しました」
両目失明の不安を、周囲の方々のサポートで乗り越える
「診断から1カ月ほどでどんどん視力が悪くなって視力検査表の0.1位の大きな環が見えなくなってきて、それでもう一度眼科に行ったら右目は違う病気だといわれたんです。両目とも見えなくなると大変だと思って、その時は本当に落ち込みました」
読書の他にも小説の舞台になった場所への海外旅行や、手芸、写真、料理など、たくさんの趣味を楽しんでいた庸子さん。今は明るく話してくださいますが、見えないことが原因の不安にさいなまれ、あまり眠ることもできない毎日でした。そんな時期、大きな支えになったのが、ご主人や近所など周囲の方々でした。
「近所の方が毎日のように励ましにきてくれたり、買い物を代わりにしてくれたり。中学や高校の時の友人たちにも毎日のように電話して、不安な気持ちを聞いてもらっていました。この頃は主人も大病を患ったばかりで体のつらい時期でしたが、必ず病院に付き添ってくれたり、普段はあまりお付き合いのない親戚にも気遣ってもらったり、多くの人の心遣いに強く支えられました」
また、加齢黄斑変性友の会という患者の会に参加し、同じ疾患を抱えながら前向きに生きる仲間に会えたことも大きな支えだったといいます。
「患者の会には私よりも症状の進んだ方もいらっしゃいますが、光を失っても白いつえを持って海外旅行されるなど、皆さんとても明るく前向きでアクティブです。参加するたびに励まされました。私が良くなった今は、しょっちゅう相談の電話がかかってきます。お互いに励ましあっている感じがいいんです」
再発しやすい病気だから、症状に気づけるよう心がけている
治療を始めると、曲がり方はだんだん緩くなり、気持ちも楽になりました。しかし、加齢黄斑変性は再発のリスクが高い病気だと、庸子さんはいいます。
「再発して視界が曇ってきたら、すぐに専門医にかかるべきです。私は必ず再発すると考え、毎朝アムスラーチャート(碁盤のように縦横のマス目が描かれたシート)で確認しています。できるだけ早く再発に気づいて治療したいと思っているからです」
実際に庸子さんは約1年後に再発しますが、すぐに治療することで視界の曇りがなくなりました。現在は、小さい文字が少しカーブして見えたり、タイルの道はマス目が曲がって見えるので歩きづらかったりしますが、日常生活には支障がない程度に改善しています。
早期発見・早期治療が何より大事。
「見え方がちょっと変だなと思ったら、アムスラーチャートでチェックすることをお薦めします。そして曲がって見えたらすぐに眼科を受診してほしいです」
加齢黄斑変性は早期発見と早期治療が何より大事だと語る庸子さん。
「50歳を過ぎたら定期検査を。何か変だなと思ったら眼科受診を。そうすることで生涯視力を保ちやすくなると思います」
趣味を続けられる喜び。海外旅行で市場を満喫したい
視力が改善した今、「以前描いていた水彩画をまた始めたいと思います。また、主人が海外旅行好きなので、いろいろな国の市場を回りたい」
にこやかにほほ笑みながら、穏やかに話す庸子さん。その瞳は未来を見つめ、希望に輝いています。
網膜ドットコム(加齢黄斑変性) https://moumaku.com/kareiouhan/
加齢黄斑変性友の会 https://sites.google.com/site/amdtomonokai/
加齢による目の機能低下「アイフレイル」について様々な情報が掲載されています。