看護師から患者へ: 進行が速い血液がんとの闘い

AMLを友人や家族の支えで乗り越える

Apr 20, 2018

10月のある夜、イラーナ・マッシさん(Ilana Massi)とその夫のボブさん(Bob)が野球観戦に出かけようとしていると、突然イラーナさんの具合が悪くなりました。体の力が抜け、高熱に襲われたのです。ボブさんは、ロサンゼルス郊外の自宅付近にある病院に連れて行きました。血液検査の結果を手にした時、熟練した看護師であるイラーナさんには医師の説明は必要ありませんでした。イラーナさんはボブさんを見て、言いました。「これは白血病の値ね」と。

急性骨髄性白血病(AML)と診断される

この時は、「AMLではありませんように」というのが唯一の願いでした。イラーナさんは、看護師として、最も致死性の高い血液のがんであるAMLのことをよく知っていました1。偶然にも、5人の息子の一番下のエヴァンさんは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校で、この病気の遺伝的原因について研究していました。AMLの患者さんでは、骨髄で血液が作られる過程で骨髄芽球に異常が起こり、がん化した細胞(白血病細胞)が増殖することで、健康な血液細胞を締め出してしまいます2。これが急激なスピードで起こり、病気が非常に速く進行します2, 6。最近になってAMLの研究と理解は進んだものの、米国における現在の5年生存率はわずか27%にとどまっています3

そして、最も恐れていたことが現実になってしまいました。AMLとの診断がくだると、医師たちはイラーナさんの命を助けようと、変異した危険な白血球の増加を抑制するために、化学療法を集中的に実施しました。 「医師たちは、最初の週、私が助かるとは思っていなかったそうです」

回復までの長い道のり

イラーナさんは一命をとりとめました。そして緊急治療室に入ったその日から、今日まで続く長くつらい闘病が始まりました。カリフォルニア州サウザンドオークにある自宅で、闘病を語るときは少し感情的になります。恐怖や痛みだけではなく、家族や友人、医師、看護師などから受けたサポートを思い出すからです。なかでも造血幹細胞移植の幹細胞ドナーからのサポートは特別なものでした。 「ドナーはもう1人の息子のようなものです」。

AMLと診断がくだるとすぐに、医師たちは、体内で変異した危険な白血球の増加を抑制し、命を助けようと、集中的に化学療法を実施しました

試練は、5カ月間の入院から始まりました。正念場となる幹細胞移植を受けたのですが、移植された幹細胞が体内をめぐり臓器を攻撃する移植片対宿主病との新たな辛い闘いが始まったのです。新たな問題は、恐ろしいほどの規則性をもって現れます。「まるでもぐらたたきゲームのようでした」

病気が発症した当時、イラーナさんは、メディカルアフェアーズとして製薬業界で18年間働くベテラン社員でした。この病気と今後の辛い闘病について、何が起こるのかを理解していました。また、患者さんに共通して起こる反応や、悲しみ、無力感、怒り、絶望などの感情も熟知していました。こうした知識は感情を抑えるのには役立ちませんでした。「いつも不機嫌で、孫には会わない方がいいと思っていました」。

支援のライフライン

隣人や同僚、友人、家族から絶えず寄せられるサポートのおかげで、最も暗い日々を乗り越えることができました。メール等で励ましてくれただけではなく、輸血までもしてくれたのです。治療に使われる血液が知人から輸血されたものかどうか分かるように、輸血番号を控えました。イラーナさんが寂しさや恐ろしさと闘い、そして落ち込んでいることを知ると、同僚や友人200人以上が、紙皿に自分たちの顔を描いて病院に送ってくれました。その中には、かつてのノバルティスの同僚からのものもありました。それを病室の壁に貼ると、親しみある笑顔で作られた星座が笑いかけ、1人ではないことを思い出させてくれました。「このたくさんの笑顔を見ることで、どれだけ気分が晴れたか、言葉では言い表せません」と、イラーナさんは言います。

AMLと移植片対宿主病との闘病は、生活を一変させました。エネルギーが長く続かないので、エネルギーを何に使うのか優先順位をつける必要があります。病気になる前は、母親、妻、プロフェッショナルとしていつも自らを律し、ベストを尽くそうとする性格でした。今ではもっと他人に譲るようになりました。イラーナさんが特別な瞬間や人とのつながりなど、生活の中での一瞬一瞬をとても大切にするようになったことに、息子のエヴァンさんは気づきました。移植後に行われた家族の夕食会では、イラーナさんが部屋の中をよく見回していたことを思い出します。そして、気づいたことを会話の中に取り入れていました。「この世界に生きていることに感謝していたのではないでしょうか」

親しみある笑顔で作られた星座が笑いかけ、1人ではないことを思い出させてくれます

AML患者さんのコミュニティーを支援

イラーナさんは、毎年アメリカでAMLと診断される20,000人上の患者さんへの支援活動に力を入れています4。 ヨーロッパにも同じくらいの数の患者さんがおり5、世界中で白血病を患う成人患者さんの約4分の1に相当します1。現在、イラーナさんは、ある健康関連機関で患者・家族支援コーディネーターとして働いており、新たに診断を受けた患者さんやその家族がサービスや情報を得るのを手伝っています。

もう1つの目標は、この疾患の声を上げる患者団体の一員となることです。患者さんや支援者が声を上げると、当局や製薬企業がその声に耳を傾けるようになり、研究や医薬品の開発を前に進める力になる、とイラーナさんは言います。さらに、声を上げる患者団体の活動がAMLの認知向上につながり、より多くの人が骨髄ドナー登録にサインしてくれるようになります。

AML患者さんにとって自分に合うドナーを探せるかどうかは、生死にかかわる問題です。イラーナさんの場合は、危機一髪の状況でした。イラーナさんのがんは2カ月間にわたって、一連の化学療法および放射線療法に頑なに抵抗しました。AMLの寛解を得て、命を守るために移植を行う必要がありました。

治療の継続

初めて診断を受けてから3カ月後の2015年1月、イラーナさんの白血病はようやく寛解に至りました。しかし、ドナーを見つけるのには苦労しました。比較的珍しい血液型のために、3人の姉妹には一致する人はいませんでした。すべてのドナー登録者の中で、イラーナさんに合うタイプの人は7人しかおらず、ほとんどの人が外国に住んでいました。

最も有望な幹細胞ドナーだったニューヨーク在住の麻酔専門医は、完璧に合うタイプではありませんでした。医師たちが分析した10の遺伝子のうち、9つはタイプがは一致しましたが、1つの遺伝子は一致しませんでした。時間があれば、10の遺伝子がすべて一致する完璧なドナーが現れるまで待っていたかもしれません。そうすることで、移植された細胞が身体を攻撃するリスクを減らすことができるからです。

主治医であるがん専門医のパブロ・パーカー博士(Dr. Pablo Parker)は、白血病がいつ再発してもおかしくないことを恐れていました。「手段がなくなることもあるんです」。パーカー博士は多くのAML患者と同様に、イラーナさんにもがんを刺激する遺伝子の変異があることを知っていました。最近になって、研究者たちは、こうしたいくつかの遺伝子の変異を特定しました。変異のうちのいくつかは、腫瘍を抑制し、身体ががんと闘うのを助ける遺伝子のスイッチをオフにします。変異を伴う遺伝子は、がんの増殖を促進します。AMLや他のがんの研究の多くが、こうしたがんの増殖に関与する遺伝子の変異を標的とし、その作用を改変することに焦点を当てています。

イラーナさんの遺伝的特徴から、寛解を維持できるのは短期間になる可能性が高いと考えられました。もしがんが再発すれば、移植を行うという望みは消えてしまうでしょう。ですから、これは唯一のチャンスだったのです。担当の医療チームは、移植の準備を始めました。そして、ドナーの幹細胞を移植しました。移植された幹細胞は、速やかに骨髄に届き、数日のうちに健康な血液細胞と血小板を作り出すようになりました。

数カ月後、会うことがかなうかどうか心配していた孫のジェームソンくん(Jameson)の誕生を迎えることができました。「これは大きな変化でした」と、ボブさんは言います。「自分の子どものことを愛するのはもちろんだけど、どういう訳か孫となるとまったく違った愛情が湧いてくるものです」

新たな日常

現在の生活はこれまでと非常に異なるものとなりました。毎日、20種類の薬を服用します。そのほとんどが移植後に発症した移植片対宿主病に対する薬です。また疲れやすく、皮膚や胃のトラブルに悩まされています。髪の毛は再び伸びてきたものの、また成長が止まってしまいました。

今後、AMLの患者さんがAMLの原因となる遺伝子の変異を標的とする治療薬を使えるようになることを願っています。こうした治療薬が登場すれば、化学療法や放射線療法、骨髄移植といった試練が必要なくなるかもしれません。イラーナさんは、経験した試練を他の誰にも経験してほしくないと思っています。今、命があり、友人や家族とのつながりがこれまで以上に感じられることを嬉しく思っています。

  1. Deschler B, Lübbert M. Acute myeloid leukemia: epidemiology and etiology. Cancer. 2006;107(9):2009-2107.
  2. National Institutes of Health (NIH) National Cancer Institute (NCI). Adult Acute Myeloid Leukemia Treatment (PDQ®) http://www.cancer.gov/types/leukemia/patient/adult-aml-treatment-pdq (link is external). Accessed June 1, 2017.
  3. NIH NCI. Cancer Stat Facts: Acute Myeloid Leukemia (AML). https://seer.cancer.gov/statfacts/html/amyl.html (link is external). Accessed August 9, 2017.
  4. Siegel RL, Miller KD, Jemal A. Cancer statistics, 2017. CA Cancer J Clin. 2017;67:7-30.
  5. Visser O, Trama A, Maynadié M, et al. (RARECARE Working Group). Incidence, survival and prevalence of myeloid malignancies in Europe. Eur J Cancer. 2012;48(17):3257-3266.
  6. 国立がん研究センター がん情報サービス https://ganjoho.jp/public/cancer/AML/

本文はhttps://www.novartis.comから翻訳、編集したものです。

From nurse to patient: facing an aggressive blood cancer

原文https://www.novartis.com/stories/from-nurse-patient-facing-aggressive-blood-cancer