COPD:症状を見過ごさないことが大切

“吸いたいよりもこの息苦しさから逃れたい” タバコをやめ、 病と向き合う日々

Nov 22, 2018

「30代の頃から、運動した時に息が苦しくなるなどの兆候はあったのですが、その頃は深刻に受けとめていませんでした」と話すのは、COPD*に罹患している高橋さん。COPDはタバコの煙などに含まれる有害物質を長期的に吸い続けることで肺に炎症が生じ、肺の機能が低下していく病気です*1

つい、軽く考えていた

高橋さんは、山が大好きで、六甲山を縦走するなど若い頃からアクティブでした。愛煙家でもあり、以前は職場でも喫煙が可能だったこともあって、30年以上にわたって1日に2~3箱のタバコを吸っていました。

高橋さんが最初に身体の異変に気づいたのは、まだ30代でした。人間ドックの呼吸機能検査で異常を指摘され、COPDの疑いがあると言われました。でも、高橋さんは普通に山登りもできるし運動もできるし…と、とくに心配しませんでした。40代では、負荷のかかる動作で息苦しさを感じ、咳やタンも出始めたのですが、平常時にはおさまるため、近くの病院で咳止めをもらって喫煙も続けていました。ところが、50代になると2階から3階へ階段を昇るだけで息苦しさを感じるようになり、ついには自宅から駐車場へ向かう20メートルの道のりでさえ、苦しくて歩けなくなったのです。55歳で呼吸器疾患の専門病院に検査入院し、COPDと診断されたときは、高橋さんの肺は、健康な成人に比べて、3分の1ほどの酸素しか吸い込めなくなっていました。

増悪への備えは常に欠かせない

診断を受けてからの高橋さんは、好きだったタバコもやめ、COPDと向き合う日々を送っています。COPDは、高橋さんのように進行が遅いことも特徴のひとつです。咳やタンなどありふれた症状から、単なる風邪や加齢による症状だと見過ごされてしまうことも多いのです。しかし、一度低下してしまった肺の機能は、元には戻りません。それ以上悪くならないようにするのが、COPDの治療の目標となります。

高橋さんは、薬による治療や呼吸器のリハビリを受けながら、生活面でも病状をコントロールするためのさまざまな注意をしながら暮らしています。「薬の服用を忘れてしまうと、かなり息が苦しくなってしまうので、忘れないようチェックは欠かせません」。また、体調管理についても「ちょっとしたことで体調を崩しやすいです。最近は、冬をどう乗り越えるかが大きな課題です。肺炎も怖いですが、気温が下がると呼吸もしにくくなり、悪化しやすいんです」と話します。これまでも、体調を崩し、呼吸困難から脈拍が上がり、救急車で搬送されたことも。「とにかく、増悪しないよう平常を保つこと。外出時には吸入薬と酸素量を測るパルスオキシメーターを必ず持って出かけます」。また、高橋さんは、落ち込んだり気分が滅入ったりすることで症状が悪化することも感じています。いかにネガティブにならないかも大切だと実感しているそうです。

医師の勧めもあり、高橋さんは56歳の時に障害者手帳を申請し、呼吸器障害で4級、3年後に3級を申請し交付されました。

「認定されたことで、外出の際、助かっています。目的地に近い場所で駐車することができるようになりましたから」

吸う人に伝えたい「タバコ、早よやめや」

「昔はチェーンスモーカーで、タバコをやめることなんて考えもしませんでした。でも、本当に息が苦しくて異常だと感じた時に、試しに一晩、タバコを吸うのをやめてみたのです。すると、翌日は息苦しさも咳も減り、楽になった。僕にとってはあれだけ好きだったタバコを吸いたいという気持ちよりも、この息苦しさから逃れたいという気持ちのほうが大きかったんですね」。以来、高橋さんはタバコをきっぱりやめたそうです。

「思うように息が出来ないというのは苦しいものですし、そのせいで行動が制限されて、好きなことが出来なくなるというのは本当に辛い。早くからCOPDに向き合っていればよかったと今は悔やみます。だからこそ、タバコを吸う友人知人には『早よやめや』とはっきり言っています」

元気そうなのに、と思われる辛さ

穏やかな笑顔で語る高橋さんは、一見すると、疾患を抱えているようには感じさせません。体力を落とさないよう、出来る範囲で散歩したり、外出したりもするようにしています。ご自身の病気は周囲に伝えているものの、多くの人はこの疾患について知らず、理解してもらえないことも多いといいます。

例えば、地域で清掃や草刈りをすることがありますが、高橋さんにとっては、そのかがむ姿勢そのものが呼吸を妨げてしまいます。「草刈りは長い時間出来ません。息苦しさがひどくなる前に、家に帰って安静にするしかない」。早々に休んだり、帰宅する時には、周囲の人から「いつもは元気そうなのに、草刈りをさぼっている」と思われるのではないか、と感じてしまうこともあるそうです。COPDに対する認知度が低いこともあるのでしょう。

「僕だって、もし自分がCOPDでなければ、この病状を理解することはできなかったかもしれない。仕方ないと思うようにしています」

普通の暮らしがしたい

診断を受けた後、高橋さんは持ち前の探究心から、専門書を読み、COPDについて情報を集めました。そのなかで、NPO法人日本呼吸器障害者情報センター*2に辿り着きます。COPDをはじめとする慢性呼吸器疾患の患者団体で、共通する呼吸の問題を抱える人びとが、勉強会や懇親会などで集うこともあります。高橋さんは現在、この団体の関西支部の世話役も務めています。

「COPDの患者は、本当にちょっとしたことでコンディションが崩れてしまう。そんな不安を抱える患者が、いくらかでも暮らしやすい環境になってほしいと思っています」

呼吸に悩みを抱える仲間を慮る高橋さん。そんな高橋さんが今、望むことは何か聞いてみました。

「普通の暮らしがしたいですね。買い物をしたり、心配なく旅行に行ったり。今は外出を楽しむことも難しいので、そんなごく普通のことに憧れます」

自らの状況を柔らかく、淡々と語る高橋さん。その平常を保つために、どれほどの努力を重ねているのか。この言葉が切実に物語っています。

*COPD: 慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)の略称で、慢性気管支炎や肺気腫などと呼ばれてきた病気の総称です。喫煙習慣のある中高年に発症する生活習慣病とされており、40歳以上の8.6%、全国に約530万人の患者さんがいる*1といわれていますが、その多くは診断や治療に至らず、疾患の認知度も低いのが現状です。

参考:

  1. 一般社団法人日本呼吸器学会 呼吸器の病気 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  2. NPO法人日本呼吸器障害者情報センター http://www.j-breath.jp/