メラノーマ: いつも目にしているのに、気が付けなかったがん

ホクロだと思っていたものがメラノーマだと知ったときの衝撃。患者会を通じて早期発見の重要性を伝えたい

Nov 12, 2019

ホクロに感じた違和感。それが重大な病気だと知った瞬間

誰にでも当たり前にある「ホクロ」。それが、がんだと知った時の衝撃は計り知れないものでした。松平さんは10年以上前から、ホクロの存在には気が付いていました。「最初に異変を感じたのは2013年の春、今から6年ほど前でした。左足の太もものホクロがだんだん盛り上がってきて。10年前から少しずつ大きくなっているのはわかっていたのですが、一カ月ほどの期間で急に大きくなってきたのです。子供と一緒にお風呂入っていて『ホクロの形がどんどん変わるね』と言われて、病院に行かなければと思いました」メラノーマ(悪性黒色腫)は皮膚がんのひとつで、メラノサイトと呼ばれる色素をつくる細胞またはホクロの細胞(母斑細胞)が悪性化した腫瘍です。日本では10万人に1人~2人が発症するとされる希少ながんです1

当時はメラノーマの存在を知らなかった松平さん。診察をした医師からがんの可能性があることを聞き、大きなショックを受けます。自宅に帰ってすぐにインターネットで「ホクロ」「がん」などのキーワードで検索。そして、その約3カ月後には大きな病院で手術を受けました。ご自身の中では「ホクロに気がついてから10年くらい寝かせてしまった」という思いが消えなかったそうです。

杉本さんも子どものころからホクロの存在には気付いていました。ちょうど2番目のお子さんを妊娠中に大きくなってきたと感じたそうです。ホクロが大きくなるのはよくないということは漠然と知っていたので、すぐに町中の皮膚科で特殊な拡大鏡を使うダーモスコピー検査を受けました。そこでは良性のものだろうと言われましたが、その後ホクロの場所に傷がついて出血したため、再度違う病院で診てもらいました。そこでも「良性のもの」だと言われたそうです。ところが無事に出産を終え、邪魔に感じていたホクロを取り除くために再度病院を訪れると事態は一変しました。再度患部を見た医師から、すぐに大きな病院で検査を受けるように勧められたのです。言われるがまま検査に臨み、わずか数日後にはメラノーマの確定診断を受けました。

「今でも『どうしてもっと早くわからなかったのか』という思いはあります。もし妊娠中にわかって、子どもを産むか産まないか選択しなくてはならないのだとすると、それはとても勇気がいるし怖いことです。でも、やはり早く見つけてほしかったと思います」杉本さんは、メラノーマがとても希少ながんであることを知っていたため、「まさか自分がメラノーマであるはずがない」と強く信じていたそうです。しかし、その確信は、落胆へと変わってしまったのです。

患者だけでなく、家族のストレスに着目した患者会

治療にはご家族や周囲の方の理解も重要です。松平さんも杉本さんも、配偶者が気持ちに寄り添い、職場の方も理解をしてくれたことで、治療と日常生活を両立させています。また、患者会で同じ希少がんで闘病している仲間たちと心を通わせることも大きな支えになっているそうです。

メラノーマ患者会『Over The Rainbow』の代表を務めている平林佳代子さんは、ご主人をメラノーマで亡くされています。懸命に闘病を続けるご主人を支えた経験が、患者会での活動に繋がっています。

「例えば、ご主人がメラノーマの場合、ご本人が抱える不安や怒りやストレスを奥さんが支えることになり、支える側も大きなストレスを抱える場合があります。患者会が主催するお茶会などでは、お喋りをする中で気持ちを分かち合うことができます。いろいろと話す場があるだけでも、支える側の家族のサポートになると感じています。家族や夫婦で支え合うことも大切ですが、同じ立場にいる仲間と話をすることも大事なのです」

ひとりでも多くの方に早期発見の重要性を伝えたい

皮膚がんであるメラノーマは、多くの場合、体の表面に現れるので、自分で見つけることができます。患者会の『Over The Rainbow』でもあやしいホクロのチェック表を製作しています。松平さんは「もう少し発見が早ければ、こんなに苦しい治療はしなくて済んだと思います。あやしいホクロを見つけたら、なるべく早めに病院に行ってほしい」と切実に訴えます。杉本さんは、背中などの自分で見えない部分は家族やパートナーの人に確認をしてもらってほしいとアドバイスします。「あやしいホクロや少し変化のあるホクロなど、目に見えてわかるものができた場合は、早く専門の医師に診てもらうことが大切です」と経験から得た正直な気持ちを語ってくれました。

平林さんは家族と主治医の関係も大切だと言います。がんになった患者本人がきちんと知って治療する心構えも大事ですが、家族も先生にわからないことをしっかりと聞くことが大切です。「躊躇するかもしれませんが、診断や治療に不安があるのなら、セカンドオピニオンや転院も選択肢のひとつです。ぜひご本人の背中を押してあげてください」平林さん、松平さん、杉本さんは、患者会の活動を通して、ご自身やご家族の経験をもとに、メラノーマの早期発見の啓発活動に取り組んでいます。

参考文献

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス https://ganjoho.jp/public/cancer/melanoma/index.html
  2. メラノーマ患者会 Over The Rainbow http://melanoma-net.org/