「ひとりじゃないよ」の思いを届けたい

辛い気持ちを隠しながら生きた10代。小児乾癬ならではの辛さを体験し、現在は啓発活動に尽力。

Oct 27, 2021

知識を得て共有し孤独の先の一歩を踏み出す

「13歳の頃に小児乾癬を発症しました。その頃は自分も周りの人も小児乾癬への知識がなく、症状や辛さを理解してもらえませんでした。幼かったため、どう説明していいのかわからず病気のことは隠し続けていました」

今回、経験を話してくださったのは、一般社団法人INSPIRE JAPAN WPD乾癬啓発普及協会で活動を行う山下織江さんです。山下さんは思春期に小児乾癬を発症し、長年孤独を抱えながら闘病生活を続けていました。当時は、今ほどインターネット等も普及しておらず情報が少なかかったため、ご自身もご家族も手探りの状態で治療に取り組まなければなりませんでした。

山下さんのお母さんは「代わってあげられなくてごめんね」といいながら、丁寧に薬を塗ってくれたそうです。その時の手のぬくもりは、今でもしっかりと覚えているという山下さん。しかし、使っているシャンプーや髪の毛のしばり方が悪いのではといった言葉を家族からかけられることもあり、それは非常に大きなストレスにもなっていました。

「私の行動が原因で乾癬になったと言われているようで、とても辛かったですね。その行動を変えても、病気が治るわけではありませんでしたから」

小学生のころはロングヘアだった山下さんですが、それも「よくないのでは?」とお母さんから言われて、刈り上げるほどバッサリと髪を切ったこともありました。少しでも症状が落ち着けばという願いもむなしく、ショートヘアでは逆に鱗屑(銀白色のフケのようなもの)が落ちてきてしまうという結果に。

「不潔だと勘違いされないようにいつも肩や背中の周りを気にかけていました」

高校生になったころ、頭皮だけではなく体にも症状が現れ始めました。本来であれば、お洒落を楽しみたい年頃であるにも関わらず、暗い色の服や手足を出すような服は避け、ヘアスタイルも鱗屑が落ちないようにと肩まで伸ばしてしばるという方法で何とかやり過ごしていたそうです。当時は、同じ病気の患者さんに出会うこともなく、山下さんには悩みを分かち合える人がいませんでした。情報が少なかったため、ご自身でも乾癬を深く理解できておらず、他の人に対してどのように説明をすればいいかもわかりませんでした。病気のことはひたすら隠していたため、いつも孤独感を抱えていたそうです。

「いつも周りの目を気にしていて、その場の雰囲気ではしゃぐこともできませんでした。もう一人の自分がいるような感じで、常にどう見られているか意識していました。」

患者会に出会い転機が訪れる

その後、山下さんの症状は少しずつ悪化し、20代の前半では乾癬の症状が全身に広がり、20代半ばには関節炎も発症しました。そこからは、良くなったり悪くなったりを繰り返しつつ30代半ばまで過ごしていました。当時は治療に疲れて、半ば諦めるような気持ちになることもありましたが、それでも治したいという気持ちを捨てきれずいたそうです。そんな中、ご主人の転勤で地元に戻り、以前お世話になった医師に再会したことがきっかけで、山下さんの転機が訪れました。そこの医師が患者会へ行くことを勧めてくれたのです。

「情報が欲しいと思って患者会を訪ねました。そこでは、皆さんが明るく病気の話をしていて。病気の話をしてもいいんだ! と、とても驚きました」

そこに行って、山下さんは励ましあえる患者仲間、さまざまな悩みを相談できる医師と出会います。そして、自分もしっかりと知識を得て、これからは積極的に治療していこうという気持ちを持つことができるようになりました。

その後は治療の選択肢も増え、数年前に新しい治療法を開始してからは、ほぼ症状の無い状態を保つことができているそうです。

多くの人に乾癬を正しく理解してほしい

山下さんは、そうしたご自身の経験をふまえ、今は患者会の活動に力を入れています。10代の頃に発症する小児乾癬を患うと、体だけではなく精神的にも非常に大きな負担が加わるため、「自分と同じように、若いうちから辛い思いをしてもらいたくない」という切実な気持ちがあるからです。そのためには乾癬という病気自体について、多くの人に理解をしてもらう必要があると言います。

「乾癬の患者さんが社会の中で暮らしやすくなるためには、正しい情報の啓発普及や社会全体が病気への理解を深めていくことが大切だと感じています」

接触をすると、乾癬がうつるのではないかといったような誤った知識を持つ人もまだまだ多くいます。今は以前とは違い、情報はたくさんありますが、その一方でどれが正しい医療情報なのかがわかりにくいという側面もあるからです。そうした正しい情報へたどり着くサポートを行うとともに、医師とのコミュニケーションの重要性も訴えています。

「特にお子さんと医師とのコミュニケーションは難しいですよね。乾癬のように長く付き合っていかなければならない病気の場合、医師に対して自分の質問や要望をきちんと伝えていくことは欠かせません」

ご自身が親の世代になった山下さんは、診察前に質問をまとめるといったような親子で乾癬に取り組む姿勢を提案しています。

小児乾癬患者さんが、気持ちを共有できる場を提供したい

ご自身は10代の頃、お父さんと一緒に公園に行き、好きだったランニングをしている時間だけは辛い症状を忘れて、自分の将来のことや楽しいことを考えられたそうです。

子どもの頃は、勉強や趣味等が話題の中心なこともあり、友達とは病気について気持ちを共有することができませんでした。その辛い経験から、同じ病気を持つ同じ年頃のコミュニティを作り、そこに参加する機会を提供したいとも話してくれました。

「今、病気で苦しんでいるお子さんには、ひとりじゃないよと伝えたいです。私自身は相談できる人がいなくて、10代の頃は孤独でした。だからこそ、乾癬で辛いことがあったら、ぜひ聞かせて欲しいと思います」

その気持ちを受け止めてくれる人は患者会やそれ以外にもたくさんいるはずですと、力強く話してくれました。

※乾癬:乾癬は、身体的にも精神的にも患者のQOLに重大な影響をおよぼす

生涯にわたる非感染性の慢性炎症性疾患です。

乾癬の1/3は小児期に始まり、その発症は青年期に最もよくみられます。

世界で35万人以上の小児が罹患している乾癬は、大切な成長期に皮膚以外にも身体的および心理的に大きな負担を強いています。