ある少年とがんの闘い

小児がんと闘う少年の物語

Feb 15, 2018

この物語は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)と診断されたライアン少年のある時期を追ったものです。

11歳のライアンの体調に異変が現われたのは、ちょうど新しい学年が始まる2週間ほど前の2015年8月の初めでした。両親のジェニーとマイクは、具合の悪くなったライアンをかかりつけ医のところに連れて行き、診察と血液検査を受けました。その結果、ライアンのヘモグロビン値が危険なレベルまで低下していることがわかりました。ヘモグロビンは酸素を重要な臓器へ運搬するのを助ける赤血球中のタンパク質です。かかりつけ医は家族に近隣の病院を紹介し、直ちに精密検査を受けるよう指示しました。その病院での検査で、ライアンは子どもによく見られるがんの一種である急性リンパ芽球性白血病(ALL)と診断されたのです。ALLでは、骨髄から悪性になった大型のリンパ球と呼ばれる白血球が大量に放出され、これらが酸素を運ぶ赤血球や凝固に不可欠な血小板などの健常な血液細胞を締め出してしまいます。さらに、この疾患は急性であることから、発症すると急激に進行します1

「僕はがんが何なのかほとんど知らなかった」とライアンは言います。「自分がどうなるのか、それがどんなに苦しいことなのか全然わかっていなかったんだ。」

診断後、直ちに治療が開始されました。当初、両親は予後について楽観的に考えていました。ALLは治療が可能な疾患であり、子どもの約85%は、がんの徴候がすべて消失する「寛解」に達していると医師から聞いていたからです2。しかし、状況は両親が望んだとおりには運びませんでした。

「僕はがんが何なのかほとんど知らなかった…。自分がどうなるのか、それがどんなに苦しいことなのか全然わかっていなかったんだ。」

子どもの時にがんと診断されたライアン

希望の見えない道のり

ライアンのがんは最初の化学療法に効果を示しませんでした。さらに2ヵ月間にわたって化学療法を実施しましたが、これも効果はありませんでした。主治医が次の段階として提案したのは、ライアンの損傷した骨髄を健常な骨髄および幹細胞と置き換えるための骨髄移植です。HLA型がライアンと一致するドナー探しが始まりました。家族全員の検査が行われ、兄のウィルの血液が完全に一致することが判明しました。しかし、ライアンのがんはその後すぐに悪化し、移植は不可能な状態に陥ってしまったのです。

「多くの家族が、一番つらいのは、自分の子ががんだと言われることだと口にしますが、私はそうは思いません」と、マイクは語りました。「最も耐えがたいのは、2ヵ月間治療して、他にはもうほとんど選択肢がないと聞かされることです。ある日、医師からもらった留守録メッセージのことが今でも忘れられません。どうもうまくいっていないということが、口調から感じ取れました。医師はライアンが寛解に到達しないのではないかと恐れているように思えました」

小児によく見られるがんの一種、急性リンパ芽球性白血病の治療中のライアン。看護師と一緒にクリスマスツリーの前で。

ライアンの医師と家族は、12月後半までに寛解に到達すれば移植を受けられる可能性があるという望みを捨てていませんでした。そのためには再入院し、再び化学療法を受けなければなりません。ライアンは1ヵ月以上にわたって入院し、ハロウィンとサンクスギビングという2つの大好きな祝日をあきらめなければなりませんでした。

ライアンにとって化学療法は過酷なものでした。「とても強い治療だったので、ライアンは食べることも歩くこともできませんでした。9~13キロも体重が減ってしまいました」と、ジェニーは話します。「毎日行っていた輸液が原因で感染を起こし、体調が急激に悪化しました。もうだめなのではないかと心配でたまりませんでした」

周囲に支えられて

ライアンの家族、友人、医療チーム、そして地域が一体となって、危機を乗り越えるための道のりをともに闘い、ライアンが前向きな気持ちを保てるよう取り組みました。

ライアンは家族や友人の愛と支えによって、いつも元気づけられていました。両親は交代で一晩中付き添い、祖父母も常に手を差し伸べてくれました。募金活動やオークションを企画したり、家族を支援するために食事を準備をしてくれる友人たちもいました。ライアンの叔母はみずから中心となり、ソーシャルメディアで「クリスマスカードチャレンジ」を企画し、クリスマスカードや励ましのメッセージを送ってくれるよう世界中の人々に働きかけました。ライアンは部屋に大きな地図を置き、届いたすべてのカードがどこから来たのかシールで印をつけました。ライアンのもとには全部で6,000枚を超えるクリスマスカードが寄せられ、地図は米国の50のすべての州だけでなく、29に及ぶ国々に貼ったシールでいっぱいになりました。

ライアンの家族は将来への希望を失わず、一番大切なものは何かについて語ります。「ライアンの将来に望んでいるのは時間です」母親のジェニーは言います。「私はあらゆる親が自分の子どもに望むのと同じように、ライアンが満たされた人生を送れるよう願っています。高校に行き、プロム(米国の学校で行われるお祝いのダンスパーティ)を楽しみ、卒業する姿が見たい。結婚だってしてほしい! 時間や幸福が与えてくれるものを享受してほしいのです」

ライアンは今も、ALLと闘っています。ライアンの声は、この進行の早い病気と闘う子どもたちの声なのです。

  1. American Society of Clinical Oncology. Leukemia - Acute Lymphocytic - ALL: Introduction. (Jan 2015 revision). https://www.cancer.net/cancer-types/leukemia-acute-lymphocytic-all/introduction Accessed May 2017.
  2. American Cancer Society. Typical Treatment of Acute Lymphocytic Leukemia (Feb 2016 revision). https://www.cancer.org/cancer/acute-lymphocytic-leukemia/treating/typical-treatment Accessed May 2017.

本文はhttps://www.novartis.comから翻訳、編集したものです。

One boy’s quest to battle cancer https://www.novartis.com/stories/one-boys-quest-battle-cancer