10年の間の変化

10年の間の変化

10年の間の変化


治療中は食べられるものを無理なく食べ、治療が終わって食欲が回復してきたら、バランスよく食事を摂り、次の治療に備える――。治療前、治療中、治療後という時期や治療内容によって、問題や必要な栄養管理は変わる。
たとえば、治療後、食欲不振は比較的早く回復するものの、味覚障害や手のしびれなどの副作用は、長く続くこともある。そのため、患者さんのなかには、いつものように料理をつくれず、「家庭で自分の役割分担を果たせない」とストレスを感じる人もいるという。桑原さんは、「ある程度、割り切って」と助言する。出来合いのものを買ってきてもいいし、調味料の調合が要らない市販の調味料を使うのも一つの手だ。味覚障害のせいで料理が難しいのであれば、レシピどおりに、計測すればよい。

「どの程度味覚が変わっているのか、また、食べ方にしても、どういうときにはどんなものを食べられるのか、正確な情報を伝えることが大事だと思います。外科手術を行えば食べ物の通過障害が起こることもありますから、自分の体調を正確に受け止めて、食事の摂り方、付き合い方を知っておくべきでしょう」
桑原さんは同僚らと協力し、治療前、治療中、治療後の食事について、書籍や冊子にもまとめた。

10年の間の変化
『がん治療前の食事のヒント』『食事に困った時のヒント』(公益財団法人 がん研究振興財団)
『子宮・卵巣がん手術後の100日レシピ』加藤友康・桑原節子・岩崎啓子(女子栄養大学出版部)
『大腸がん手術後の100日レシピ』森谷冝皓・桑原節子・重野佐和子(女子栄養大学出版部)

「治療のみではなく、がん患者さんを人としてとらえ、安心して生活できるように支えることの価値が、ようやく認められてきました。私ががんセンターに在籍していた10年間で、がんセンター自体も、日本のがん医療のあり方も大きく変わったと思います」

その変化は、桑原さんが栄養士をめざした当初から想い描いていたことにも合致する。桑原さんが栄養学の道に進んだのは、50歳という若さで父親を脳卒中で亡くした経験から、「病気になってから治療するだけではなく、予防医学をしっかりやって病気そのものを減らすことが大事なんじゃないか」と考えたことがきっかけだった。

現在は、栄養士をめざす学生たちを教育する立場として、「同志を増やしたい」と桑原さんは話す。
「2人に1人ががんにかかると言われる時代です。がんの栄養管理をやりたいという学生を多く育てたいですし、支援部隊がどんどん増えてほしいですね。患者さんの埋もれたニーズを掘り起こし、いかにキャッチして次のアクションにつなげられるか、そうした感受性の高さが求められているように思います。また、全国的にみて、がんの栄養管理はまだまだ不十分だと思いますので、患者さんが何に困っているのかという声を拾って、製薬企業や厚生労働省などに伝えていくことも重要ですね」

その人の健康や生活に最も役立つ「食べ方」を伝える――。臨床の現場から教育の現場へと活躍の場は変わっても、その想いは変わらない。

(2013年5月)


Source URL: https://www.novartis.com/jp-ja/changes-over-10-years

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