きょうだいのことも忘れないで

きょうだいのことも忘れないで

きょうだいのことも忘れないで


「小児がんの経験をバネにできる子とできない子がいるように思います」と高橋さんは言う。

先に紹介した少年は、“バネ”にできず悩んできた方だろう。一方で、一般社会で逞しく生きる子もいる。その違いは、本人の問題もあるかもしれないが、両親の関わり方も関係するのかもしれないと高橋さんは考えている。

「小児がんのお子さんを持つ親御さんは、大変な病気だけに過保護、過干渉になりがちなんです」と高橋さんは言う。だからこそ、小児がんの子を持つ親には「子どもがひとりになったときはどうするの?」と問うようにしている。

「もしも聖子が生きていたら、私だってはらはらどきどきして、心配は一生尽きなかったと思います。でも、ずっと世話をできるとは限りませんし、本人自身が自立してどう生きていくのかを、考えなければいけません」

もう一つ、自分自身の反省もふまえて、常に伝えているのが、「闘病中の子どもだけではなく、他のきょうだいともちゃんと話をして心を通じ合わせてほしい」というメッセージだ。

聖子ちゃんには兄と妹がいるものの、聖子ちゃんの闘病中、家と病院との往復で精一杯だった高橋さんは、特に「お兄ちゃん」に関しては「『お兄ちゃんだから大丈夫』と勝手に思い込んでいました」。

間違いに気づいたのは、聖子ちゃんが亡くなって数年経ってからのことだ。「息子さんが万引きをしました」。中学校から連絡があり迎えに行くと、息子は職員室に座らされていた。

「息子を叱りながら、はっとしました。聖子との生活に一所懸命で、息子の寂しさに気づいていなかったんです。そのことにようやく気づいて、この子が私から離れていってしまう前に心を取り戻さないといけないと必死になりました」

家に戻って、ごろっと横になった息子の横に嫌がられながらも寝転がり、「お母さんはあんたの気持ちをわかっていなかった。ごめん」と泣きながら詫びると、ふてくされていた息子の目から涙がこぼれた。

そんな息子さんは、今では立派に家業を継いでいる。

子どもたちは立派に成長し、家業のことも安心して任せられる今、「老後の生活設計はできていますし、自分の私財は全部小児がんのことに費やしていいと家族に了解をもらっているんです」と高橋さんは笑う。

スマイルファームはまだ始まったばかりだ。「働きたいけれど働けない小児がん経験者はまだたくさんいるはずです」。自立支援の問題にまだゴールは見えない。きっと高橋さんはこれからも小児がん経験者や親たちと話をしながら、課題を見つけては一つひとつ取り組んでいくのだろう。

きょうだいのことも忘れないで

Source URL: https://www.novartis.com/jp-ja/dont-forget-your-siblings

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