「治癒の質」という課題

「治癒の質」という課題

「治癒の質」という課題


小児がんで生じる晩期合併症は、大きく4つに分けることができる。

一つは、心臓や肺、腎臓、内分泌機能などに直接臓器に及ぶ影響だ。心臓に負担をかける薬を多く使えば、心機能不全が起こりやすくなり、内分泌に負担を与える薬を多く使えば内分泌障害が起こりうる。ただし、「これらは大人のがんでも起こること」と石田さんは言う。

一方、一般に「がん年齢」と言われる60代、70代のがんと比べて小児がんに特徴的な晩期合併症は、成長・発達への影響、不妊などの生殖機能への影響、二次がんの3つがあげられる。

小児がんの子どもたちは、まさに成長・発育ざかりの時期に治療を受けるため、身長が伸びない、骨が伸びない、足の長さが左右で異なるといった身体への影響が出たり、通常の学校生活を十分に経験できず社会性が身につきにくいなど心理社会面への影響を受けたりすることがある。

また、二次がんは、がんが治った後、20~30年経ってから発症することがある。そのため60代、70代であればあまり問題にならないが、小児がん経験者にとってはまさに働きざかりの時期に二次がんの心配があるわけだ。不妊などの問題にしても、同じことが言える。

「子どもたちの場合、治ってからの人生の方が長いのです」。石田さんは言う。
5歳で小児がんにかかって、2年間治療を受け、10年後に主治医から「治癒しました」と言われたとしても、まだ17歳だ。その先には、就職や結婚、出産などの人生の中で最も大きなイベントもあるだろうし、それまでの何倍もの長さの人生が待っているだろう。

「治ってからの人生の充実が大切で、ただ治すだけでは不十分では――。小児がんの治療に携わって20年近くが経ったとき、ふとそう思ったんです」

10年ほど前から石田さんは、「治癒した後の人生の質」を重視し、診療、研究を行っている。


Source URL: https://www.novartis.com/jp-ja/quality-healing

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