原点となった患者さん

原点となった患者さん

原点となった患者さん


病院での診療以外にも、小児がん経験者でも加入できる医療共済「ハートリンク共済」や、小児がん経験者の就労支援を行う「ハートリンクワーキングプロジェクト」など幅広い活動に関わっている、石田さん。

小児がんを専門とすることを決めたのは、「研修医時代に一番印象的だったのが、小児がんの患者さんだったから」だ。

まだ3歳くらいの女の子だった。「小児がんは治らない」と言われていた時代だったが、「どうにか治したい」と考えた石田さんは国内外の論文を読み漁り、その時点で最善と考えられる治療を行った。しかし、強い治療には合併症がつきものだ。同じ病棟には、同僚が担当する同じ病気の子どももいたが、明らかに石田さんが担当していた女の子の方が治療中にさまざまな合併症や副作用を経験した。
「『なんでこんな強い治療をするんですか』『なんでこんなにつらい思いをさせるのですか』と、親御さんには半分恨まれながらも、『治したい』という一心でした」

結果的には、石田さんが受け持っていた子はなんとか病気を乗り越えて退院し、同時期に治療を受けていたもうひとりの子は、残念ながら亡くなった。

「結果論なので、比べることはできません。でも、なかなか治らないと言われていた時期だったからこそ、とても印象に残っています。そのときには何の経験もなく、論文から情報を集めることしかできなかったので、もっと多くの経験を積んで、しっかり治せる医師になりたいと思ったんです」。それが、小児がんをめざそうと決めた理由だ。

石田さんが小児がんの専門医になるきっかけとなった、その女の子は成人し、今では30歳を超えているはずだ。
「音信不通になってしまいましたが、強い治療をしたのでいろいろなことで苦労していなければいいのですが…」と石田さん。「10年、20年後、困ったときに手助けすることも、治療をした我々の責任ですから」。

これまで石田さんが主治医としてかかわった小児がんの子どもたちは200人以上に上る。そのほぼ全員と連絡が取れる関係を保っており、妊娠や出産などの節目のタイミングで相談や報告の連絡をもらうこともしばしば。

「子どもは常に成長し、無限の可能性を持っています」。小児科を志した原点である“無限の可能性”を広げるべく、これから治療を受ける子どものために長期的にも問題が起こらない治療を考えること、そして今なお治癒が難しい一部のがんを治す方法を考えること。一方で、すでに治療を受けた人のために、起こりうる合併症を未然に防ぎ、健康で充実した生活が送れるようにフォローすること。それが、今の目標だ。

原点となった患者さん

 (2012年9月)


Source URL: https://www.novartis.com/jp-ja/patient-who-became-origin

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