何もできていない・・・ もどかしさから始まった「One worldプロジェクト」

何もできていない・・・ もどかしさから始まった「One worldプロジェクト」

何もできていない・・・
もどかしさから始まった「One worldプロジェクト」


ちょうどその頃、東北大学病院では通常の外来を少しずつ再開していた。同時に、抗がん剤の治療も始まった。患者さんのなかには、避難所や仮設住宅から通う人もいた。

抗がん剤治療を受ける患者さんが次第に増えるなか、化学療法センター内での調剤を担当していた北村さんは、患者さんと直接話す機会も多く、「家族を流された」、「家は浸水して、もう土台しか残っていない」、「夫の遺影も子どもたちの思い出も何にも残っていない」・・・、そんな話を多く耳にした。

被災地の支援には1日しか行けなかったし、私は何もできていない。
今の自分に何かできることがあるんじゃないか——?

ある時、抗がん剤治療を受けた患者さんに薬の説明をしていた時のこと。

「そろそろ髪の毛が抜ける時期ですよね?」と聞くと、それまではバンダナを外したことのなかった患者さんが、「病院だから脱げるけど・・・」と北村さんの目の前でバンダナを外してくれた。「抜けるということはわかっていた。でも、こんなになっちゃった」。

別の乳がん患者さんは、「ごめんね。今日、臭いんだ」と言って病院に来た。「どうして?自衛隊が入浴サービスを始めているでしょう?」と聞くと、「おっぱいがないから、見られるのは嫌だ」という。

北村さんは、乳がんで片方の乳房を摘出した祖母が、いつも詰め物をして隠しているのを見ていた。

普通の下着すら足りていない、着替える場所も確保されていない、そんな状況で、乳がんの患者たちはどうしているのだろう。そう考えたときに、「私にできるのは、これかな」と思った。

「カツラが足りない、がん患者用の下着も足りない」。がん患者さんの就業支援などを手がけるキャンサー・ソリューションズ代表取締役の桜井なおみさんに、北村さんが電話でぼやいたのは4月7日のこと。それからすぐにプロジェクト「ONE WORLD」が動き、4月17日には第一便として、カツラや帽子が北村さんのもとに届いた。趣旨に賛同してくれたがん患者さん、メーカーから寄せられたものだ。

東北大学病院薬剤師 何もできていない・・・もどかしさから始まった「One worldプロジェクト」

カツラを永久“レンタル”にしたのは、「カツラに依存するのではなく、自分で次の一歩を踏み出してほしかったから」。

「カツラは、治療が終わるまでの間、その人らしさを保持するためのもの。使い続けるのではなく、『もうこれは要らない!』と、次の自分に進むために手放してほしい。髪の毛を変えることで気持ちの切り替えにもなる。同じところに立ち止まっていてほしくはないので、あくまでもレンタルで、要らなくなったら返してもらおうと考えていました」


Source URL: https://www.novartis.com/jp-ja/nothing-been-done -one-world-project-started-frustration

List of links present in page