元気に部屋を出る患者の後ろ姿を見ている

元気に部屋を出る患者の後ろ姿を見ている

元気に部屋を出る患者の後ろ姿を見ている


石巻赤十字病院が通常業務を取り戻し始めたのは、3月29日頃からだ。佐藤さんも、もともとの担当である療養支援室の仕事に戻った。

療養支援とは、病気で不安に思うこと、悩んでいること、治療中の生活や治療費の心配などについて、患者さん本人、あるいは家族、友人などの相談に乗る仕事だ。なかでも多いのが、がんの患者さんからの相談という。

震災後は、震災前まで病院に通院していた患者さんが安否を知らせに来てくれたり、「診察がなくなったけれど、いいのかな」、「薬がなくなったんだけど、どうしよう」と相談に訪れたり、なかには、「病院の人たちは大丈夫ですか?」と心配して立ち寄ってくれる人もいた。

がん患者さんのなかには、自分ががんであることを悟られたくないと、周囲に隠している人も多い。避難所生活を強いられている人のなかには、気持ちを吐き出す場所として、療養支援室に立ち寄る人もいた。そんな時、佐藤さんは、1時間、2時間と話を聞くこともあった。被災のときのこと、今の生活、親戚のこと・・・、話は尽きなかった。

東北大学病院の北村奈央子さんから、「被災地のがん患者に、医療用カツラや帽子、乳がん患者用の下着を届けるプロジェクトを立ち上げました」と電話がかかってきたのは、4月下旬のことだ。もし必要であれば石巻赤十字病院にも送りたい、という申し出の電話だった。

「神様からの頂き物だなと思いました」と、佐藤さんは言う。

石巻赤十字病院看護師 元気に部屋を出る患者の後ろ姿を見ている
「患者さんの状況を聞いていて、本当に神様から頂き物だと思った」。One worldプロジェクトで届いた、医療用カツラや帽子。提供:北村奈央子さん(東北大学病院)

実際、カツラや下着を手にした患者さんたちは、喜んで帰っていった。「患者さんの喜ぶ姿を、自分一人で独占して申し訳ない」と思うほどだった。療養支援室で相談を受けるとき、佐藤さんはいつも、患者さんが部屋から出て行く後ろ姿を見るようにしている。扉を開けて入ってくるときに比べて、元気になっているか、気持ちが落ち着いているかを見るためだ。

「試してもいいですか?」とブラジャーをつけてみた患者さん、自分に合うカツラを選んで鏡を覗き込んだ患者さんは、だんだん背筋が伸び、最後には「このまま帰りますね」と、笑顔で帰っていくという。その後ろ姿は「ピッと背筋が伸びているんです」。

「本当にいい仕事をさせていただいています」。患者さんの幸せそうな後ろ姿を見るたびに、佐藤さんはいつも感謝の気持ちでいっぱいになる。


Source URL: https://www.novartis.com/jp-ja/looking-at-back-patient-leaving-room-energetically

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