復興に向けた新たなアクション

復興に向けた新たなアクション

復興に向けた新たなアクション


未曾有、想定外といった言葉で語られる東日本大震災。石岡さんが強く感じたのは、ネットワークの大切さだった。

医師数の多い東北大学病院では、普段から、1日単位、あるいは1週間単位などで、県内の他の病院に医師を派遣していた。津波の被害に遭った海沿いの病院にも常時、30人以上の医師が派遣されていた。そうした医師たちが震災当日に戻ってきて状況を報告してくれたため、どこの病院が機能しているのか、あるいは機能していないのか、いち早く生の情報が集まった。

「電話はまったく通じませんでしたが、人の行き来がもともとあったことが、非常に役に立ちました」

その後の医療チームの派遣にしても、がん医療に関するアンケート調査にしても、大学の“縄張り”を越えて活動が広がったのは、「東北がんネットワーク」、「宮城県がん診療連携協議会」、「NPO法人東北臨床腫瘍研究会」など、がん医療に携わっている病院同士、医療者同士のネットワークが以前から構築されていたという基盤があったからこそだ。

東北大学病院腫瘍内科長 復興に向けた新たなアクション

最近の医療界では、「チーム医療」という言葉がよく使われる。いろいろな職種のスタッフがそれぞれの専門性を発揮しながら一人の患者さんの治療にあたるというスタイルだ。

「がん医療の現場では、チームで診ることが定着しています。それは、災害の現場でも同じ。医者だけでは、できることに限りがあります。被災地全体の情報を収集できるようなネットワークは不足していましたが、チーム医療が浸透していたことは震災時にも大いに役立ちました」

一方で、石岡さんにとって心残りだったのは、「現場に行って、困っている人たちを直接助ける医療ができなかった」こと。科長という立場にある石岡の役割は、20人以上いるスタッフを取りまとめることであって、自分自身が現場に行くことではない。「自分が若いときに、なぜ、医者をめざしたのかを思い返すと、皆に指示をしているだけというのは本意ではないのですが、全体をみる役割も必要ですから」

ちなみに、石岡さんが医師をめざしたのは、がんの診断学を専門としていた父をみていて、「自分はがんを治す医師になりたい」と考えたから。「かっこいい外科医になるはずが、いつの間にか、内科医になっていましたが」と笑う。

今や、目の前のがん患者さんを治療することだけではなく、東北地方全体のがん医療を考えるようになった石岡さんは、震災からの復興、そして震災前から変わらずに横たわる医師不足という問題解決に向けて、新たなアクションを始めている。

「どんどん先に進んでいます」。厚生労働省の科学研究費を得て進めているのが、地域の専門医療人の育成、がん医療空白地域への医療職の派遣、がん拠点病院間、患者会とのネットワーク強化といったプロジェクトだ。

「我々も被災者なので、被災地を救援するというよりは、我々自身も復興しなければいけないので、必死です」。

東日本大震災が残した爪跡は大きい。しかし、さまざまな場所で、さまざまな形で、確かな一歩が踏み出されている。

(2011年12月)


Source URL: https://www.novartis.com/jp-ja/new-actions-reconstruction

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