新たな遺伝子制御療法の探索に向けた連携

ノバルティスとSangamo Therapeutics社は、神経発達疾患の治療法の可能性を追求することを計画しています。

Jun 23, 2023

ノバルティスは、神経発達疾患に対する遺伝子調節療法の可能性を探索するため、Sangamo Therapeutics社と研究開発提携を結びました。両社の独自の技術プラットフォームを活用することで、生涯にわたり進行する疾患に対する革新的な治療法の進展を促進します。

Sangamo社は、特定のDNA配列を標的として、転写の調節により特定の遺伝子のスイッチをオン/オフできるよう設計することが可能なジンクフィンガー蛋白質の研究で有名です。ノバルティスは、遺伝子を体内の特定の細胞に運ぶように設計できるアデノ随伴ウイルス(AAV)について深い経験を有しています。この3~5年にわたる共同研究では、ジンクフィンガー蛋白質転写因子(ZFP-TF)とAAVを活用します。Novartis-Sangamoチームは、神経学において3つの標的を追求します。

ノバルティスバイオメディカル研究所の責任者である Jay Bradnerは次のように述べています。「神経発達疾患を有する患者さんのための新薬が切実に必要とされており、遺伝子治療はこれらの患者さんを救う有望な可能性を秘めています。Sangamo社のチームと協力して、同社の新しいZFP-TFプラットフォームと当社のAAVプラットフォームを組み合わせることで、これまで創薬が困難であった遺伝子標的に到達し、次世代遺伝子治療を革新していく予定です」

ノバルティスは、AAVを使った遺伝子補充療法、T細胞を遺伝子改変して体内に戻すCAR-T細胞療法、遺伝子改変技術であるCRISPRなどなど、いくつかの異なる遺伝子治療プラットフォームにおいて、その能力を拡大し続けています。 Sangamo社との共同研究により新たなゲノム技術プラットフォームが導入され、ノバルティス AAVの有用性が高まることが期待されます。

AAVは自然界に存在するウイルスで、病原性がないと言われています。AAVは組織によって親和性が異なるため、体内の細胞の正確な位置に遺伝子を運び届けるように設計することができます。ノバルティスは、単一遺伝子変異を有する患者において、欠陥遺伝子の機能を置換するためにAAVを使用することに着目しています。ノバルティスグループのAveXisは、AAV9と呼ばれる特定の種類のAAVを、中枢神経系内の標的細胞まで遺伝子を運ぶよう最適化しました。このAAV遺伝子送達媒体は、脊髄性筋萎縮症と呼ばれる進行性の神経筋疾患を有する患者に対して承認されている遺伝子治療のバックボーンです。

AAVには遺伝子治療に適した多くの利点を持っていますが、欠点としては大きな遺伝子を運ぶことができないことが挙げられます。しかし、ノバルティスとSangamo社の共同研究により、大きな遺伝子の片方のコピーに生じた変異に起因する疾患もターゲットとすることが可能になりました。

ノバルティスバイオメディカル研究所の神経科学部門責任者であるRichardo Dolmetschは次のように説明します。「ZFP-TFの遺伝子はAAVの中に収まるほど小さいです。それを利用すると、まだ片方のコピーが無傷の場合には、大きな遺伝子の産生を増やすことができます。多くの疾患は遺伝子の片方のコピーの欠損が原因であるため、これにより、遺伝子治療の標的となり得る疾患の範囲が劇的に拡大します」

研究者たちは、長年にわたり、哺乳類のZFP-TFを用いて実験室で遺伝子を制御してきました。現在、ジンクフィンガーヌクレアーゼを含む、いくつかのジンクフィンガーベースの治療法が臨床試験中です。Sangamo社のZFP-TFは、それぞれ極めて特異的かつ選択的な方法でゲノムDNAの標的領域に結合するように設計されています。さらに、ZFP-TFは調整可能性が高いため、標的遺伝子の発現を様々な程度に正確に調節するように設計することができます。ZFP-TFは標的を特定した後、遺伝子のオン/オフの切り替えを助ける多数の他の蛋白質をリクルートします。

Novartis-Sangamoチームは、自閉症スペクトラム障害を含む複数の疾患に対する潜在的な新しい治療法を特定すべく取り組んでいます。

2020年7月30日時点の情報です。

Richardo Dolmetsch 2020年現在の所属