アジアの保健衛生の専門家ら、マラリア撲滅の最後の一押しを呼びかける

2030年までには死亡する危険性の高い種を排除できる可能性があるものの、依然として大きなハードルが残っています。

Apr 24, 2020

南アジアおよび東南アジアの保健衛生の専門家たちは、今後10年以内にマラリアを排除する目標の達成にむけ、持続的な活動を呼びかけています。

そして、新たな報告書の中では、大きな課題が解決されなければ、この目標は達成できないだろうと警告しています。とりわけ、僻地で定住地を持たず移動生活を送る人々のマラリア対策が重要です。

『Malaria Futures for Asia』と題するこの報告書では、薬剤耐性をもつ寄生虫の出現、蚊の殺虫剤への耐性、熟練の医療従事者の不足、気候変動によって疾患を媒介する蚊の増殖による脅威などの問題に対処し、マラリア対策に集中し、継続して取り組むよう政府や支援者に訴えています。

「アジア地域では2030年までにマラリアを排除するべく懸命に取り組んでいます。しかし、地域の発展につれ、慢性疾患による健康被害が大きくなると、マラリア対策は国が策定する保健政策から外されてしまい、事態は急速に悪化する可能性もある」と、報告書の共同議長である、タイの元副首相であり、ロールバック・マラリア・パートナーシップ(Roll Back Malaria Partnership to End Malaria)の理事であるYongyuth Yuthavong教授、ならびにインド公衆衛生財団の会長であるK.Srinath Reddy教授は述べています。

死亡者数の減少

Novartis Social Businessが委託したこのMalaria Futures for Asiaの調査では、カンボジア、インド、ミャンマー、タイ、ベトナムの5カ国で、公務員、マラリアプログラムの責任者、上級研究者、そしてNGO代表の36名を対象に調査を行いました。

世界保健機関(WHO)によると、東南アジアはマラリア症例の5%を占めており、前年に同様の調査が行われたアフリカに次いで、世界で2番目にマラリアの影響が深刻な地域となっています。

東南アジアにおけるマラリアによる死亡者数は2010年以降半分以下に減少しましたが、2017年には依然として1万9,700人がマラリアで死亡したと推定しています。

報告書では、東南アジア地域の症例のほぼ63%の原因となっている熱帯熱マラリア原虫は、WHOの目標に沿って2030年までに排除できる可能性があると結論付けています。しかし、診断、検査と治療がよりさらに難しい三日熱マラリア原虫については、排除が可能であると確信している回答者は半分以下にすぎません。

カンボジアのパイリン地区にあるKrachapleu村でマラリアの教育セッションが開かれました。検査結果が陽性だった女の子はその場で治療を受けました。こうした教育セッションはほぼ1か月に1回、30分から1時間かけて行われています。

移動生活を送る人々への支援

2030年までにマラリアを排除するために大きなハードルとなるのは、遠隔地域で移動生活を送る人々です。こうした人々は、マラリアの予防、診断、治療に向けた取り組みにおいての懸念材料となります。耐性を拡大させ、病気の排除を妨げる可能性があるからです。

たとえば、カンボジアの回答者の一人は、森林労働者が特に心配であると述べています。「彼らは不法入国者なので、人前に出るのを嫌がる。そのため、殺虫剤浸潤蚊帳(殺虫剤で処理されたベッドカバー)の配布やマラリアに関する教育の提供は難しい」

報告書では、殺虫剤で処理したハンモックなど、新たな取り組みやツールが必要であると説いています。そして、頻繁に国境を超えて移動する人々に対応するには、地域的な戦略とサーベイランスが不可欠であることを強調しています。さらに、こうした人々に接触するための現地のボランティア団体のサポートも非常に重要です。

様々な課題

Malaria Futures for Asiaの共同議長は、ドナー、地域機関、国の政策立案者、慈善団体に対して、南アジアや東南アジアの国々が直面している課題への対処を求めています。

優先事項の1つには、いくつかの国で懸案となっている、現在の標準治療であるアルテミシニン併用療法(artemisinin-based combination therapy、以下 ACT)に対する耐性の発現をモニターする、より効果的なサーベイランスの構築です。

また、もう1つの問題は、マラリア対策がますます一般的なプライマリ・ヘルスケアに組み込まれることにより、マラリアを診断・治療する技術や知識が失われてしまうことがあります。特定の研修が提供されていない限り、マラリアを発見できずに耐性問題の拡大につながっていく可能性が高まります。報告書は、発熱のある全ての人がマラリアの検査を受ける必要があり、さらに多くの医療従事者が顕微鏡下で血液サンプルの寄生虫を特定する訓練を受ける必要があると指摘しています。

そして最後に報告書では、気候変動によってマラリアの罹患率が増える可能性についてもさらなる研究が必要と訴えています。回答者の80%は、「気候変動」をリスクと認識しています。あるカンボジアの専門家は「雨の降り始める時期が早まり、長く続けば、蚊の繁殖に影響を及ぼし、蚊の増加につながる」と話しています。

Novartis Social Businessの責任者であるHarald Nusserは「報告書の調査結果は、保健システムが、増加する慢性疾患に対応しながらも、マラリア制圧への焦点を当て続ける必要性を強調している。アジア地域の国々は、引き続きその双方に注力し、プライマリ・ヘルスケア・サービスがどちらに対しても対応できるよう態勢を整わなければなりません」と述べています。

報告書の全文を読む

MalaFAsia - Malaria Futures for Asia