エチオピアにおける慢性疾患治療を協働により強化する

ノバルティスは非営利団体と連携し、糖尿病のような慢性疾患の診断と治療に関する医療従事者の教育支援をしています。

Jul 15, 2020

エチオピアの糖尿病患者の治療改善に献身的に取り組んでいるヘレン・イフター(Helen Yifter)医師の感動的なストーリーをぜひご覧ください。

エチオピアで古着商をしているカッサフン(Kassahun)にとって、糖尿病の管理は障害物競争のようなものです。彼の暮らす農村地には、糖尿病を治療できる専門医がいません。充分な管理をしなければ、心疾患や視力障害、神経障害など、他の多くの病気を引き起こしてしまう可能性があります。その為、カッサフンは公共交通機関を乗り継ぎ、はるばる300Kmも離れた首都アディスアベバにあるブラックライオン病院へ専門医の治療を受けに行きます。そのためには、何泊かホテルに泊まらなければなりません。

「地域に熟練した医師がいれば、私たち患者の負担も軽減されるのですが」、と彼は言います。

古着商のカッサフンは、糖尿病の治療を受けるため、はるばる300kmも離れたエチオピアの首都、アディスアベバまで出向かなければなりません。彼の暮らす農村地には熟練した医療従事者がいないからです。

カッサフンのおかれている状況は、エチオピアのみならず、他の多くの低所得国における大きな課題と言えます。すなわち、糖尿病や心臓病のような慢性疾患を診断し、治療できる医療従事者の不足です。エチオピアでは、この問題解決の支援のため、連邦政府が、Tropical Health and Education Trust(THET)やノバルティスと協働し、医師や看護師、地域の保健センターに対する研修を実施しています。この研修は、特に人口の80%を占める農村地を中心に、一般的な慢性疾患患者のスクリーニングを行い、治療を提供するのを目的としています。

「我々は、基本的な治療を受けることができるよう、人々がアディスアベバまで行かなくてもすむよう取り組んでいます」と語るのは、ノバルティス社会事業部門でこの協働的な取り組みを監督しているトゥー・ドー(Thu Do)です。「すなわち、住んでいるところに近い場所で患者さんをケアし、患者さんの自己負担を減らそうという取り組みです。」

より良い治療を求めるニーズは大きく、より高まっています。生活習慣の変化や高齢化により、世界中で慢性疾患への罹患率が上昇しているからです。例えば、1980年以降、世界の糖尿病患者数は4倍に増加しました。世界保健機関によれば、低中所得国の慢性疾患による死亡率は、全体の3/4を超え、若年者死亡率の85%を占めています。

それにもかかわらず、慢性疾患を治療できる医療従事者は不足しています。例えばエチオピアでは、300万人の糖尿病患者に対して、専門医はわずかの7人、糖尿病の治療を提供できる準備が整っているのは全保健施設のうち22%しかありません。その結果、多くの慢性疾患患者は病院に紹介される前に重症化してしまうのです。

やってくるほとんどの患者は、「病気がかなり進行した段階になって、失明や腎不全、脳卒中、心不全などの合併症を併発しています」と語るのは、THETのエチオピア国内責任者であるヨセフ・マモ(Yoseph Mamo)医師です。

若年者で身体に障害を背負ったり、死の危険が迫った患者さんの多くは、早期にスクリーニングを行い、すぐに治療を始めていれば、もっと早い段階で発見できたり、もっと長く生きられたはずなのです。

ヨセフ・マモ医師、THETのエチオピア国内責任者

THETは2018年、20年の経験を活かし、一般的な慢性疾患を診断し、治療できる医療従事者を増やすための支援として、エチオピアで研修プログラムを立ち上げました。このプログラムはノバルティスが資金を提供し、英国のサウサンプトン大学の医師らが支援をしています。連邦保健省が指定した15の病院と45の保健センターの医療従事者に特化して研修が実施されました。

まずは、トレーナー養成アプローチを採用し、15の施設から参加した30人のマスタートレーナーを教育することから始めました。プログラムの開始以来、このコアグループがさらに別の約400人の医療従事者の研修を実施しています。そして、研修を経験した医療従事者により、これまでにおよそ4万人のスクリーニングを行い、そのうちの約10%に慢性疾患が発見され、病院での治療を受けています。その多くの人は高血圧症(血圧の上昇)または糖尿病と診断されています。

糖尿病患者の診断と治療というテーマに関してメモをとる受講者たち。糖尿病はエチオピアで推定300万人が罹患している慢性疾患です。

「このプロジェクトは地域社会に恩恵をもたらしていると思います」と、アディスアベバにあるコテベ保健センターのデーム保健衛生官は語っています。「1年前には地域レベルでのスクリーニングは行われておらず、予防よりも治療に重点が置かれていました。今では慢性疾患の治療の質が改善し、スクリーニングの利用に対する地域社会の関心も高まっています。」

取り組む必要のあることは、まだまだたくさんあります。次のステップとして、最前線で治療にあたっている地域医療従事者の教育です。長期的な目標は、30万人の患者のスクリーニングの実施です。

また、克服すべき課題もあります。例えば、スタッフの離職率は重大な問題であり、特に地方のクリニックでは深刻です。教育を受けた医療従事者が、より良い生活を求めて別の仕事に移ってしまうのです。解決策としては、仕事を続けること、、あるいは少なくとも離職の前に自分の得た知識を同僚に引き継ぐことを約束した人を農村地ごとのリーダーとして指名するという方法が考えられます。

もう1つの課題として、医療従事者に詳細な患者記録を作成することを教育しなければなりません。これらを大規模な記録帳に入力することで、プログラムの効果の評価に役立てることができます。記録の管理には患者一人当たり15分程度の時間がかかります。医療従事者の中には、患者のケアに充てるべき時間が減ると考える人もいますので、THETは政府と協力して記録管理の合理化に取り組んでおり、電子カルテシステムの採用を提唱しています。

このようなプログラムは、エチオピアの医療システムを強化し、医療従事者が慢性疾患のある人々を特定し、急性化する前に治療をすることができるようになるものです。そして、カッサフンのような患者さんたちが治療を受けるための移動に費やさなければならない時間と費用を解消するのにも役立つはずです。